巨人超過契約金 ファンが納得するか

朝日新聞 2012年03月17日

巨人の契約金 ファンに正直だったか

新人選手を入団させる契約金について、プロ野球界が「高くても1億5千万円くらいまで」という「最高標準額」の申し合わせをしていたのに、読売巨人軍が6選手と2億5千万~10億円で契約していた。

新人選手のいきすぎた争奪戦を防ぐのが申し合わせの趣旨だった。各球団が同じ条件のもとで新人を集め、育成して戦っているはずではなかったのか。

巨人軍の説明はこうだ。

最高標準額を「上限」にすると申し合わせたのは07年だ。それ以前は「緩やかな目安」で、上限ではなかった。6選手との契約は97~04年度でいずれも07年以前だ。だから球界のルールに反してはいない――。

それで納得できるだろうか。

6選手の契約金は最高標準額の6割増しから6倍以上だ。たとえ「緩やかな目安」だとしても度を越している。

なにより、申し合わせの内容は世間に公表されてきた。「最高で1億5千万円が目安」と聞いて「10億円払ってもいい」と受け取る人がいるだろうか。

野球ファンに対して不誠実な態度と言わざるをえない。

巨人軍が選手の一人に渡したとされる文書に「球界のルールを越えて契約金を受け取ったのが判明」すると「あなたにとっても球団にとってもまずいことになる」とある。ルール違反をわかっていたとしか読めない。

07年には横浜が04年ドラフトで新人選手に契約金5億3千万円を払っていたことがわかり、日本野球機構から厳重注意処分を受けた。同じルールのもとで処分を受けた球団がある以上、巨人軍の契約に何の問題もなかったとは言えまい。

ドラフト制度は、金のある球団にいい選手が偏り、戦力と人気の格差が広がるのを防ぐものだ。だが、6選手の契約がされたころは大学や社会人の選手が球団を選べる仕組みがあった。最高標準額は契約金高騰に歯止めをかける役割がある。

巨人軍は、04年に意中の社会人選手に金を渡していたことも公表した。入団前の金銭提供はアマチュア球界を汚し、各球団の自由競争を妨げる。

球界はたびたび新人獲得をめぐる金銭問題に揺れた。04年には巨人軍など3球団が大学生選手に食事代などの名目で金を渡したことが発覚し、3オーナーが辞任した。07年には西武も不正な金銭提供で制裁を受けた。

今回、あらためて全球団について調べるべきだ。自分たちで決めたことを守らず、発覚したら開き直るのではプロ野球はますますファンを失ってしまう。

毎日新聞 2012年03月16日

巨人超過契約金 ファンが納得するか

守らなくていいような申し合わせ事項ならば意味がない。プロ野球の巨人が、12球団の総意で決めた最高標準額1億5000万円(うち出来高払い5000万円)を大幅に上回る契約金を新人選手に支払う契約を結んでいたことが朝日新聞の報道で明らかになった。「緩やかな目安であり、ルール違反ではない」という巨人の反論を聞いて、どれだけのファンが納得するだろうか。

名前が挙がったのは社会人と大学の選手が球団を自由に選択できる逆指名制度があった1998~2005年に入団した6選手で、最高で10億円の契約を結んだという。最高標準額は93年に逆指名制度が導入された際、球団間の争奪戦によって契約金が高騰することを抑えるため、申し合わせ事項として設けられた。

一部の球団が財力にものをいわせて有望選手をかき集めることは戦力の著しい不均衡を招く。高額な契約金はほとんどが赤字とされる球団経営の重しになって共倒れになりかねない。自由競争の社会にあってプロスポーツリーグの成功は「共存共栄」の精神なくして実現しない。だからこそ罰則があろうとなかろうと決めたことは守らなければならない。

最高標準額は07年8月のドラフト制度検討委員会で、最高限度額に改められ、超過した場合は野球協約違反として罰則が与えられることになった。今回の6選手はそれ以前の入団であり、罰則の対象ではない。巨人は反論文書で、「野球界のルールに反してはいない」「税務申告も適正に行っており違法とみなされる点もない」などと主張している。

1億円を上限ではなく、罰則のない最高標準額としたのは、上限を明確に規則化することについて公正取引委員会に照会した際、独占禁止法の「不当な取引制限の禁止」に抵触する可能性があるとの指摘を受けたためだった。最高標準額は実質的な上限額とみるべきで、ほとんどのファンもそう認識していたと思う。

これは巨人が主張するように「古い出来事」ではないばかりか、プロ球界全体の信用と信頼、公正にかかわる問題との認識が必要だ。

12球団は05年、連名で「倫理行動宣言」を発表した。前年に新人選手獲得に際して巨人や阪神などが裏金を渡していたことが発覚して社会の批判を浴びたことを踏まえての文書で「私たち野球人は、フェアプレーとスポーツマンシップに立ち返ることから始めたい」と宣言している。

日本野球機構の新しい定款案には「野球が社会の文化的公共財であると認識し」との文言が盛り込まれるという。その位置付けにふさわしい振る舞いが巨人だけでなく、球界全体に求められている。

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