民主党法案審査 「消費税」で安易に妥協するな

朝日新聞 2012年03月15日

民主事前審査 「51対49」の覚悟を示せ

消費増税法案に対する民主党の事前審査が始まった。

3月中の法案の国会提出に向けた閣議決定のために、欠かせない手続きである。

焦点は、党内の最大勢力を率いる小沢一郎元代表ら反対勢力の出方だ。野田政権の根幹をなす政策で、これほどの党内対立があることにあきれるが、堂々と議論すればいい。

いっそのこと、党員資格停止中の小沢氏を招き、存分に意見を開陳してもらったらどうか。

そんな徹底討論をしたうえで、野田首相は公言してきた通りに、法案を粛々と国会に提出すべきだ。

財政の健全化と社会保障の安定財源の確保は、もう先送りできない。事前協議に応じない野党とは国会で渡り合い、妥協点を探っていくしかないのだ。

党内の事前審査は、その与野党論戦の前哨戦にも見える。

法案の付則をめぐり、二つの論点が取りざたされている。

ひとつは、景気の動向次第で増税を停止できる弾力条項の表現をどうするかだ。

政府案が、さまざまな経済指標を総合的に判断するとしているのに対し、党内には「名目3%、実質2%」など、成長率の具体的な目標を盛り込むべきだとの意見がある。

確かに数値を決めて機械的に判断するのは、わかりやすい。だが、要するに「増税できない理由」を探しているだけではないか。増税の先送りは東日本大震災やリーマン・ショック級の深刻な事態に限るべきであり、政府の原案のままでいい。

もう一つの論点は、将来の再増税の道筋を付則に明記するかどうかである。

政府案は、2015年に消費税率を10%に上げたあと、「16年度をめどに必要な法制上の措置を講ずる」としている。

将来の社会保障給付の増大を考えれば、いずれ消費税をさらに引き上げねばならない事態は十分に予想される。

だが今回の増税案にすら、国民の理解が広がらないなか、ここまで財政優先の論理を振りかざす意味がわからない。行革や歳出削減が緩む懸念もある。

野党との妥協の「のりしろ」という意味合いもあろうが、まずは消費税10%の影響を見極めるのが筋だ。

法案は菅政権いらいの党内論議を反映している。いまさら、ちゃぶ台返しは許されない。

野田首相はさきの党首討論で「51対49の党内世論でも、手続きを踏んで決めたら皆で頑張っていく」と述べた。言葉通りの覚悟を示すしかない。

毎日新聞 2012年03月16日

民主党の増税協議 景気を口実にするな

与党内がこれでは、どうやって野党と協議したり国民を説得したりできるのだろう。そう不安にならざるを得ない。

消費増税法案を国会に提出する前の手続きとして、民主党が法案の「事前審査」を行っている。社会保障の財源を確保するため消費税率を10%に引き上げる方針は昨年夏に承認済みだ。いつから何%にするという具体的な計画も党内合意を経て閣議決定までされている。にもかかわらず、それに沿って作られた法案が激論の対象となり、増税の基本方針に再び異論が噴出しているのである。

主な争点は二つ。まず、増税実施の前提条件として経済成長率など具体的な数字を付け加えるかどうかというものだ。法案には過去の決定事項を踏まえ、「種々の経済指標を確認し、経済状況等を総合的に勘案した上で(実施を判断する)」とある。経済が大混乱しているような極端な状況下で増税を強行することはないとの趣旨だ。あえて書かずとも常識の話だが増税反対派に配慮した。

ところが反対派議員らはさらに「名目成長率3%」など具体的な基準の明記を求めている。社会保障という何十年単位で考えるべき問題の財源を、ある一時期の経済指標で決定づけるというのはナンセンスだ。

社会保障関連費は、基本的に人口の高齢化に伴い膨らんでいる。景気が悪くとも支出は減らない。一方の消費税収を見ると、過去約15年、不況の時も含め、ほぼ10兆円で推移している。社会保障の財源に向いている理由の一つだ。

増税時期が不確かな方が、消費者や企業に不親切である。反対派は結局、景気を増税見送りの口実に利用しているだけではないか。

もう一つの争点は消費税率を10%にした後の「さらなる改革」についてである。これも民主党が承認した「素案」やその後の「大綱」の考え方に沿ったものだ。ただ、「次」の増税が足かせになり、最初の増税まで動かないようでは元も子もない。

社会保障改革の内容をはじめ、無駄な歳出の削減や国会議員の歳費、公務員の人件費など、さらに取り組まねばならない課題は多い。しかし、それらへの対策が不十分だという理由から、すでに閣議決定した方針を後退させるのは間違いである。決めたことを実行につなげ、残る宿題を一つずつ片付けていくというのが責任ある与党の姿ではないか。

本当に将来のためになるのなら負担増もやむなし、と考える国民は少なくない。問題はその確信がなかなか得られない点にある。与党や連立内閣が、改革への強い覚悟で一致していないのを連日見せつけられる国民に、支持が広がるはずがない。

読売新聞 2012年03月15日

民主党法案審査 「消費税」で安易に妥協するな

増税反対勢力との安易な妥協は禁物だ。

民主党が、消費税率引き上げ関連法案の事前審査を開始した。関連部門会議と調査会の合同会議では、増税反対派の議員から、法案審査の進め方などに対する異論が相次いだ。

前原政調会長は、法案審査の責任者として、月内の関連法案の国会提出に向け、党内の意見集約に指導力を発揮してもらいたい。

法案了承に向けての最大の論点は、景気弾力条項である。

政府の法案概要は、「経済成長率、物価動向などの経済指標を確認し、経済状況などを総合的に勘案し」た結果、税率引き上げの停止もあり得るとしている。景気が悪化した場合、増税でさらに深刻な事態を招くのを防ぐためだ。

党内の小沢一郎元代表グループには、増税を停止する条件として、経済成長率などの数値目標を明記すべきだとの声がある。

だが、そんな数字を盛り込めば、政策遂行は大きく制約され、増税を困難にする恐れが生じる。

党執行部は、景気判断の数値目標を採用してはならない。

原案は、2015年に消費税率を10%に上げた後の「次の改革」について「16年度をめどに法制上の措置を講ずる」と明記した。

10%の消費税ではいずれ財源不足を招くとの試算を踏まえ、再増税に含みを残したものだ。ただ、まずは10%への増税を最優先するのが筋だ。「次の改革」に関する表現は工夫の余地があろう。

小沢グループには「増税より行政改革の徹底が先だ」との意見が根強い。国民に負担を求める以上、政治家が自ら身を切る姿勢を示すことは大切だが、それを口実に増税を先送りするのは無責任だ。

財政再建と行革には同時並行で取り組む必要がある。

小沢グループの議員らが「マニフェスト(政権公約)の実現が先だ」などと増税先送りを図るのは、次の選挙で落選したくないという自己保身の論理に過ぎない。

そもそも、民主党が掲げる「衆院比例定数の80削減」や「国家公務員の総人件費の2割削減」は、非現実的な公約ではないか。

消費税率引き上げに関する党内手続きは丁寧かつ慎重に進められてきた。野田首相は2月の党首討論で「51対49でも、手続きを踏んで決めたら、みんなで頑張ることを示したい」と強調した。その言葉を実践することが大切だ。

財政再建は待ったなしだ。現実的な対案もなく、増税に反対するのでは与党議員失格である。

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