予算案衆院通過へ 協調の機運を逃がすな

朝日新聞 2012年03月09日

予算衆院通過 「消化試合」は許されぬ

新年度予算案が、きのう衆院を通過した。参院で否決されても、憲法の規定で衆院の議決が優先されるため、4月初旬までの成立が確実になった。

野田政権は「ひと山越えた」という感じに違いない。

しかし、予算案の問題点は、まったく改善されていない。これからの参院の審議での修正・組み替えを改めて強く求める。

たとえば、整備新幹線の未着工3区間や八ツ場(やんば)ダム本体工事の着工、東京外郭環状道路の建設再開である。社会保障と税の一体改革で、国民に消費増税をお願いしようというときに、大型公共事業を次々に並べる感覚が理解できない。

交付国債という手法も「粉飾まがい」だ。国債発行額を少なく見せるため、基礎年金の国庫負担率を2分の1に維持するのに必要な2兆6千億円分を、別枠で手当てする。だが国債を減らしたいなら、そのぶんの歳出を削るのが筋だ。

自民、共産、みんなの各党の予算案の組み替え動議を、与党は一蹴した。だが、もっと柔軟に修正に応じるべきだ。そうしないと、衆参ねじれ国会は、また動かなくなる。

野党も責任の重さを自覚してほしい。自民、公明両党は予算案本体には反対したが、地球温暖化対策税の導入などを盛り込んだ税制改正法案など4法案には賛成した。

国民生活への影響を考えて、政策の中身で賛否を決めたことは、率直に評価する。

一方で、赤字国債を発行するための特例公債法案には、相変わらずの反対姿勢だ。昨年は、この法案を「人質」とし、菅首相の「退陣予告」後の8月末まで成立がずれ込んだ。

ここは冷静になろう。現状の税収では、赤字国債なしに予算は組めない。しかも、これほどの借金財政は、自民党政権が招いたものではないか。

予算案に反対する以上、この法案にも賛成しないという理屈はわかる。けれど、廃案にはしない穏便な策を練るのも野党の度量の示し方ではないか。

野田首相と谷垣自民党総裁の秘密会談が報じられて以降、永田町では「話し合い解散」が話題だ。しかし、増税法案が提出されてもいないのに、解散風に浮足立つなど、あり得ない。

いま与野党が率先して取り組むべきは、社会保障の具体策と財源論をめぐる徹底討論であり、その政策の実現だ。

参院の予算審議での真剣勝負を期待する。どうせ予算は成立するのだからという「消化試合」など見たくない。

毎日新聞 2012年03月08日

予算案衆院通過へ 協調の機運を逃がすな

2012年度予算案が8日衆院を通過、遅くとも4月6日までに成立する運びとなった。今後、国会の焦点は税と社会保障の一体改革問題の行方にいよいよ絞られる。

民主、自民両党に接点を探る動きがここにきて出てきた点は評価できる。だが、民主党内が混乱していては、せっかくの協調機運も生かせまい。月内に予定する消費増税法案の閣議決定に向け、野田佳彦首相には党内調整への全力投球を求めたい。

赤字国債を発行するための特例公債法案について与党は前年と同様、本予算と切り離して処理することにした。衆参ねじれの下、予算関連法案が野党側の「人質」となり、国会の混乱要因となるパターンが定着しかねないことを危ぶむ。

一体改革についても結局は与野党協議が実現しないまま、消費増税法案の提出に政府は踏みきらざるを得ない状況だ。だが、首相と谷垣禎一自民党総裁がさきの党首討論で建設的な政策論争を展開したことはこう着気味の与野党攻防の雰囲気を変えるきっかけにはなったようだ。

両氏は討論に先立ち、極秘会談を行ったとされる。民主、自民両党には密室談合として批判する声もあるが、2大政党に目立った対話のパイプがないまま国会の不毛な状態を放置する方が罪は大きい。両党首の判断をいちがいに否定できない。

自民党では茂木敏充政調会長が消費増税法案に協力する可能性を示唆したり、同党が求める衆院解散と引き換えに協力するいわゆる「話し合い解散」を容認する声も広がりつつあるようだ。野田内閣が掲げる最低保障年金制度などのビジョンが生煮えなのは事実だ。こうした点を与党が率直に改めれば、決して歩み寄りが困難な状況ではあるまい。

ただ、国会で成果を生むには、政府が消費増税法案の閣議決定にこぎ着けることが当然の前提となる。

民主党では小沢一郎元代表が法案への反対姿勢を明確にしているが、党内抗争にかまけて混乱を拡大する状況ではない。党の了承抜きで法案を決定すれば、国会の採決で混乱する火種をそのまま抱え込む。首相は法案への理解を党内に十分浸透させたうえで自らが直接、小沢元代表に対する説得に乗りだすべきだ。

予算案の通過を受け、与野党にはより機動的に懸案に取り組む責任もある。国会議員の歳費削減などを速やかに実現しなければならない。

違憲、違法状態にある衆院小選挙区「1票の格差」問題も「0増5減」の緊急是正を先行させる必要性は明らかだ。目の前の課題に着実に答えを出していくことが、一体改革問題を建設的に決着させる環境を整えるうえでも重要である。

読売新聞 2012年03月09日

予算案衆院通過 与野党協調の機運を大事に

2012年度予算案が与党などの賛成で衆院を通過した。4月6日までの成立が確実だ。復興関連予算も多い。早期に執行できるよう参院の審議を急ぐ必要がある。

ただ、赤字国債発行を可能とする特例公債法案は、自民党などの反対で成立のめどが立たない。

昨年、特例公債法の成立は8月にまでずれ込んだ。自公両党は今年もまた、特例公債法案を政府・与党を揺さぶるための“人質”としようとするのか。そんな国会戦術は、やめるべきである。

日本の経常収支は1月、赤字に転落した。こうした状況が続けば、国債の安定的な消化に対する懸念が生じかねない。政治の停滞で、国債の信認が揺らぐことは避けなければなるまい。

一方、野田首相と自民党の谷垣総裁が2月に極秘に会談していたことが判明した。衆参ねじれ国会の下、2大政党の党首が非公式であれ、意思疎通を図り、信頼関係を築こうとする意義は大きい。

与野党に協調の機運が生まれてきたことと無縁ではなかろう。

税制改正関連法案は、自公両党が賛成して衆院を通過した。成立すればエコカー減税の延長など景気テコ入れ策が実現する。両党の判断は適切と言える。

派遣労働の規制に関する労働者派遣法改正案や、原発事故からの復興を支援する福島復興再生特別措置法案も、与野党の歩み寄りで、衆院を通過した。

これらを足がかりに、与野党は社会保障と税の一体改革に取り組まねばならない。

首相にとって問題は、野党だけでなく、民主党内にもある。

小沢一郎・元代表のグループなどが、景気回復の遅れなどを挙げて消費税率引き上げ関連法案の国会提出に反対する構えだ。「国民の理解が得られない。大改革するという政権交代時の初心を忘れている」と首相を批判している。

どういう魂胆なのだろうか。

民主党は、政権公約(マニフェスト)で、無駄遣いをただせば、巨額な財源を捻出できると主張したが、実現できていないではないか。マニフェストの破綻は、もはやだれの目にも明らかである。

しかも、消費税率の引き上げ方針は民主党が、党内手続きをきちんと踏んで決定してきた。

財政は政権交代前よりも悪化している。国民の理解が得られないと安易に増税から逃げるのではなく、財政健全化を図るために増税の必要性を訴え、国民を説得するのが与党政治家の務めだろう。

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