中国全人代 安定成長路線への転機

朝日新聞 2012年03月06日

中国経済成長 「7.5%」を歓迎する

格差や腐敗、環境破壊という負の副産物をまき散らしながら高度成長してきた中国。それがようやく、社会の安定を重視する成長へと転換をめざすことになった。歓迎したい。

中国の全国人民代表大会(全人代)が5日、北京で始まった。温家宝(ウェン・チアパオ)首相は、12年の経済成長率目標を7.5%とすると表明し、05年から7年続けて掲げてきた「8%前後の成長」の旗を取り換えた。

温首相は成長目標を下げた理由として「長期にわたって一層高水準で、より良質な発展につなげるためである」と述べた。

胡錦濤(フー・チンタオ)国家主席と温首相が率いる「胡温体制」は、今年秋の共産党大会と来春の全人代を経て、次の体制と交代する。今年の全人代は、総仕上げの政策を決める場となった。

中国の経済規模は現体制の約10年間で、4倍に急拡大した。しかし、その一方で、貧富の格差の拡大や不動産バブル、環境の悪化などを招いた。

米国金融危機の影響を避けるために始めた景気刺激策は、必ずしも必要ではない公共工事ラッシュを招き、今は地方政府の不良債権となっている。

そういったゆがみを正すために、温首相は輸出入の伸び率の目標を昨年の2割超から「10%程度」に下げると明言した。

そして、人々の収入増で消費を拡大し内需主導の成長をめざすため、経済成長率と同じペースで1人あたりの収入を増やす方針を確認した。

いずれも、いびつな高成長路線から抜け出す策として評価できる。ただし、中国のひずみは成長政策だけが原因ではない。

たとえば、当局が管理する人民元相場である。

欧米からは切り上げを求める声が相次ぐが、温首相は「管理変動相場制の柔軟性を強める」と述べるにとどまった。

人民元安は輸出依存を強めかねないし、資金があふれ資産バブルの恐れも増す。はじけて最大の被害を受けるのは中国であることを忘れてはならない。

一方で、幹部が工事の入札などの経済活動に介入する例があとを絶たない。

温首相は取り締まりを強めると表明したが、それだけでは足りない。背景には党がすべてを決めるという政治体制があり、その改革が急がれる。

成長目標を下げたことで、日本など関係の深い国の経済に悪影響を与えるのでは、という心配もあるだろう。しかし、中国社会が安定した成長を続けることが、長期的には国際経済に好影響を与えるはずである。

毎日新聞 2012年03月06日

中国全人代 安定成長路線への転機

中国の国会に相当する全国人民代表大会(全人代)が開かれ、温家宝首相が政府活動報告を行った。

温首相は今年の経済成長率の目標を7・5%に引き下げた。8%を割るのは04年以来だ。高度成長路線を続けてきた中国が安定成長路線へ転換することを意味する。世界第2の規模になった中国経済が、失速せずに内需主導型の安定成長の軌道に乗れるかどうかは、日本にも大きな影響を及ぼすだろう。

胡錦濤国家主席と温首相の「胡温体制」が成立したのは03年。今年は胡温体制にとって最後の全人代となる。この間、「保八」(8%成長死守)のスローガンを掲げて、国内総生産(GDP)で日本を追い抜いた。さらに、経済成長率を上回る伸び率の予算を宇宙兵器やミサイルなどに投じ、覇権国家である米国が脅威を感じるほどの軍事大国になった。

しかし今年秋の共産党大会で胡主席は党総書記の任期が切れる。後任には習近平国家副主席が内定している。来年の全人代で習氏が国家主席、李克強副首相が首相になるという。

今年の全人代は、胡温体制から習李体制へのバトンタッチ・ゾーンの始まりだ。8%成長時代の終わりを告げたことは象徴的だ。「保八」の代わりに「穏中求進」(安定の中で進歩を追求する)のスローガンが掲げられた。

社会主義市場経済という中国独特のシステムは、高度成長をもたらしたが、代償として社会に不安定をもたらした。共産党高官と国有大型企業幹部の汚職横行は共産党や政府に対する信頼を低下させた。共産党権力支配のもとで不公平な富の分配が続き、土地や家屋が収奪された。企業による環境汚染は放置され、抗議する庶民の人権は軽視された。

中国社会全体の不安感が高まった。車にひかれた幼児を通行人がだれも助けなかった事件がきっかけで、中国の道徳崩壊が論じられているのもそんな風潮を代表している。

胡主席はずっと「和諧(わかい)社会」(調和のとれた社会)を主張し、社会福祉の充実や貧富の格差の縮小を目指してきた。温首相も最も熱心に政治体制改革を訴えてきた指導者だ。だが、それがほとんど実現していない。皮肉にも高度成長の代名詞となった高速鉄道の名称が「和諧号」だった。

安定成長への転換は、社会の安定を保つために避けられない政治的選択だった。

しかし、失業問題の深刻化や地方財政の悪化などの懸念材料もある。党指導部内でも、機動的な景気刺激策を主張する議論があるという。しかも党大会を前に権力抗争が激しい時期だ。温首相が最後に指導力を発揮できるか、未知数だ。

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