米朝核合意 ウラン濃縮停止を見極めたい

毎日新聞 2012年03月02日

米朝核協議合意 さらに一歩踏み込め

北朝鮮の核施設が集中する寧辺(ニョンビョン)で続いていたウラン濃縮活動が、一時停止されるという。先週、北京で行われた米朝高官協議で合意し、両国が同時発表した。

一時停止は北朝鮮の核実験と長距離弾道ミサイル発射実験にも及ぶ。これらは一応歓迎できる合意だ。

しかしクリントン米国務長官が述べた「正しい方向へのささやかな第一歩」という表現さえ、割り引いて聞くべきなのかもしれない。

北朝鮮の発表はウラン濃縮などの一時停止について「実りのある(米朝)会談が行われる期間」と限定した。利益がなければ再開するという威嚇を含む条件だ。

6カ国協議が実現すれば、北朝鮮に対する「制裁解除と軽水炉提供」が優先的に協議されるとの、勝手な見通しも示している。

さらに、米国は北朝鮮がプルトニウム型の核兵器開発に使ってきた原子炉など関連施設の無能力化確認にも同意したと発表したが、北朝鮮側は言及していない。

国際原子力機関(IAEA)の査察官による監視の受け入れは発表に含まれているものの、ウラン濃縮活動の一時停止に関する分野に限るという意味にも読める。

また、05年の6カ国協議で合意された「北朝鮮はすべての核兵器および現存する核計画を廃棄する」との確約を含む共同声明について、米朝双方が履行の意思を再確認したというが、その実現に向けて展望が開けたというわけでもない。

むしろ米国ではブッシュ政権時代から「北朝鮮の核廃棄は当面、不可能だ。テロ組織や危険国家への核拡散を防げればそれでよい」といった見解が強まっていた。日本としては受け入れ難い考え方だ。

日米韓3国政府は今回の合意を前向きに評価している。米国は11月、韓国では12月に大統領選があり、北朝鮮による軍事挑発などは回避したい。日本も、いずれ拉致問題の進展などを図るためには交渉できる環境作りが必要だ。そうした思惑は理解できる。

しかし、あくまでも北朝鮮の完全な核廃棄を実現するという目標は、断固として堅持せねばならない。寧辺のウラン濃縮施設以外にも同様の施設が存在する可能性が高いという現実も見据え、根本解決への道を切り開く努力を続けるべきだ。

先に触れた通り、米朝の発表には食い違いがある。真相は今のところ不明だが、口頭で合意しても文書化されていなければ北朝鮮は履行しない。今後も継続する協議で、米国は「ささやかな一歩」にも慎重を期しつつ、北朝鮮の「瀬戸際外交」をはね返してもらいたい。

読売新聞 2012年03月02日

米朝核合意 ウラン濃縮停止を見極めたい

北朝鮮の核開発に歯止めをかけることにつながるのか。重要なのは、合意した措置を確実に実行することである。

米国と北朝鮮が、先週、北京で行った協議について、北朝鮮がウラン濃縮活動などを一時停止する一方、米国は24万トンの食糧支援を実施することで合意した、と発表した。

発表まで約1週間たったのは、合意内容の点検や関係国との調整が必要だったためと見られる。

米政府によると、北朝鮮が停止するのは、長距離ミサイル発射、核実験、ウラン濃縮活動を含む寧辺での核活動だ。北朝鮮は、国際原子力機関(IAEA)による核活動停止の検証、確認を受け入れることも同意した。

北朝鮮は3年前、IAEA要員を寧辺から強制退去させ、2度目の核実験を強行した。保有するプルトニウム全量を「兵器化」し、ウラン濃縮活動を開始する、と宣言して核開発を続けている。

このままでは、北朝鮮の核ミサイル配備も時間の問題だ。その危険を考えれば、今回の合意は、米政府が言う通り「限定的ながらも重要な進展」には違いない。

問題は、北朝鮮がウラン濃縮を確実に停止するのかどうかだ。北朝鮮は、幾度も合意を反古(ほご)にしてきた経緯がある。合意履行の手順について、米国は、抜け道を許さぬよう厳しく詰めるべきだ。

米国からの食糧支援は乳幼児や妊婦向けの栄養補助食品で、必要に応じて追加支援する可能性もあるという。北朝鮮はこの食糧支援の状況を見定めながら、ウラン濃縮停止や検証受け入れなどの具体的措置を講じるのではないか。

米国の当初の計画では、2万トンずつ1年かけて提供する予定だ。北朝鮮がウラン濃縮停止に動くのは、最初の食糧の到着時か、それとも相当量が到着した時なのか。明確にしておく必要がある。

合意が履行されたとしても、安心するのは危険だ。

ウラン濃縮の停止について、合意は、北朝鮮が米国の核専門家に公開した寧辺の施設だけを対象にした。合意は、あくまで核活動の部分的な「停止」に過ぎず、秘密の核施設で北朝鮮がウラン濃縮を続ける可能性は十分に残る。

金正日総書記の死去後、北朝鮮は若い正恩氏を中心とする後継体制固めを急いでいる。その体制が脆弱(ぜいじゃく)であればあるほど、「革命の遺産」である核とミサイルにしがみつき、手放すはずはない。

北朝鮮の根本的な脅威は減じておらず、警戒は怠れない。

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