日本郵政新体制 許されぬ政官主導の改悪

毎日新聞 2009年10月30日

郵政新体制 肥大化へ逆戻りせぬか

日本郵政の新体制が発足した。しかし、「新」という形容がふさわしいとはどうにも思えない。選出された経営陣の顔ぶれをみると、官への回帰が鮮明だからだ。

西川善文社長の後任に就いたのは元大蔵次官の斎藤次郎氏で、さらに4人の副社長の中には坂篤郎前内閣官房副長官補と足立盛二郎元郵政事業庁長官が含まれている。5人の社長・副社長のうち過半の3人を官僚OBが占める。

脱官僚が鳩山政権が掲げているスローガンだ。そのため天下りの禁止も唱えている。ところが今回の日本郵政の人事は、天下りを繰り返す、わたりではないか。

鳩山由紀夫首相は、日本郵政の人事について、亀井静香金融・郵政担当相に一任したという。しかし、看板に偽りありということになると、鳩山政権への打撃となりかねない。

民主党としての考えをきちんと示すべきで、少なくとも亀井氏に振り回されているという印象を取り除くようにしないと、国民の信を得ることはできないだろう。

斎藤新社長は、地域金融機関との連携、全国の郵便局ネットワークの活用などを打ち出し、4分社体制の見直しについても年内に方向を示すという。

郵便、郵貯、簡易保険について全国で一体となったサービスを展開するうえ、地域サービスの拠点として郵便局を位置づけるというわけだ。年金や介護など、いろんなアイデアが出ており、斎藤社長は積極的に取り組む姿勢を示している。

情報伝達の電子化が進む中でも郵便事業は継続していかなければならない。しかし、財政投融資の財源集めという役割を失った郵貯と簡保との一体運営では、いずれ支えきれなくなるということが、郵政改革の原点だった。

郵政3事業の一体運営に加え、郵便局をさまざまな公的サービスの拠点とする。これによって委託料などの形で公的な支援が行われれば、郵政3事業はこれまで通りやっていける。そんな思惑が、今回の官への回帰の背景にあるのではないか。

しかし、これはかつて模索された郵便局でのパスポートの発給など、郵政肥大化路線への逆戻りを意味する。

そうなると、民間金融機関との競合や巨額の資金の公的金融への滞留、さらに、効率性を担保し国民への負担を回避するといった問題が蒸し返されることになる。

こうした疑問に答えを出し、国民が納得できる形で将来の郵政の姿を示すことが果たしてできるのだろうか。新体制となった日本郵政がどのようなプランを出してくるのか、注視していきたい。

産経新聞 2009年10月30日

日本郵政新体制 許されぬ政官主導の改悪

日本郵政の新社長に元大蔵事務次官の斎藤次郎氏が就任し、新体制がスタートした。斎藤氏は「郵便局網を活用し、公共性を重視した事業展開をしたい」と語り、行政との連携を強調した。

しかし経営戦略は、はっきりせず、会社の中核を占めるのは官僚OBで、新体制の本質は政官主導による巨大「官業」の復活と映る。反民営化による郵政「改悪」を許してはなるまい。

そもそも新役員の選任からしてルール無視だった。日本郵政は民営化に伴い、委員会設置会社の形態をとっており、社外取締役で構成される指名委員会が取締役候補を指名する決まりである。だが、今回は亀井静香郵政改革担当相と斎藤氏が指名委員会を経ず、株主総会を主導して決定した。

最大の問題は、計300兆円もの資産残高がある郵貯と簡保の金融事業だ。「民業を圧迫している巨大な官制金融を見直す」というのが郵政改革の原点である。とすれば、金融事業を縮小していくのが本筋だろう。民営化路線を歩んだ西川善文前社長も金融事業拡大に走った点で原点を見失った。だが地域金融機関との協調融資の検討などを示す斎藤氏も、事業縮小は念頭にないようだ。

斎藤氏の案自体にも問題がある。郵貯には融資のノウハウがなく、国債での運用が8割を占める。しかも地銀や信金などの地方金融機関の数はすでに過剰で、資金需要はそれほど多くない。放漫経営で経営難に陥っている企業にまで無理して融資する事態になれば、不良債権を抱えることになる。地方金融機関も郵貯と一緒に融資することが事実上の政府保証と考えれば、同じ結果を招く。

斎藤氏が描く郵便局網活用の目玉は、年金や介護などを視野に入れた「ワンストップサービス」だという。年金手続きなどを代行し、地方自治体から手数料を取るモデルである。そうした手数料事業の拡大は、有力なビジネスのありかたではあろう。

だが経営戦略の根幹である4分社化について、転換の方向性が示されていない。政府内では日本郵政と郵便事業会社、郵便局会社を統合し、傘下に郵貯と簡保をぶら下げる案などがあるが、「どんぶり勘定」となる点で経営の効率化は望めない。公益重視という聞こえがいい言葉の裏で、経営赤字から国民負担が増すという懸念が強まるばかりである。

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