政府の一連の危機対応は、「稚拙で泥縄的」なものだった――。
東京電力福島第一原子力発電所の事故を、民間の立場から調査してきた「福島原発事故独立検証委員会」(民間事故調)が、そう糾弾する報告書を公表した。
事故拡大を食い止めようと懸命になっている現場に、当時の菅首相ら政府首脳が頻繁に介入し、無用の混乱、状況の悪化を招いた可能性がある、と手厳しい。
菅前政権が設けた政府の「事故調査・検証委員会」も、昨年暮れに公表した中間報告で官邸の混乱が事故拡大の一因としている。
二つの調査委員会が、ともに政府の責任を厳しく問うていることを、首相官邸はじめ、政府関係者は重く受け止めねばならない。
民間事故調は、民間財団の事業として昨秋から事故の分析を進めてきた。科学者、弁護士らが委員を務め、菅前首相ら政府関係者約300人に聞き取り調査した。
それをもとにまとめられた報告書は、政府がどう事故に対応したかを生々しく再現している。
最前線に立つべき経済産業省の原子力安全・保安院は、情報収集が遅れ、適切な対応が取れず、何ら役立つ提案を出せなかった。
菅氏については、東電が原発から「全面撤退」するのを食い止めたことを貢献としているが、東電関係者が調査に協力しておらず、真相は明らかになっていない。
だが、菅氏への評価は総じて辛い。電源車の手配を直接管理するなど細部にこだわった。専門家に「俺の質問にだけ答えろ」と命じるなど、説明を許さなかった。
全体像を把握し、衆知を集め、的確に判断することができなかった。まさに「菅災」である。
専門知識を要する原発事故対応に、政治が介入したことによる弊害を、民間事故調は「重い教訓」と指摘した。
政府が進めている原子力規制行政の改革では、同じ轍を踏まぬ仕組みを設ける必要がある。緊急時には、専門家が軸となり対応する備えが欠かせない。
民間事故調委員で元検事総長の但木敬一氏は、記者会見で、「国が自分で招いた事故だと把握しない限り、事故は解決しない」と政府を追及している。
巨大津波の危険性を認識しながら、対策を怠ってきた東電は責任を免れない。だが、政府に当事者意識が薄いのはなぜなのか。
今後、原発の安全性向上や事故対応に取り組むには、政府の自覚が大切、という指摘は重い。
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