民間事故調 原子力規制に生かせ

朝日新聞 2012年02月29日

民間事故調 原子力規制に生かせ

民間の立場から福島第一原発の事故原因を調べる「福島原発事故独立検証委員会」の報告書がまとまった。

独立系シンクタンクの事業として昨秋に着手した。政府の事故調査委員会だけでは真相究明に不十分との思いからだ。科学者や法律家らが委員を務めた。

400ページを超える中身は多岐にわたる。政府の事故調査委員会が昨年末に公表した中間報告が、発電所を中心とした事故の直接的な原因分析に比重を置いていたのとは対照的だ。

章によって、分析の精度にはばらつきがある。それでも住民避難の実態、「安全神話」や「原子力ムラ」といった社会的背景、原子力をめぐる国際的な動きと日本との関係にも意欲的に切り込んだ。

事実を多面的にとらえ、幅広い視点から課題を指摘しようという姿勢もうかがえる。

例えば官邸の対応をめぐる検証だ。事故拡大の恐れで緊迫するなか、当時の菅首相や官邸がとった場当たり的な行動や判断を厳しく断じた。一方で、原子力安全・保安院や原子力安全委員会、東京電力の能力欠如が背景にあったと論じている。

3月15日未明に東京電力が「撤退」を求めた時は、首相の強い叱責(しっせき)が、現場放棄を食い止める結果になったと評価した。

命のかかる危機のなかで、福島第一原発の吉田昌郎所長が示した勇気と使命感をたたえつつも、重大な事故災害への対応を現場に委ねることの問題を指摘している。

実際の調査や執筆をになったのは原子力工学や政治学、公共政策などを専門とする中堅の研究者や弁護士、ジャーナリストたちだ。仕事を抱えながらの作業だったが、ヒアリングの対象は約300人に及んだという。

菅首相をはじめ官邸中枢で事故対応に関わったほとんどの政治家や官僚、原子力関係の責任者が調査に応じたが、東京電力は最後まで拒否したという。きわめて残念だ。

これほどの事故だ。当事者には、事実を語り記録を残す責任がある。「全面撤退」について東電は「事実に反する」としているが、そうであれば、根拠を含めて堂々と反論すればいい。

今回の報告書は、今夏に向けて最終報告をまとめる政府の事故調や、憲政史上初の国会による事故調にも、いい刺激になるだろう。それぞれの足りない点を検証し、補完しあうことで、事故解明の完成度は高まる。

政府や国会も、指摘をきちんと受け止め、原子力の安全規制見直しに生かすべきだ。

毎日新聞 2012年03月01日

原発事故調 危機管理の徹底検証を

東京電力福島第1原発の事故について、「福島原発事故独立検証委員会(民間事故調)」が報告書をまとめて公表した。

政府の事故調や国会の事故調も検証を進めているが、異なる立場から関係者に話を聞き分析している。特徴的なのは閣僚のヒアリングを盛り込み、官邸の危機管理に大きな問題があったと結論づけている点だ。

原発事故に限らず大災害が起きた場合の危機管理は国の根幹にかかわる。しかし、政府事故調が昨年末にまとめた中間報告は官邸の危機管理の問題点に触れつつ、具体的検証は先送りしている。

最終報告までには閣僚のヒアリングも含め徹底検証してもらいたい。証人喚問など法律に基づく強い権限を持つ国会事故調も、独立した立場から危機管理に踏み込んでほしい。

民間事故調は菅直人・前首相の資質にも触れている。だが、事故の要因を個人のキャラクターに帰することはできない。今回、誰が首相であっても優れた危機管理ができたとは思えない。むしろ、大事なのはソフトとハードの両面で危機管理システムをきちんと検証し、今後に生かすことだ。

たとえば首相が携帯電話でバッテリー手配を指示していたという話は異常だが、背景には経済産業省の原子力安全・保安院や内閣府の原子力安全委員会に能力がなく、役に立たなかったことがある。行政機関と官邸の間に生まれた不信が大きなマイナスとなったことを踏まえ、新設される原子力規制庁の体制作りに生かす必要がある。

官邸地下の危機管理センターは安全保障上の理由で携帯電話が通じなかったというが、災害時の情報収集を考えればこうしたハード面の課題も解決しなくてはならない。

危機管理は官邸だけの問題ではない。事故現場における東電の危機管理も検証する必要がある。加えて、国の中枢と現場をうまくつなぐ指揮系統も再検討がいる。

1号機への海水注入については官邸の意向をくんだ東電本店などが停止を指示したが、現場の所長は注入を続けた。民間事故調は下位機関が上位機関の指示に従う重要性を指摘するが、むしろ、現場に権限を与えるべき事項を明確にし、任せるべきは任せたほうがいいのではないか。

今求められているのは、きちんとした検証を踏まえた上で新たな危機管理体制を迅速に構築することだ。人材の確保・育成も欠かせない。

17年前に阪神大震災が起きた時にも国の危機管理の不備が指摘された。このままでは、5年後10年後にも同じ言葉を繰り返すことになりかねない。

読売新聞 2012年03月01日

民間原発事故調 重い教訓を規制改革に生かせ

政府の一連の危機対応は、「稚拙で泥縄的」なものだった――。

東京電力福島第一原子力発電所の事故を、民間の立場から調査してきた「福島原発事故独立検証委員会」(民間事故調)が、そう糾弾する報告書を公表した。

事故拡大を食い止めようと懸命になっている現場に、当時の菅首相ら政府首脳が頻繁に介入し、無用の混乱、状況の悪化を招いた可能性がある、と手厳しい。

菅前政権が設けた政府の「事故調査・検証委員会」も、昨年暮れに公表した中間報告で官邸の混乱が事故拡大の一因としている。

二つの調査委員会が、ともに政府の責任を厳しく問うていることを、首相官邸はじめ、政府関係者は重く受け止めねばならない。

民間事故調は、民間財団の事業として昨秋から事故の分析を進めてきた。科学者、弁護士らが委員を務め、菅前首相ら政府関係者約300人に聞き取り調査した。

それをもとにまとめられた報告書は、政府がどう事故に対応したかを生々しく再現している。

最前線に立つべき経済産業省の原子力安全・保安院は、情報収集が遅れ、適切な対応が取れず、何ら役立つ提案を出せなかった。

菅氏については、東電が原発から「全面撤退」するのを食い止めたことを貢献としているが、東電関係者が調査に協力しておらず、真相は明らかになっていない。

だが、菅氏への評価は総じて辛い。電源車の手配を直接管理するなど細部にこだわった。専門家に「俺の質問にだけ答えろ」と命じるなど、説明を許さなかった。

全体像を把握し、衆知を集め、的確に判断することができなかった。まさに「菅災」である。

専門知識を要する原発事故対応に、政治が介入したことによる弊害を、民間事故調は「重い教訓」と指摘した。

政府が進めている原子力規制行政の改革では、同じ(てつ)を踏まぬ仕組みを設ける必要がある。緊急時には、専門家が軸となり対応する備えが欠かせない。

民間事故調委員で元検事総長の但木敬一氏は、記者会見で、「国が自分で招いた事故だと把握しない限り、事故は解決しない」と政府を追及している。

巨大津波の危険性を認識しながら、対策を怠ってきた東電は責任を免れない。だが、政府に当事者意識が薄いのはなぜなのか。

今後、原発の安全性向上や事故対応に取り組むには、政府の自覚が大切、という指摘は重い。

この記事へのコメントはありません。

この社説へのコメントをどうぞ。
お名前
URL
コメント

この記事へのトラックバックはありません。

トラックバックはこちら
http://shasetsu.ps.land.to/trackback.cgi/event/988/