エルピーダ破綻 民間の知恵で再建を

朝日新聞 2012年02月29日

エルピーダ倒産 安易な救済への警鐘だ

パソコンなどでデータを記憶する半導体DRAMで世界3位のエルピーダメモリが、会社更生法の適用を申請して倒産した。負債総額は4480億円。製造業では過去最大だ。

NECと日立製作所、三菱電機の事業を集約した日本で唯一のDRAMメーカーである。

リーマン・ショック後の09年には日本政策投資銀行から300億円の出資を仰ぎ、損失は政府が補填(ほてん)する異例の公的支援を受けていた。

急激な円高による採算悪化、欧州危機を一因とするパソコンの世界的な販売不振など、様々な要因が重なった。しかし、根本には、サムスン電子をはじめとする韓国、台湾勢に市場を奪われる構造的な苦境がある。

DRAMでは、80年代に日本メーカーが世界市場の7割を占めた。しかし、日米半導体摩擦に伴う輸出規制で日本勢が動きを封じられているうちに、様相は一変した。

DRAM事業で主導権を握るには、巨額の投資を続けることが不可欠だ。サムスンはほかにも様々な事業を持ち、財務基盤が厚い。エルピーダがDRAM専業で対抗しようとしたことに無理があった。

経済産業省によると、公的資金のうち最大で280億円が戻ってこない恐れがある。

DRAM事業が重要だとはいえ、金融やエネルギーなど、日々の生活を支える社会インフラではない。一般の事業会社に公的資金を直接投入することは、よほどのことがない限り禁じ手だ。エルピーダ再建にかかわるインサイダー取引事件で幹部職員が起訴されたことを含め、経産省は猛省すべきだ。

心配なのは、「官」が出過ぎているのでは、と思える事例がほかにもあることだ。

半導体と同じく厳しい環境が続く液晶業界では、東芝とソニー、日立製作所が中小型液晶事業を統合して新会社を立ち上げる。音頭をとったのは、政府を中心に民間が一部出資する産業革新機構だ。

機構は、新会社に2千億円を出資し、株式の7割を握るという。中小型液晶は市場の拡大は期待できるが、価格競争が激しく、機敏な経営判断が欠かせない。官主導の再編でうまくいくだろうか。

欧米に追いつき、追い越すという明確な目標があり、政府が旗を振れた時代はとうに過ぎた。新産業をどう切り開いていくのかは、民間の知恵に任せるべきだろう。政府の役割は企業が活動しやすい環境を整え、後方支援に徹することだ。

毎日新聞 2012年02月29日

エルピーダ破綻 民間の知恵で再建を

エルピーダメモリが会社更生法の適用を申請した。世界3位の記憶用半導体メーカーだが、価格の急落に円高などが重なり、資本提携で活路を探ったものの、資金繰りに窮し、自力再建を断念した。4480億円の負債総額は製造業の破綻では過去最大だ。

半導体は一時、日本が世界を席巻し、日米貿易摩擦の焦点ともなった分野だった。しかし、90年代に入ると韓国などのメーカーの攻勢を受けて国内メーカーはシェアを落とし続けた。事業の統合を進めざるを得なくなり、記憶用半導体はエルピーダに集約された。

激しい投資競争はその後も続き、供給過剰に陥るたびに市況は急落し、エルピーダの経営を揺さぶった。リーマン・ショック後には、国が公的資金を投入して企業再生を目指す改正産業活力再生特別措置法(産活法)の適用第1号となり、経営の立て直しを進めてきた。

しかし、市況の急落と円高により業績が急速に悪化する中で、3月末には産活法の適用期限を迎える。公的資金の返済延期や、金融機関からの融資の借り換えを模索したものの、その前提となる、抜本的な再建策をめぐる交渉は難航した。

一方、産活法を適用して経済産業省主導で進められてきた再建策は、行き詰まったことになる。破綻によって最大280億円の国民負担が生じる可能性があるという。この点を重く受け止めねばならない。

記憶用半導体は日本になくてはならない産業だというのが官主導の再建策につながった。しかし、何が必要なのかは、自らの資金を投じる民間の判断に委ねるというのが本来の姿だ。

パソコンなど汎用(はんよう)化したものは別として、多機能電話のスマートフォンやタブレット型端末のような新製品はこれからも登場する。そうした新製品に適した記憶用半導体の開発能力を保持し、日本企業が活用できるようにするにはどのようにしたらいいのか。民間同士の話し合いの中で知恵を出してもらいたい。

破綻処理による債務整理でエルピーダは身軽になり、再建を目指すことになるが、同時に記憶用半導体の世界的な再編にさらに拍車をかけることになるだろう。

海外のメーカーがスポンサーになることも考えられる。ただ、巨額の投資を続ける韓国勢のシェアが今でも群を抜いており、場合によっては韓国勢以外に調達先がなくなる事態も想定しなければならないという状況にあることも忘れてはならない。

健全な競争が阻害されぬようにということも、記憶用半導体の再編にあたって押さえておくべき点だ。

読売新聞 2012年02月29日

エルピーダ破綻 韓国勢に負けた日の丸半導体

日本の産業競争力低下を象徴する「日の丸半導体」の挫折である。

パソコンなどに使うDRAMの国内唯一のメーカーで、世界3位のエルピーダメモリが、自力再建を断念して会社更生法の適用を申請し、経営破綻した。

DRAM市場は、サムスン電子とハイニックス半導体の韓国2社が6割強を占め、競争は激しい。超円高とウォン安、市況低迷も重なり、業績は急速に悪化した。

エルピーダは、米国や台湾企業との提携による起死回生策を模索したが、実現せず、資金繰りに行き詰まった。法的整理に追い込まれたのは残念である。

1980年代、日本メーカーは「産業のコメ」と呼ばれる半導体で世界の市場を席巻した。

日立製作所、NEC、三菱電機の事業を継承してエルピーダが誕生したが、2008年の金融危機後に深刻な業績不振に陥った。

その時、救済に乗り出したのが経済産業省である。

経産省は一般企業に公的資金を投入できるように政策変更し、09年夏、エルピーダを第1号に認定して300億円を投入した。

お家芸とされたDRAM事業を国内に残し、急成長した韓国勢に対抗できる「国策企業」として支えることを狙ったと言える。

だが、結局、エルピーダは韓国勢との競争に敗れ、3年弱で頓挫した。公的支援が延命策に過ぎなかったと言われても仕方ない。

エルピーダ破綻に伴い、国民負担が最大280億円に膨らむ可能性があることも問題だ。

政府支援がなぜ空振りに終わったか。大型投資と低価格品で攻勢をかけた韓国勢に対し、エルピーダに戦略ミスはなかったのか。

経産省はきちんと検証し、企業支援のあり方や、産業振興などの政策に生かすべきだ。

今後の焦点は再建策である。

これまで提携交渉していた米社による支援が有力だが、高い技術力を生かせるよう、早期に支援企業を探し、再建の道筋をつけることが求められる。ただし、技術や人材の国外流出には要警戒だ。

エルピーダ支援を担当していた経産省高官が同社株のインサイダー取引事件で逮捕、起訴され、行政への不信感も募った。経産省は信頼回復も急がねばならない。

テレビの不振で電機各社が巨額赤字を抱えるなど、半導体に限らず、日本の製造業は試練に直面している。国際競争力を回復し、世界で勝ち残るために、エルピーダを教訓としてもらいたい。

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