企業年金消失 運用チェックを厳しく

朝日新聞 2012年02月28日

企業年金消失 監視態勢に工夫を

株価の低迷などにたたられ、どこの年金も構造的な運用難に苦しんでいる。

そんななかで、「相場に左右されない安定した利回り」とうたって、80を超す企業年金から2千億円以上をかき集めていた「AIJ投資顧問」で、運用資産の大半が消えてなくなる異常事態が判明した。

金融庁と証券取引等監視委員会が真相の解明と業界の実態調査を急いでいるが、ここまでひどい会社がなぜ「野放し」のままだったのか。

投資顧問業は、規制緩和によって参入が容易な登録制となっている。年1回、運用成績の報告が義務づけられてはいるが、外部監査などのチェックは受けなくてもいい。

金融庁の検査は、要員の制約もあって年15社がせいぜいだ。全体の5%強でしかない。

金融自由化を否定すべきではないが、事後的な監視態勢を強化しなければならない。金融庁は、問題のある運用や営業行為を早期にあぶり出せるよう、情報の開示義務などに工夫を凝らす必要がある。

問題は運用を任せる側の年金基金にもある。「投資のプロ」なら、自己責任で相手を選別するのが筋だ。

しかし、専門家の助言も受けない小さな年金基金も多く、建前通りに行くとは限らない。問題のある業者が当局にすぐに通報されるようなガイドラインの整備など、「カモ」にされない支援態勢を整えるべきだ。

AIJが売り物にしたような金融派生商品による運用は、本来は資産のごく一部を充てる補完的なものだ。

ところが、被害にあった年金基金の中には、かなりの部分を任せてしまった例が見られる。

とくに、支給額をあらかじめ約束している確定給付型の年金では、随分前に決めた予定利回りが高いままのところも多い。運用が目標利回りに届かず、勢いリスクの高いハイリターン運用へ傾斜しがちだ。

それが、悪質な業者の横行を許す温床となる。年金基金の財務は厚生労働省が監督しているが、このような問題にメスを入れてきたとはいいがたい。

年金に開いた穴は、母体企業が負担するか、年金の給付額を減らすかして埋め合わせることになりそうだ。場合によっては、基金が解散に追い込まれることもありうる。当事者は厳しい対応を迫られる。

他の多くの年金にとっても、今回の事件は資産をどう持続させるか、真剣に考えるための警告となったのは間違いない。

毎日新聞 2012年02月25日

企業年金消失 運用チェックを厳しく

巨額の企業年金の運用を任されていた投資顧問会社が、資金の大半を消失させていた。預けた企業がその穴を埋められなければ、退職者の年金が減らされるおそれがある。

長引く低金利で、企業年金は苦しい運用を余儀なくされている。年金不安に輪をかけることがあってはならない。監督当局は、ずさんな実態の全容解明を急ぐとともに、再発防止への手立てを講じるべきだ。

問題の投資顧問会社は、「AIJ投資顧問」(東京都中央区)で、金融庁は1カ月の業務停止命令と業務改善命令を出した。

同社は100社以上から預かった約2000億円を運用していた。そのほとんどが企業年金で、顧客の大半は建設業、電気工事業などの業種ごとに中小企業が集まってつくる厚生年金基金だ。

証券取引等監視委員会の検査では、残高は約200億円しかなかった。刑事責任の追及も視野に入れ、厳しい調査を求めたい。

自社の年金は大丈夫かと、不安に駆られる企業も多いだろう。金融庁は、他の投資顧問会社への調査も徹底してほしい。

企業年金は、企業が一括して運用し、退職者に給付額を約束している「確定給付型」が一般的だ。予定の運用益を上げられずに資金が不足した場合、企業がその穴を埋める義務を負う。企業としては、より高い運用益をうたう委託先を求める誘惑にかられやすい。

AIJは、金融派生商品の運用により「市場の変動に左右されずに安定収益を上げる」とPRし、受託資産を急速に増やしていた。企業側の弱みに付け込んだ格好だが、委託した側の問題点も浮き上がった。

企業は、運用会社から定期的に運用実績の報告を受ける。AIJは、リーマン・ショックがあった08年でも7~8%、東日本大震災で株価が低迷した昨年も5%程度の利回りを確保したことになっていたという。

企業側が、不自然な成績に疑問を持ち、被害拡大を防げなかったことは残念だ。委託者が単独企業ではなく、中小企業が集まってつくる厚生年金基金だったことが、検証を難しくしていたとすれば、検証体制を見直す必要があるだろう。

顧客から運用を一任される投資顧問業は、「金融ビッグバン」に始まる規制緩和の中で07年に、認可制から登録制になり、参入しやすくなった。政府の役割は「事前規制から事後チェック」に変わったはずだが、定期的な検査もなく、事後チェックは機能していなかった。

老後の大切な資金が損なわれることのないよう、「事後チェック」機能の立て直しも求められる。

読売新聞 2012年02月29日

企業年金消失 リスク見極める眼力も必要だ

企業年金の資産運用を委託されていた投資顧問会社「AIJ投資顧問」(東京)が、年金資産の大半にあたる約2000億円を消失させていたことが発覚した。

AIJは、高い運用利回りを売り物にする会社として、評判だった。大手格付け会社が顧客を対象に行ったアンケート調査で1位を獲得したこともある。

ところが実際は、顧客にも監督官庁にも虚偽の報告をして、好調な運用実績を装っていた。集めた資金を香港の金融機関に移すなどの動きもしていたという。

運用に失敗して巨額の損失を出したのか。それとも、預かった資金を流用していたのか。証券取引等監視委員会は海外当局とも連携し、運用の実態と消失に至る経緯を徹底解明してもらいたい。

問題の背景には、企業年金を取り巻く環境の悪化がある。

社員と企業が資金を出し合って運用する企業年金は、公的年金を補い、老後の生活を支えるものだ。しかし、少子高齢化で新たな加入者が増えない一方で、年金を受け取る退職者は増え続けており、どこも収支は苦しい。

リーマン・ショック後の株価低迷による運用難が収支の悪化に拍車をかけた。そんな時、AIJは魅力的に映ったのだろう。

厚生労働省によると、AIJに資産運用を任せていた企業年金は昨年3月末時点で84あり、大半は同じ業種の中小企業などが集まってつくる厚生年金基金だった。

厚労省は、リスク回避のため、分散投資を求める資産運用指針を設けていた。だが、資産の半分以上をAIJに集中させていた年金基金もあった。

資産が戻らず、企業も穴埋めできなければ、年金給付額の減額を迫られることも想定される。

年金基金は一般の個人投資家とは異なり、プロの投資家として扱われている。金融行政が「事前規制型」から「事後チェック型」に変わり、自己責任が原則とされる時代である。

基金にも、リスクを見極める目を養うことが求められる。

一方、金融庁は、他の投資顧問会社約260社の一斉調査に着手する。資産の運用方法や顧客への説明内容に問題がないか、チェックを急ぐ必要がある。

投資顧問会社は年に1回、運用実績を記載した事業報告書を地方財務局に提出するが、外部監査は義務づけられていなかった。監視体制を点検し、不祥事の再発防止につなげなければならない。

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