首相の沖縄訪問 「辺野古が唯一」は無策

朝日新聞 2012年02月28日

首相沖縄訪問 負担軽減を早く確実に

就任から半年、ようやく野田首相が沖縄を訪問した。

税と社会保障の一体改革などの難題を抱えているとはいえ、あまりに遅い対応だった。普天間の移設先とされる名護市の市長にも会わなかった。

首相は仲井真弘多(ひろかず)知事との会談で、政権交代以降の普天間をめぐる迷走や、前沖縄防衛局長の女性蔑視の暴言について、深々と頭を下げた。

「おわび」から入らなければならない事態が、動かない沖縄問題を象徴していた。

それなのに、首相は普天間を固定化させないためには、辺野古移設が「唯一有効な方法」だと、これまでの政府の姿勢を繰り返した。代替案がない現状の厳しさはわかるが、説得力はまるでない。

予想された通り、あくまで県外移設を求める知事とは平行線に終わった。

知事は先週、国の環境影響評価に対し、辺野古移設に反対する意見書を出したばかりだ。

「生活、自然環境の保全を図ることは不可能」という沖縄の専門家の知見に基づいている。将来、政治的な事情の変化で覆る内容ではあるまい。

普天間をめぐる日米合意の実現は、ますます遠のいている。

この現実を、首相は真剣に受け止めなければならない。

そして、今春の訪米に向け、より抜本的な米軍再編の見直し策を練り、「辺野古移転断念」に踏み切るべきだ。

この大転換がなければ、沖縄問題の進展は望めない。同時に、首相が取り組むべきは、在日米軍基地の74%が集中する沖縄の負担軽減である。

カギを握るのが、さきに普天間問題と分離された、嘉手納基地以南の5施設の先行返還だ。どの施設を、いつまでに返すのか。速やかに、具体的な成果をあげることを期待する。

基地機能の維持を求める米側との交渉は容易ではないが、首相を先頭に日本政府の総力を示すときだろう。

同時に、日米で合意した基地騒音の軽減が、米軍の運用によって事実上骨抜きにされている実態にも、厳しく対処してほしい。沖縄県民は目に見える結果を待っている。

沖縄防衛局長の講話問題は、どうなったのか。宜野湾市長選で暗に特定候補への投票を促したと見られても仕方ない。更迭しなければ、沖縄へのおわびも信頼回復への努力も、言葉だけだと受け取られるに違いない。

沖縄の信頼を取り戻すには、できることから、ひとつずつ実行することだ。

毎日新聞 2012年02月28日

首相の沖縄訪問 「辺野古が唯一」は無策

野田佳彦首相が就任後初めて沖縄県を訪問し、仲井真弘多同県知事と会談したが、米軍普天間飛行場の移設問題の前進はなかった。

首相は、「普天間を固定化させない」と強調したうえで、「辺野古移設が唯一、有効な方法」と述べ、同県名護市辺野古への移設に理解を求めた。知事は「辺野古は時間がかかる。県外移設を検討、実現してほしい」と主張、かみ合わなかった。

首相は、民主党政権下の普天間をめぐる迷走や前沖縄防衛局長の不適切発言を謝罪し、在沖縄米海兵隊のグアム移転と米軍嘉手納基地以南の5施設・区域返還を普天間移設から切り離して先行実施する方針や、沖縄振興策にも言及した。負担軽減や振興策の実施で沖縄の信頼回復を図り、沖縄が辺野古案を受け入れる環境整備としたい考えのようだ。

しかし、事態が動く気配はない。知事は、沖縄振興予算の拡充を評価する一方で、普天間問題では「(県外移設の)主張を変えるつもりはない」と語った。辺野古案が困難である現実を、首相は直視すべきだ。

辺野古移設に反対する沖縄の政治状況や知事発言を踏まえれば、辺野古案に固執すればするほど、普天間の固定化回避という首相の約束が実現不可能になるのは明らかだ。

まさか、辺野古案を掲げ続け、普天間の恒久化を表明しない限り、普天間を使用し続けても固定化でない、と主張するつもりではあるまい。そこは首相の誠意を信じたい。

辺野古移設に必要な公有水面埋め立て申請を知事が許可しない、あるいは、政府が申請もできない状況に至るなど、辺野古案がストップしたまま普天間を継続使用するなら、それは事実上の固定化である。

これを避けるには、辺野古案の見直しを検討し、米側に提起するしかない。辺野古案を「唯一」とする姿勢のままでは、事態の進展と普天間の固定化回避は期待できない。

また、首相は、移設先がどこになるにせよ、実現までの普天間周辺住民の危険性除去・軽減対策が必要であることを忘れてはならない。

普天間移設と海兵隊グアム移転などの切り離しによって、普天間移設の実現には、これまで見込んでいた以上の年月がかかることが予想される。

現状では、その間、「世界一危険な基地」の周辺住民は引き続き、人命にかかわる危険と、騒音などの生活被害にさらされることになる。

万一、普天間に近接する沖縄国際大学へのヘリ墜落(04年)のような重大事故が再び起きれば、日米安保体制の円滑な運営や、首相が強調する「抑止力の維持」にも大きな影響を及ぼす。普天間機能の当面の分散移転など対策を検討すべきだ。

読売新聞 2012年02月28日

首相沖縄訪問 関係改善テコに普天間進展を

沖縄県との関係改善を米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設の進展につなげることが肝要だ。

野田首相が就任後初めて沖縄県を訪問し、仲井真弘多知事と会談した。

首相は、普天間問題の迷走について陳謝した。知事は、2012年度の沖縄振興予算の大幅増などを「快挙」と歓迎し、「心から感謝する」と語った。

仲井真知事には、さらなる沖縄振興策への期待があるのだろうが、鳩山元首相の失政で生じた民主党政権への沖縄の不信感は、かなり払拭されたのではないか。

野田政権は、沖縄振興策の拡充に加え、米国人軍属の裁判権をめぐる日米地位協定の運用を改善した。普天間問題と海兵隊のグアム移転を切り離し、県南部の米軍施設先行返還への道も開いた。

菅政権が無為無策だったのに対し、野田政権が沖縄の多くの要望に一歩一歩応えてきたことは高く評価できる。ただ、やはり肝心なのは普天間問題である。

首相は会談で、辺野古移設が「唯一有効な方法」と述べ、改めて理解を求めた。知事は「辺野古はものすごく時間がかかる」として、従来通り県外移設を主張し、議論は平行線に終わった。

沖縄県は先週、辺野古移設に関する政府の環境影響評価について騒音対策など25項目、175か所が不適切で、「環境保全は不可能」との知事意見書を示している。

辺野古移設の実現に不可欠な知事の許可を取り付けるためのハードルは、依然として高い。

それでも、過去15年以上に及ぶ日米両政府の検討でも、辺野古以外に、現実的な移設先は見つかっていない。辺野古移設の頓挫は、普天間飛行場の長期間の固定化という最悪の展開を意味する。

今なお、条件付きで辺野古移設を容認する周辺住民や関係者が少なくない点も考慮すべきだ。

今年5月、沖縄は本土復帰40周年の節目を迎える。名護市では太平洋・島サミットが開催される。政府は、様々な機会を利用し、沖縄振興策や米軍基地の地元負担の軽減を進める中で、辺野古移設への理解を広げる必要がある。

首相が会談で指摘したように、日本の安全保障環境は近年、一段と厳しくなった。北朝鮮の核や中国の軍備増強によって、在沖縄海兵隊の抑止力を維持し、日米同盟を深化する意義は増している。

野田首相は、沖縄の地政学的な重要性や、沖縄振興を特別に重視する必要性について、国民全体にきちんと説明せねばならない。

この記事へのコメントはありません。

この社説へのコメントをどうぞ。
お名前
URL
コメント

この記事へのトラックバックはありません。

トラックバックはこちら
http://shasetsu.ps.land.to/trackback.cgi/event/983/