原発賠償交渉 実績重ねて速度あげよ

朝日新聞 2012年02月23日

原発賠償交渉 実績重ねて速度あげよ

原発事故をめぐる賠償が思うように進んでいない。

政府の原子力損害賠償紛争審査会の下に、話し合いの仲立ちをする解決センターが設けられて約半年になる。だが、申し立ては1千件ほど、和解がまとまったのは10件に満たない。

被害者は何十万人もいるだろうに、どうしたことか。

遅れている理由として、東京電力の姿勢をまず指摘する関係者が多い。

審査会は賠償の「中間指針」を定めているが、そこに詳しく書かれていない項目、たとえば被災地に残してきた家財の費用や、慰謝料の増額などが和解案に盛りこまれると、東電は回答を先送りするという。

ひとつの対応が全体に影響するため、慎重になるのもわからなくはない。だが迅速な賠償は東電の使命であり、社会への約束だ。自覚を求める。

状況を前に進めるため、センターは先ごろ、「障害者や乳幼児がいる場合は慰謝料を増やせる」など、中間指針を補う四つの「総括基準」を決めた。

審査会とセンターのこうした役割分担と連携は、はじめから予定されていた。今後も具体例を踏まえて指針や基準の充実に努め、すみやかで公平な解決に導いていってほしい。

交渉が進まぬ背景に、手続きにかかわる人たちの認識違いがありはしないか。

ふだん裁判所が行う和解のありようを引きずり、「全面解決か否か」という発想でのぞんでいては、この壁は破れない。

被害者と東電の間で、合意できる点とできない点を区分けする。前者については急いで賠償を済ませ、後者については他の被害者の例も検討しながら、多少時間をかけても解決の道を探る。そんな柔軟な対応が求められる。もちろん合意部分をなるべく増やし、持ちこす範囲は絞りこむ必要がある。

その意味で、センターが今後の取り組みとして「一部和解」や「仮払い」の促進を打ち出しているのは評価できる。

東電がセンターの提示する案を基本的に受け入れなければならないような制度にするべきだとの声も、以前からある。

だが、そうした仕組みがうまく機能するには、「判例」の積み上げがあり、仲介する機関が社会の信頼に支えられることが必要だ。形だけ整えても看板倒れになりかねない。

解決への力を高めていくためにも、いまは土台を固めるときだ。被害者の背負う荷を少しでも軽くするよう、努力と工夫を重ねてもらいたい。

毎日新聞 2012年02月25日

原発賠償交渉 東電は積極的に応じよ

東京電力福島第1原発事故に伴う賠償はどうあるべきか。東電と被災者の賠償交渉を仲介する原子力損害賠償紛争解決センターが新たな基準を示した。

「避難者の慰謝料」は、事故後7カ月目以降も半額に切り下げず、月額10万円を目安とする▽「自主避難者」については、交通費、宿泊費などの実費が原子力損害賠償紛争審査会の中間指針の額(子供と妊婦は40万円、それ以外8万円)を上回れば、その分を賠償する▽避難区域内の財産について、現地確認なしでも賠償する--などが柱だ。

センターは文部科学省が所管する紛争審査会の下部組織だ。今回、センターが公表した新基準は、昨年8月に審査会が示した賠償の中間指針に比べ具体的で、被災者救済の方向に踏み込んだ内容になっている。

その背景には、当初予想より大きい原発事故の影響が徐々に分かってきたことがある。

政府は福島県側に、長期間住民の居住が困難な地域が生じたり、帰宅まで20年以上かかる地域が存在することを伝えた。また、帰宅可能な地域も除染して放射線量を下げなければならないが、手探りの状態で完了の見込みは立っていない。避難生活の長期化は、精神的・肉体的、さらに経済的に被災者を苦しめていることは想像に難くない。「被害」に応じた「賠償」が算定され、速やかに支払いが行われるのは当然である。

気がかりなのは、公的な紛争解決機関であるセンターによる問題解決がはかどっていないことだ。弁護士などの仲介委員や調査官は150人を超える。だが、昨年9月の受け付けから半年近くたったが900件以上の申し立てに対し、和解は1桁にとどまっている。

センターはその要因として、東京電力の消極的な姿勢を指摘した。

除染方法や住民の帰還時期が定まっていないことを理由に、住民が自宅など財産の価値がなくなったと訴えても先送りにしてきたという。紛争審査会の中間指針に具体的に記載されていない賠償内容についても、協議に積極的に応じていない。

東電にも言い分はあるだろう。解決の公平性にこだわれば、慎重さも求められる。だが、解決が長引くほど被災者は疲弊し、被害感情も増す。何より和解がまとまらず訴訟になれば、そのコストと当事者の負担感は桁違いに大きくなる。

東電側は、年間の積算放射線量が50ミリシーベルトを超える「帰還困難区域」の土地や家屋の賠償について「全損での扱いを考えている」との方針を最近、紛争審査会に示した。積極的な対応で被害実態に即した賠償を早く進めてもらいたい。

この記事へのコメントはありません。

この社説へのコメントをどうぞ。
お名前
URL
コメント

この記事へのトラックバックはありません。

トラックバックはこちら
http://shasetsu.ps.land.to/trackback.cgi/event/981/