年金適用拡大 腰砕けは許されない

朝日新聞 2012年02月25日

パートの年金 現役支援はうそなのか

パート従業員が正社員と同じ厚生年金や健康保険に入れるようにし、将来、少しでも多く年金が受け取れるようにする。

野田政権が進める「社会保障と税の一体改革」で、貧困・格差対策の柱となる政策だ。

ところが、民主党内で反対論が噴き出し、前原誠司政調会長も「慎重に対応」と腰が引け始めた。

パートを多く雇う小売りや外食などの業界を中心に、人件費が増えるのを嫌う経営者が強く反発しているからだ。

法案の提出は予定した3月中旬に間に合わず、「一体改革」といいながら、増税法案と切り離されそうな雲行きだ。

いま、サラリーマンの妻以外のパートは、国民年金と国民健康保険に加入し、保険料は自分で払わないといけない。

未納が続けば、低年金になるし、医療の「無保険」は命にもかかわる。社会のセーフティーネットが破れやすい部分だ。

改革案は、正社員と同じ社会保険に入る対象を、「週に働く時間が30時間以上」から「20時間以上」に広げる。新たに100万~370万人のパートが加わることを想定している。

保険料は労使が半分ずつ負担するため、雇い主には全体で年間数千億円規模の負担増だ。最初から、強い抵抗に遭うことは予想されていた。

そこを粘り強く説得し、調整するのが政治のはずだ。

パートの加入拡大は、一体改革のなかで現役世代を支援する政策の目玉である。

高齢者の年金には加算するのに、パート年金のほうはあきらめる。そうなれば、「全世代対応型」という一体改革の看板は偽りとなる。

自公政権は07年、厚生年金の加入を拡大し、新たにパート10万~20万人を対象とする法案を提出した。

このとき、野党時代の民主党は、「抜本改革でない」と反対し、廃案に追い込んだ。もし成立していたら、昨年9月にスタートしていたはずだ。

今回の案は、年金だけでなく健康保険も対象だ。新たに加入対象となるパートの数も大きく増やした。「抜本改革」により近いのに、今度は「企業負担が重すぎる」と尻込みしては、筋が通らない。

民主党が先日、試算を公表した新年金案ではどんな短時間のパートも正社員と同じ年金に入る。今回の案もまとめられないなら、実現性はさらに薄れる。

何も決められないままでは、民主党政権は国民から本当に見はなされるだろう。

毎日新聞 2012年02月24日

年金適用拡大 腰砕けは許されない

ようやく税と社会保障の一体改革の大綱がまとまったと思ったら、早くも暗雲が漂い出した。パートなど非正規雇用労働者の厚生年金、健康保険の適用拡大で民主党内に慎重論が強まっているのだ。こんなことでまともな国会論戦ができるのか。

非正規雇用労働者は全被用者の35%を占めるが、週の労働時間が約30時間未満だと事業主と保険料が折半の厚生年金や企業健保に入れない。全額自己負担の国民年金、国民健康保険に入らざるを得ず、未加入者の増加を招く一因となっている。

改革案は「週20時間以上」に対象を拡大し、従業員301人以上の企業で働く年収80万円以上の従業員(約100万人)を加入させる。その後、段階的に基準をなくし対象を約370万人に広げる予定だ。

夫が厚生年金や共済年金に加入している専業主婦(第3号被保険者)は保険料を払わなくても基礎年金が受給できるのでパートの主婦の中には第3号被保険者でいるために勤務時間を制限している人が多い。女性の就労意欲を阻害する要因とも指摘されている。適用拡大はこうした課題の解決にもつながる。

ところが、経済界には反対論が根強い。厚生年金に入る人が増えると事業主負担も増えるためだ。今回の改革では最終的に企業の負担は5400億円増えるとしてパート従業員の多い流通や小売業界から反対が強まり、民主党幹部らに加入対象の縮小を模索する動きが出てきた。

国民年金などを夫婦ともに払っている自営業者から見たらどうだろう。大型店舗の進出によって廃業に追い込まれる自営業者は多い。事業主負担のないパートを雇用して経費を節約できる企業に対して不公平を感じても不思議ではない。非正規雇用者の生活不安を軽減し、将来の無年金・低年金を減らし、女性の就労を後押しするため、企業に社会的責任を果たすよう政府・民主党は説得すべきではないのか。

一体改革の中では厚生年金と共済年金の一元化作業も停滞している。共済年金には厚生年金にはない職域加算や、遺族年金に「転給」という仕組みがある。死亡した夫の遺族年金を受給していた妻が亡くなると父母や子や孫に受給権が引き継がれる。改革で転給は廃止する予定だが、公務員労組の抵抗は強く、総務、文部科学、財務の関連各省も消極的で具体的な作業は進んでいない。

物価スライドでお年寄りの年金支給額を減らすことだけが実施され、企業や公務員にマイナスとなる改革を見送るようなことが許されていいのか。民主党は40年先の夢のような新年金制度に固執する前に、目の前の重要課題に全力を挙げるべきだ。

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