「1票の格差」放置 立法府に汚点を残すな

朝日新聞 2012年02月24日

一票の格差 「違憲の府」は許せない

衆院が一票の格差を是正できないまま、法律で定めた選挙区割りの改定案の勧告期限である25日を迎える。

「違憲状態」だと最高裁から指弾された現状を引きずりながら、ついに違法状態に墜(お)ちていく。まるで与野党みんなでなら怖くないと言わんばかりだ。

これは、まぎれもなく立法府の自殺行為である。

前回の衆院小選挙区の最大格差2.30倍を、最高裁が「違憲状態」と断じたのは昨年3月のことだ。だが、各党が協議を始めたのは、10月になってから。はなから、やる気がなかった。

選挙制度は各党の消長に直結するだけに、妥協しづらい。答えを出しにくい問題であるのは確かだ。それにしても、衆参ねじれで政治を前に進められない与野党の無責任な対応は、国会の劣化を象徴している。

これまでの議論では、民主、自民の2大政党は格差是正を先行させる姿勢だった。この1月には、各都道府県にまず1議席を配分する「1人別枠方式」を廃止し、小選挙区を五つ削る案でそろった。

これに対し、公明党が連用制の適用を求めるなど、中小政党は制度改革を唱えた。

そこに、税と社会保障の一体改革での消費増税に対応する「身を切る改革」としての定数削減も絡んだ。

民主党は公約に掲げた比例定数を80議席削る案を主張し続けたが、不利を強いられる野党が同意するはずもなかった。

格差、定数、制度改革という三つの難題に、各党が党利党略を抱えて向き合い、身動きがとれなくなった。

では、どうすべきなのか。

まずは違憲、違法状態を解消することだ。そのためには、緊急措置として、一票の格差をただす「小選挙区5減」を実現させるべきだ。

その上で、定数削減と制度改革に取り組むのが常識的だ。

制度の抜本改革は、当事者である議員の手では難しい。首相の諮問機関である選挙制度審議会を立ち上げて、衆参両院の制度を同時に議論すべきだと、私たちは繰り返し求めてきた。

民主党側は次回の衆院選後に選挙制度審をつくるというが、先送りする理由はないはずだ。

すぐに定数削減を実現できないのならば、議員歳費や政党交付金のカットでも「身を切る」姿勢は示すことができる。

いま各党に求められているのは責任のなすりあいではなく、「答え」を出すことだ。

有権者は、「違憲の府」をつくった覚えはない。

毎日新聞 2012年02月23日

「1票の格差」放置 立法府に汚点を残すな

与野党ぐるみの責任放棄である。衆院小選挙区「1票の格差」是正をめぐる幹事長級協議は合意に至らず、是正措置が何も講じられないまま25日の区割り審議会による区割り改定案の勧告期限切れを迎えることが確実になった。

違憲状態を放置したうえ、法律の定める勧告期限も延長せず違法状態に突入する極めて異常な事態となる。与野党は協議を継続するが、危機感があまりに薄すぎる。緊急是正の実現に向け、横路孝弘衆院議長も収拾に乗り出すべきだ。

これほど何も決めずに手をこまねいているのなら、もはや開き直りとしか言いようがあるまい。

1票の格差が最大2・30倍となった09年の衆院選について最高裁は違憲状態と判断、各都道府県に1議席をまず配分する「1人別枠」方式の廃止を求めた。

一方で、国勢調査の結果をうけて衆院の区割りを見直す選挙区画定審議会は法律で今月25日が首相への勧告期限と定められている。だが、最高裁判決を受けて区割り審の作業は中断しており、仮に勧告期限だけが単純に延長されても作業は再開できない状況だった。

だからといって違憲状態の放置のみならず、勧告期限も延長せず違法状態を迎えるという結論には驚いてしまう。浮かびあがるのは責任を押しつけ合うばかりで収拾に動かない政党の日和見、さらに違憲状態のまま次の衆院選に突入しても「どうせ最高裁は選挙無効判決は出せまい」と高をくくったおごりである。

格差是正がここまでこじれているのは、定数削減と選挙制度の抜本改革の問題が複雑に絡みあうためだ。最低限、優先すべきは1人別枠を廃止し、民主、自民両党が歩み寄った小選挙区「0増5減」の緊急措置を実施することのはずだ。

選挙制度の抜本改革との同時実施を中小政党の多くは求めているが、目の前の格差是正を実現できないようでは「政党エゴ」のそしりは免れまい。「1人別枠」廃止と同時に区割り審の勧告期限を延長する法的な措置を講じ、見直し作業を早急に再開するよう改めて求めたい。

議長も危機感をより強めてほしい。勧告期限が切れたままでは、そのままズルズルと日時を費やすことになりかねない。

仮に緊急措置が実現しても、次の衆院選に区割り作業が間に合うかは、解散の時期も絡んですでに微妙な状況だ。だからこそ、一日も早い違憲状態解消に努める姿勢を与野党は示す責任がある。

立法府に汚点を残さぬためにも議長は期限を区切り、最終的には党首会談による打開を主導すべき局面であろう。

読売新聞 2012年02月24日

1票の格差 「違法状態」を招く政治の怠惰

与野党は衆院選の「1票の格差」をいつまで放置し続けるのか。

衆院選挙区画定審議会(区割り審)は、一昨年の国勢調査を踏まえた区割り案を政府に勧告する法的義務を負う。だが、昨春の最高裁判決で違憲状態とされた後、作業を中断せざるを得なくなった。

法律に基づく25日の勧告期限までに案をまとめるのは不可能で、違法状態に陥るのは確実だ。

区割り審の村松岐夫会長が、区割り作業の前提となる格差是正の立法措置を急ぐよう国会に求めているのは当然である。国会が決めなければ、区割り審は作業に入ることができない。

民主、自民両党は既に、山梨や高知、佐賀など5県の定数を一つずつ減らす「0増5減」を図る格差是正策で一致している。

両党だけでも実現できるのに手をこまねいているのは怠慢だ。

最大の問題は、与野党協議を主導する民主党が、格差是正だけでなく、比例定数の80削減との同時決着にこだわっていることだ。

社会保障と税の一体改革に伴い、消費税率の引き上げで国民に負担を求める以上、政治家が「自ら身を切る」姿勢を示す必要がある、と考えているからだ。

だが、立法府が自ら違法状態を招くという事態は許されない。

法改正で勧告期限を延ばす手段もあったが、民主党の輿石幹事長は、「無意味な問題だ」と否定した。そう言うなら、自ら積極的に、違法状態から抜け出す努力を尽くすべきである。

一方、公明党は、中小政党に不利とされる比例定数80削減に難色を示している。その上で、抜本改革として、小選挙区比例代表連用制の導入を主張している。

見過ごせないのは、政府・民主党内に、国会運営で公明党に協力してもらう代わりに、連用制の部分的な受け入れを模索する動きがあることだ。

連用制は、比例選で中小政党を著しく優遇する。第1党が過半数を取りにくく、政策決定が今以上に困難になる可能性がある。

定数削減は、選挙制度の抜本改革とともに腰を据えて取り組むべきだろう。

自民党の谷垣総裁は、民主党が格差是正の先行処理にあまりにも及び腰なことから、「与党の態度には解散を先送りする意図がうかがわれる」と指摘した。

政局の駆け引き材料となれば、問題は一層こじれる。与野党は、違憲・違法状態の解消を急がねばならない。

この記事へのコメントはありません。

この社説へのコメントをどうぞ。
お名前
URL
コメント

この記事へのトラックバックはありません。

トラックバックはこちら
http://shasetsu.ps.land.to/trackback.cgi/event/979/