ギリシャ再支援 不信と憎悪の拡大防げ

朝日新聞 2012年02月22日

ギリシャ支援 経済の再建も考えねば

欧州は今度こそ、ギリシャ危機を封じ込められるか――。

ユーロ圏の財務相会合で、欧州連合(EU)と国際通貨基金(IMF)によるギリシャへの追加支援1300億ユーロ(約13兆7千億円)の実施が決まった。民間銀行や欧州中央銀行(ECB)も、返済の減免などで支援する。

3月に償還期限を迎えるギリシャ国債の債務不履行は回避されそうだ。

ギリシャは、公務員削減などの緊縮財政を進め、国内総生産(GDP)に対する政府債務の比率を、今の160%から2020年に120%強へ下げる。EUとIMFの代表がアテネに常駐し、監視する。

しかし、緊縮一辺倒で09年からのマイナス成長がさらに続くのは必至だ。ギリシャ経済は疲弊し、「手術は成功したが、患者は死んだ」となりかねない。しかも、債務と経済が同じペースで縮小し、債務比率が減らない危険性すら指摘される。

財政面の議論が一区切りついたところで、ギリシャ経済の再生に向けてもユーロ圏が結束して取り組む必要がある。

観光以外に目立った産業がなく、汚職、地下経済がはびこる社会を改めるのは一筋縄ではいかない。公務員天国は打破すべきだが、壊すばかりで成長への期待がなければ、国民を改革に向けてまとめられない。

アテネ常駐のEU代表は無駄遣いや不正の監視だけでなく、産業や社会の構造改革にも知恵を出すべきだ。

ギリシャでは4月に総選挙があり、今の実務者内閣が交代する。これを社会的混乱や財政再建の行き詰まりに暗転させないためにも、早く手を打ちたい。

心配なのは、支援決定までの曲折で、欧州の南北の溝が深まったことだ。ドイツなど北側諸国には混迷するギリシャ政治への不信が根深く、緊縮を厳しく迫った。これがギリシャの国民感情を逆なでした。

ドイツなどの強硬姿勢の背景には、ECBの強力な金融緩和で、金融危機への懸念が後退している事情もあるようだ。

ただ、金融緩和はあくまで時間稼ぎにすぎない。当座の小康に気を緩め、欧州の結束を軽んじるのは考えものだ。

今週末には、主要20カ国(G20)の財務相・中央銀行総裁会議が開かれ、IMF活用による欧州支援策も協議される。

しかし、欧州の強い結束と最大限の努力なしでは、協力はありえない。ギリシャ経済の再生にも責任ある行動を取るよう釘を刺さねばならない。

毎日新聞 2012年02月22日

ギリシャ再支援 不信と憎悪の拡大防げ

ユーロ加盟国がギリシャへの第2次支援にようやくゴーサインを出した。これで、ギリシャの借金返済が突然滞り大混乱になる、という最悪の事態が再び回避された。

だが、ギリシャが計画通りに財政健全化を実現できるかどうかは依然として不確かである。深刻な不況と財政緊縮で経済は疲弊の一途をたどっており、借金の返済がますます困難になる可能性も低くない。何より交渉の長期化で、支援をする側と受ける側の間に深い亀裂が生じ、不信と反感の感情が欧州内で渦巻いているのが気がかりだ。

このままでは、憎悪の連鎖を生みかねない。追加支援決定により市場の緊迫が和らいだこのタイミングで、欧州は財政統合に向けた協議を一気に加速させるべきである。

2次支援の骨格は昨年10月に基本合意された。欧州諸国と国際通貨基金(IMF)が新たに計1300億ユーロ(約13兆7000億円)の支援を行い、ギリシャの国債を保有する民間銀行も大幅な元本の削減に応じる、というものだ。

だが、実行に向けた詰めの協議は難航した。背景には、ギリシャの財政再建に対する支援国側の根強い不満や不信感がある。ギリシャ政治の勢力図が変われば、改革の約束もほごにされるのではないかと懸念する国からは、4月予定の総選挙を延期するよう求める声まで出た。

他方ギリシャでは、度重なる財政緊縮要求への不満が頂点に近づいている。ドイツを筆頭に圧力をかけ続ける国々に対する国民感情は悪化する一方である。深刻なマイナス成長が続いているところに、年金の削減や最低賃金の大幅引き下げを約束させられ、街頭でデモ隊がドイツ国旗を燃やしたり、右派系新聞がメルケル独首相をヒトラーになぞらえた画像を掲載するなど、険悪な空気が充満しつつある。

当面の債務不履行が回避されたのは確かに朗報だ。しかし、ギリシャの試練はむしろこれからである。財政健全化や構造改革を果たせるのか。国民は苦痛を受け入れ続けることができるのか。困難になったとき、今回のように民間銀行や中央銀行へのしわ寄せで乗り切ることはもはや不可能だろう。

欧州の債務危機の長期化で、世界経済への打撃が広がっている。1月の貿易赤字が単月で過去最大だった日本も例外ではない。早く抜本的に危機を克服することが必要である。

相互不信が強まる「支援国」対「被支援国」の構図をこれ以上続けるのは、不健全だ。分断という欧州の過去に逆戻りするのではなく、財政統合へと進化させる。欧州の指導者の勇気ある決断を期待したい。

読売新聞 2012年02月22日

ギリシャ支援策 危機を回避できても残る懸念

欧州連合(EU)などによるギリシャ向けの第2次支援策の実施が、ようやく決まった。

財政危機のギリシャは3月20日に国債の大量償還を予定する。支援が滞ると資金繰りに行き詰まり、世界の市場を揺るがす債務不履行(デフォルト)に陥るほかない。

土壇場で支援決定にこぎつけ、当面のデフォルト回避へ前進したことをひとまず歓迎したい。

ユーロ圏財務相会合が合意した第2次支援策は、EUと国際通貨基金(IMF)による1300億ユーロ(約14兆円)の融資と、民間金融機関が保有するギリシャ国債の元本削減が柱である。

支援の大枠は昨秋固まったが、財政再建の公約を何度も破ってきたギリシャに対する不信感は根強く、決定が大幅に遅れた。

ギリシャは先週、ユーロ圏などから条件として求められた関連法を成立させ、追加の歳出削減策をまとめた。連立与党は財政改革に取り組む誓約書も提出した。

独仏両国などが、こうした努力を評価し、2次支援策を決断したのは妥当と言える。通貨ユーロの安定にも寄与しよう。

だが、先行きに不安も残る。

ギリシャでは4月にも総選挙が行われる。優勢が伝えられる与党第2党の党首は、現政権の緊縮策を引き継ぐとしているが、見直しの可能性も示唆している。

国内では、緊縮策に反対するデモが続いている。世論に迎合し、政府の改革姿勢が緩まないかどうか、EUとIMFは厳しく監視しなければならない。

ギリシャは、国内総生産(GDP)に対する債務残高比率を現在の約160%から2020年に約120%に低下させる計画だ。しかし、景気が一段と悪化し、財政再建が進まない恐れがある。

ギリシャにとっては、財政再建を着実に実行しつつ、景気回復も図らねばならない茨の道が続く。断固たる実行力が求められる。

改革にまたも行き詰まり、さらなる追加支援を仰ぐ事態を招けば独仏などの反発は必至だ。

その時は、ユーロ圏の連携が揺らぎ、ギリシャのユーロ離脱論も現実味を帯びることだろう。

今週末からメキシコで、日米欧と新興国による主要20か国・地域(G20)の財務相・中央銀行総裁会議が開かれる予定だ。

G20は、ギリシャと欧州に、危機克服への継続した努力を改めて求める必要がある。併せて、G20の結束を再確認し、世界経済の安定を目指さねばならない。

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