イラン核開発 外交決着の余地はある

朝日新聞 2012年02月18日

イラン核開発 外交決着の余地はある

核保有につながるようなウラン濃縮計画を進めるイラン。停止を求める米欧やイスラエルなどによる包囲網。双方が譲らぬまま、不測の事態にいたるのではとの危惧が強まっている。

イスラエルはかつてイラクやシリアの核開発を警戒し、関連を疑う施設を空爆した。今回も武力でイランの施設を破壊すれば、中東に戦火が広がる恐れがある。米欧などが介入すれば、イランに肩入れするテロが世界で続くかもしれない。中東の混乱は原油高騰をまねき、国際経済に痛撃を与えるだろう。

硬軟とりあわせた外交で、イランの方針転換を引き出す戦略が、正念場を迎えている。

問題はまずイラン側にある。相次ぐ濃縮計画の増強で、核兵器への転用は時間の問題との懸念が国際社会で高まっている。にもかかわらずイランは「あくまで平和利用」と繰り返し、停止を求める国連安全保障理事会の決議に応じていない。

安保理、米国、欧州連合(EU)などが経済制裁に動いてきたが、態度は変わらない。イランと鋭く対立するイスラエルでとくに警戒感が強く、強硬論が頭をもたげている。

手遅れになる前に、外交決着へと進める戦略の立て直しが必要だ。イランは強硬姿勢を見せる一方で、安保理の5常任理事国にドイツを加えた6カ国との協議に前向きな書簡をEUに送っている。これを足がかりに突破口を見いだしたい。

武力衝突はイランを危うくするもので、外交による事態好転の方が結局は、イランの国益にかなう。言を尽くして、そこを説くべきだ。

制裁などによる包囲網だけでなく、譲歩への誘い水も必要になってくるだろう。

イランが平和利用を強調するなら、いったん濃縮活動などを止めて、国際原子力機関(IAEA)の徹底的な査察を受け入れることが先だ。そして、国際協調によるウラン濃縮の管理と運営の道をさぐってはどうか。そうすればイランの核武装を阻めるのではないか。

イスラエルは事実上の核保有国である。イランに核疑惑があるからといって独断で軍事行動に出れば、国際社会で批判の的になるのは必定だ。テロによる報復が国民の命や生活を脅かす危険もある。

野田佳彦首相は、来日したイスラエルのバラク副首相に自制を求めた。今後ともイラン、イスラエル双方に外交決着を強く働きかけていくことだ。

それが、中東原油に依存する日本の国益にも資する。

毎日新聞 2012年02月20日

視点・イラン空爆論 既視感のある危うさ

イランのアフマディネジャド大統領には困ったものだ。国際社会の懸念をよそに不透明な核開発を進め、これみよがしに新型遠心分離機の開発を発表するなど挑発的な態度を変えていない。ホルムズ海峡の波を、これ以上荒立てないでほしい。

しかし、だからといってイスラエルがイラン領内の核関連施設を空爆していいかという問題がある。空爆回避のために日本や欧州はイラン制裁の強化をと米国が言うのも、おかしな理屈だ。本筋は、米国が同盟国イスラエルを説得することである。

過去の例を見てみよう。

81年6月、イスラエルがイラクの原子炉を爆撃した直後、園田直外相(当時)は「いかなる理由があろうとも正当化され得ない」と爆撃を非難し、国連安保理はイスラエル非難決議を採択した。武力使用の抑制や加盟国の領土尊重などを定めた国連憲章に反するとされたのだ。米国も決議に反対しなかった。

07年9月、イスラエルはシリアの核疑惑施設を爆撃した。今度は爆撃をなかなか認めず国際社会の反応も鈍かったが、当時のチェイニー米副大統領やライス国務長官の回想録などから、(1)イスラエルは米国に共同軍事行動を持ちかけていた(2)疑惑施設建設に北朝鮮が関与していた--ことが判明している。

これ以降、つまり5年も前から「次はイラン」との報道がなされてきた。30年前ほどに批判や懸念が高まらないのは、米・イスラエル関係がより緊密化し、軍事戦略も似てきたためだろう。脅威を事前にたたく「先制的防衛攻撃」はイスラエルに特徴的なものだったが、01年の同時多発テロ後、米ブッシュ政権は「先制攻撃論」を掲げてイラク戦争を始めたのだ。

米国の戦略はオバマ政権下で変わったとはいえ、北朝鮮の核兵器開発はほぼ野放しなのに、中東で核に触手を伸ばす国は厳しく追及する「中東偏重」の姿勢に変化は見られない。カーター米元大統領によれば、イスラエルは少なくとも150発の核兵器を保有しており、この不均衡がアラブ諸国などを核兵器開発に向かわせるのも確かだ。

「イランが核保有への安全圏に入れば大変なことになる」と訪日したバラク・イスラエル国防相は危機感を募らせる。だが、仮にイスラエルが単独でイランを空爆しても根本的な解決にはなるまい。半面、空爆の反動は予想を超えるだろう。

どうも既視感がある。同時テロ後、ブッシュ政権がイラク戦争に傾いていった時も、こんな危うさを感じたものだ。冷静さを失わぬよう自戒したい。

読売新聞 2012年02月21日

イラン情勢 外交努力と緊急時への備えを

核開発疑惑の解明を拒んでいるイランが、英仏の石油会社への原油輸出を停止した。イランを巡る情勢は一段と緊迫感を増してきたといえる。

国際社会は、経済制裁による圧力をイランに加え続けながら、対話を通じた解決の糸口を探らねばならない。

欧州連合(EU)は、米国の追加制裁に歩調を合わせ、イラン産原油禁輸を7月から実施すると決めている。これに反発するイランが、先手を打った形だ。ウラン濃縮活動の拡大を公表したのに続き、緊張を高める動きである。

一方でイランは、EUに、国連安全保障理事会常任理事国の米英仏中露に独を加えた6か国との協議を再開する用意があると伝えている。国際原子力機関(IAEA)の代表団第2陣も受け入れた。

イランの硬軟両様の対応には、国際社会の離間を図る狙いがあろう。イランは、緊張を激化させる行動を控え、早急に話し合いのテーブルにつくべきだ。

懸念されるのは、イスラエルによるイラン核施設への空爆が現実味を帯び始めていることだ。イスラエルは、このまま時間を与えれば、イランの核開発は阻止できなくなると危機感を強めている。

だが、攻撃すれば事態は一層深刻化しよう。中東の混乱は世界経済に大きな打撃となる。イスラエルにも自制が求められる。

イランは、欧米による制裁への対抗手段として、原油輸送の大動脈であるホルムズ海峡を封鎖する可能性も示唆している。万一、そうした事態になれば、原油輸入の9割近くを中東に依存する日本の安全保障が脅かされる。

日本政府は、関係国と連携し、核問題の外交的解決を追求せねばならない。同時に、緊急時に備えて、自衛隊派遣に関し法律、部隊運用、現地情勢などを多角的に検討、議論しておく必要がある。

野田首相は国会審議で、自衛隊派遣の可能性を検討していると認めた。当然の対応である。

一つの選択肢は、海上自衛隊による機雷の除去だ。軍事紛争中は戦闘行為に当たるため、法的には困難だ。紛争終了後なら、湾岸戦争後の掃海艇派遣の実績もあり、海自の高い能力を発揮できる。

護衛艦によるタンカー警護も海上警備行動を発令すれば可能だ。ただし、対象は日本関係船舶に限られ、武器使用も制限される。

重要なのは、日本が能動的に対応できるよう、積極的に情報収集に努め、自衛隊派遣の様々な選択肢を確保しておくことだ。

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