共通番号制度 与野党でよりよい案に

朝日新聞 2012年02月19日

共通番号制 もっと関心を持とう

社会保障と税にかかわる個人情報を一つの番号にまとめる共通番号制度(マイナンバー)の法案を、政府が国会に出した。

すべての国民と法人に一つひとつ番号を割り振り、年金や医療・介護、雇用保険、税務などの手続きや災害時に使う。

年金手帳や保険証はいらなくなり、写真入りのカード1枚で済む。政府は2015年までに利用を始めたい考えだ。

国や地方の財政は厳しい。所得や資産に応じてきちんと納税してもらい、本当に必要な人に漏れなく給付が行き渡るようにしなければならない。

異なる制度にまたがる情報をつなげることで、行政効率の面でも役に立つはずだ。

番号制は、消費増税でもめる社会保障と税の一体改革と関連が深い。このため国会審議にすんなりとは入れそうにない。

ただ、制度の必要性では、与野党の間に大きな争点はないだろう。一体改革と切り離して議論を進めてはどうか。

心配なのは、内閣府の調査で8割の人が「内容を知らない」と答えていることだ。

番号制は、個人情報が漏れるリスクと背中合わせだ。

独立性の高い監視機関を設けるなど、手だては幾重にも盛り込まれているが、どんな制度にも「絶対安全」はない。

安易に身分証明代わりに使ったりしないよう、一人ひとりが中身を知っておかないと、大きな被害につながりかねない。

番号の具体的な使い方を決めるのも、これからの作業だ。

たとえば、医療や介護にかかる費用に、世帯単位で上限を設ける「総合合算制度」や、消費増税にともなう生活費の増加分を援助する「給付つき」の税額控除制度。いずれも番号制導入の目玉だが、個別に法律を設けないと実現できない。

そもそも、共通番号で名寄せできる所得情報に、利子所得は入っていない。源泉徴収で金融機関が預金者をまとめて申告するためだ。

だが、本当に負担の公平性を考えるなら、利子所得や金融資産は個々に把握できるよう検討すべきだろう。

番号制をめぐっては過去に納税者番号として何度か浮上し、懐を探られることへの反発から頓挫してきた歴史がある。

このため政府は給付や減税などの「恩恵」を強調しがちだ。しかし、いいことばかりの説明では、かえって不信を招く。所得の把握を透明にする意義も、訴える必要がある。

もっと関心を持とう。国会での審議は、その一助になる。

毎日新聞 2012年02月19日

共通番号制度 与野党でよりよい案に

国民一人一人に個別の番号を割り振る共通番号制度が実現に向け大きく動き出した。野田政権は導入のための法案(マイナンバー法案)を国会に提出し、15年からの共通番号活用を目指している。税と社会保障の一体改革を進める上で重要な仕組みだ。国会で審議の時間を十分確保し、利便性、信頼性の高い制度に仕上げてもらいたい。

現在、国民の個人情報は、納税に関するもの、年金、医療、介護に関するものが、それぞれ担当の役所ごとに管理されている。これを一つの個人番号の下で一元管理し、手続きの効率化や、きめ細かく公平なサービスの提供などを目指そうというのが共通番号制だ。

実現すれば、所得で対象者を限定した現金給付や、医療・介護・子育てなどの自己負担総額に上限を設けることなどが可能になるという。自分の年金情報などをチェックすることも容易になりそうだ。

他の先進国では同様の番号制度が普及しており、必要なものではあるが、日本ではほとんど知られていない。政府の世論調査では8割以上の人が「知らない」と回答している。

目的や用途などを分かりやすく説明し、国民の理解を得る努力を加速させねばならない。

そこで欠かせないのが、個人情報の漏えいや不正利用などに対する不安をできるだけ取り除くことだ。誰がどのような場合に罰せられるのかについての説明や、個人情報にアクセスした履歴の閲覧制度を周知させていくことが重要だ。

特に病歴など診療情報の保護には不安を抱く人も多いだろう。今回国会に提出された法案に医療内容への適用は含まれておらず、政府は今後1年かけて特別法案として追加する方針のようだ。

共通番号制を利用して個人の治療歴などにアクセスできたら、災害時の診療に役立つ可能性がある。こうしたメリットを国民に分かりやすく解説すると同時に、プライバシー保護のための手を十分打ってほしい。

今回の法案は、税と社会保障の一体改革に関する国会審議に間に合わせる必要もあり、利用対象を最低限の分野に絞り込んだ。民間事業者による活用の検討を将来に持ち越したほか、預金通帳が共通番号の適用外となるなど、課題は残る。

さらに、共通番号を導入すれば、正確な所得把握が保証されるというものでもない。消費増税に伴う低所得者への支援でいかに公平さを確保するか、工夫の余地は大きい。

国民にとってよりよい制度を作るという大きな目的のため、与野党には一日も早く建設的な審議を始めてもらいたい。

読売新聞 2012年02月20日

共通番号制度 きめ細かな福祉に欠かせない

納税や社会保障の複雑な情報を結びつけ、きめ細かな福祉政策を実現するには、国民一人ひとりが固有の番号を持つ必要がある。それは超少子高齢時代の要請と言えよう。

政府は、社会保障と税の共通番号を創設するための「マイナンバー法案」を今国会に提出した。2015年1月から番号の利用を開始する方針だ。

自公政権で打ち出された構想とほとんど同じであり、必要性は与野党の大半が認めている。早期に成立させるべきである。

共通番号は、住基ネットのシステムを活用して全国民に付与される新たな番号だ。これを「カギ」として使うことで、個人所得や年金、医療・介護の自己負担や給付などの記録を結びつけることが可能になる。

国民は、納めた税金や保険料、受けた医療や介護の内容、将来の年金額などをいつでも確認できるようになる。行政にミスがあればすぐに訂正を要求できる。

施策の幅も広がる。消費税の負担感が大きい低所得世帯に還付金を出したり、子ども手当のような現金給付を家庭の状況に応じて柔軟に設計したりできる。本当に困窮している人に、確実かつ効果的に福祉が届くだろう。

共通番号には、大災害の際に役立つ面も期待できる。

災害時は、被災地に持病のある人や介護が必要な人が何人いて、どんな薬や物資がどこにどれだけ要るか、早急に把握しなければならない。東日本大震災の前に共通番号が導入されていれば、それができたに違いない。

懸念されるのは、個人情報の漏洩(ろうえい)や不正使用だ。

法案には、監視機関として独立性の強い「個人番号情報保護委員会」を設置することや、情報漏洩行為に対して最高で懲役4年の罰則も盛り込まれている。

共通番号は、同じ人物の納税状況や社会保障の情報を結びつけるが、各制度のデータはこれまで通り別々に管理される。このため芋づる式に情報が漏れる危険性は少ない、と政府は説明している。

こうした対策を、国民に丁寧に示す必要がある。

内閣府の世論調査では、昨年11月時点で、国民の8割以上が番号制度の内容を知らないという。政府のPRが不足している。

与野党は法案の審議で、番号の必要性とともに、情報漏れの懸念と対策など細部の議論を詰めてもらいたい。それが国民の理解を深める近道にもなる。

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