習近平訪米 中国次期指導者についた注文

朝日新聞 2012年02月19日

習副主席訪米 「顔見せ」の次が大切

米中両大国に横たわる数々の難問が、解決されたわけではない。だが両国とも、ともかくは受け入れられる結果といえるのではないか。

中国の習近平(シー・チンピン)国家副主席が公式訪米を終えた。

習氏は中国共産党の序列こそ6位だが、この秋に開かれる党大会でトップの総書記に選出されるのが確実視されている。来春には大統領にあたる国家主席に就任する見込みだ。異変がなければその後10年間、中国の最高指導者であり続ける。

そんな習氏を米国は国賓級ともいえるレベルでもてなした。

オバマ大統領はホワイトハウスの執務室に習氏を招き入れて会談した。国防総省は異例の礼砲を放つ歓迎の式典をした。習氏を招待した相方のバイデン副大統領は、ロサンゼルス訪問にも同行するという力の入れようだった。

米国が近未来の対中関係の重要性を見据えて歓待したのは、妥当な対応といえる。オバマ氏は習氏に「米中が強固な関係を発展させるのは死活的に重要だ」とまで語った。

中国の現在のトップである胡錦濤(フー・チンタオ)国家主席も2002年に副主席として訪米した。その年に党総書記、翌春に国家主席に就任した。今回の習氏と同じ立場だった。

当時のブッシュ大統領も次のリーダーと受けとめ胡氏を歓待した。だが中国は10年を経て、国内総生産(GDP)は世界6位から2位へ、国防費5位から2位に躍進する大国になった。

中国の国際社会における責任も比べられないほど大きくなった。「顔見せ」であっても、米側が習氏に懸案を率直に持ち出したのは自然であり、超大国の義務だと評価したい。

オバマ氏は、中国の人権弾圧を提起したり、対中貿易赤字や中国人民元の過小評価に改善を求めたりしただけでなく、シリア問題をめぐる国連安保理決議案が中ロの拒否権で廃案になったことへの失望も伝えた。

大統領選を控え原則を貫くオバマ氏に対し、党大会を控える習氏も安易な妥協はできない。

政治の季節を迎えた両氏は、譲るわけにはいかなかった。だが、戦争が起きるかもしれないという中東問題などで、実りがなかったのは極めて残念だ。

米中関係がなお曲折を続けるのを想像させた習氏訪米。問題は習氏が真のトップになってからだ。経済面で離れがたい関係を、安全保障などの充実にどうつなげていくか。

米中との付き合いが宿命の日本も注視しなければなるまい。

毎日新聞 2012年02月16日

習副主席訪米 新世代外交が幕開けた

中国の習近平国家副主席が米国を訪問し、オバマ大統領と会談した。またバイデン副大統領、クリントン国務長官、パネッタ国防長官らと会談した。

習副主席は、今年秋の中国共産党大会で党総書記に選出され、来年春の全国人民代表大会で次期国家主席に選ばれることが内定している。一方のオバマ大統領も11月の大統領選で再選されれば、大統領2期目の対中外交は習近平国家主席が相手になる。中国にとって今回の訪米は、習近平政権へ移行する準備の一環であり、次の中国の指導者のイメージを高めることが大きな狙いだ。

胡錦濤国家主席も国家主席に就任する1年前、副主席として米国を訪問し、「フー(誰)・イズ・フー(胡)?」という程度だった米国での知名度を高めた。習副主席もなじみは薄い。2007年の党大会で党政治局常務委員に2階級特進するまで、中国国内でさえそれほど有名ではなかった。しかも、江沢民前国家主席や党内の保守派に支持されている、父親が党高官の太子党派である、軍の対米強硬論者と親交があるなどといわれている。中国の台頭と軍備増強に神経をとがらせている米国にとっては気になるところだ。

習近平氏は来年から5年2期計10年間という国家主席任期がある。米国は、習近平という人物の実像を早くつかんでおきたかったに違いない。副大統領級の来賓としては最大限の歓待で迎えた。

習氏は、中国で初めての戦後生まれ、新中国建国後に生まれた国家主席になる。冷戦時代の、硬直した軍事対決優先の思考から脱却し、大国としての国際的責任を負う自覚を持つ若いリーダーが中国に登場することを米国だけでなく世界が期待していると言っても言い過ぎではないだろう。

オバマ大統領との長い会談で、米中間に存在する諸問題はほぼすべて出された。チベット、台湾問題、人権問題、知的財産権保護など貿易問題、さらに世界金融危機への対応、北朝鮮の核問題などである。

習副主席はまだ政権交代の過程にあり、国内世論を気にして柔軟な外交姿勢はとりにくい。大統領選挙を控えた米国世論も中国の貿易攻勢に反感を強めており、オバマ大統領は中国に断固とした姿勢を見せざるをえない。双方にとって今回の会談は、新世代米中外交の幕開けだ。先は長い。

今年は米中関係正常化40周年だ。米国と中国は大きな摩擦を抱えていても双方の指導者間の信頼構築を着々と進めてきた。日中もやはり国交正常化40周年なのに日中の指導者交流は立ち遅れている。日本も腰を据えた対中外交が望まれる。

読売新聞 2012年02月16日

習近平訪米 中国次期指導者についた注文

世界第2位の経済大国に見合う責任を国際社会で果たしてもらいたい。中国の次世代リーダーに米国が厳しく注文をつけたといえよう。

中国の習近平国家副主席が訪米し、オバマ大統領と会談した。習氏の訪米は、2008年の副主席就任以来初めてだ。

習氏は今秋の中国共産党大会で、胡錦濤国家主席から総書記ポストを引き継ぐ予定だ。2期10年、政権を担うことになる。今回の訪米には、次期最高指導者の権威確立を内外に示す目的がある。

米側は、大統領、バイデン副大統領のほか、クリントン国務長官やパネッタ国防長官らが相次いで習氏と会談し、国家元首級の厚遇ぶりを見せた。中国のかじをとる次期最高指導者に、米国の考えを直接伝える狙いがあろう。

大統領は習氏に、米中関係の強化が「死活的に重要だ」と語り、「力と繁栄の拡大には責任の増大が伴う」と述べた。国際的な経済規範の順守や貿易不均衡の是正、人権状況の改善を引き続き求める姿勢を強調した意味は大きい。

人民元レート問題、チベット族住民への人権抑圧など、米中間には深刻な懸案がある。大統領が、中国の次期政権にも働きかける意向を明確にしたのは当然だ。

習氏は大統領に、両国が対等な立場で互恵関係を発展させていく必要性を訴えた。台湾問題では、米中関係の「最も核心的で最も敏感な問題」として、武器売却などで干渉しないよう求めた。

大統領は、中国の「平和的な台頭」を歓迎するとも語った。軍事的膨張を背景に南シナ海などで海洋権益拡大を図る中国へ、強硬路線の見直しを迫ったものだ。

「富国強兵」の道を突き進む中国と、アジア重視を打ち出し、中国をにらんだ国防戦略を実施に移す米国が、アジア太平洋地域で対立することは避けられまい。

元副首相を父に持つ習氏は党高級幹部の子女グループ「太子党」に属し、軍との関係も深いとされる。それだけに、習氏の判断には、軍の対外強硬姿勢が反映されやすいとの見方もある。

米中関係の安定は、日本を含むアジア太平洋地域、世界の平和と安全には欠かせない。

核開発懸念が深まる北朝鮮やイランへの対応、国連安全保障理事会が機能不全を露呈したシリア情勢への今後の対処など、国際社会の懸案も山積している。

米中両国には、対話を重ね、信頼醸成を図りながら、懸案解決へ粘り強く取り組む責任がある。

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