大阪維新の会 なぜいま「国盗り」か

朝日新聞 2012年02月15日

大阪維新の会 なぜいま「国盗り」か

大阪市の橋下徹市長が代表を務める大阪維新の会が、次の衆院選に向けた公約集「船中八策」の骨格をつくった。

これまで主張してきた都市制度や公務員、教育改革に限らず、外交、経済、社会保障など幅広い分野に言及している。

衆院選で300人を擁立し、200議席をめざすという。

地域の政治団体が国政に乗り出して国を変えようとすることを否定はしない。しかし、大阪都の実現を目標としていた維新の会が、国政での大量議席獲得にかじを切った理由が十分説明されたとはいいがたい。

昨年11月の市長選直後、橋下市長は「大阪都実現がゴール。国を変えるのは国会議員で、市長の僕が考えるのはやりすぎ」と言っていた。

国政進出は、他党から「都構想への協力が得られなければ」という限定付きだった。

実際、自民やみんなの党は協力姿勢を示し、地方自治法の改正案を提案している。

そんななかで、さらに大きな目標を立てて突っ走る。「国盗(と)り」こそが真の目的だったということだろうか。

市長就任から約2カ月。橋下氏は矢継ぎ早に改革の方針を打ち出しているが、いずれも緒についたばかりだ。地域政党として「国の政党と一線を画す」「大阪再生をめざす」という同会の設立趣旨もそのままだ。

維新の会は橋下氏個人の人気で勢力を広げてきた。ところが橋下氏は自身の衆院選出馬を否定する。国政を握ろうとする党のトップが自治体の長にとどまる是非も今後問われるだろう。

公約集には、参議院の廃止や首相公選制といった改憲が前提となる案、年金の掛け捨て制など既存の枠組みを抜本的に変える発想が含まれる。問題意識を並べたアイデア段階ともいえる。世に問うには、党内でもっと議論を煮詰める必要がある。

一方で来月開講する維新政治塾には3千人以上の応募があり、候補者予備軍となろう。

スピード感を持って既得権益に挑む橋下氏の姿は、公約を実現できず毎年のように首相が代わる国の政治と好対照をなし、力強く映る。

しがらみのない地域政党なら何かをやってくれそうだという漠とした期待も生んでいる。

世論調査の結果からも、政治に新風を吹き込む勢力として、維新の会が相当の支持を集めているのは事実だ。

既成政党は、維新の何が世間を引きつけるのか考えるべきだ。根っこにあるのは、今の政治全体に対する不信感である。

毎日新聞 2012年02月16日

「維新」公約案 既成政党への挑戦状

橋下徹大阪市長が率いる「大阪維新の会」が中央政界進出の動きを加速している。次期衆院選に向けた公約の骨格をまとめ、同党が開く政治塾には3000人を超す希望者が参加を申しこんだ。

橋下氏の行動がここまで国民の関心を集めているのは、既成政党への強烈な不信の裏返しだ。頼りない政権運営、不毛な対立と混乱が生んだ失望の深刻さを直視しなければならない。一方で、中央進出を目指す以上、維新の会が責任ある政策の全体像を示すことは当然である。

首相公選制、参院廃止の検討、年金「掛け捨て制」の導入……。多くの政党が二の足を踏むに違いない公約のたたき台は、まるで既存の政治にたたきつけた挑戦状のようだ。

橋下氏が率いる維新の会は大阪府、大阪、堺両市を再編して広域行政機能を一元化する大阪都構想の実現を金看板に掲げる。実現には立法措置が必要なため、橋下氏は昨年の「大阪ダブル選」勝利をはずみに各党に協力を呼びかけてきた。

それだけに今回、なぜ衆院選候補の大量擁立に動き出したかの説明が不足していることは否めない。地域政党の国政進出自体は否定しないがあくまで「大阪都」実現へ他党に同調を迫る揺さぶりなのか、それとも既成政党を一掃し、多数勢力の形成を目指そうとしているのか。

幕末の志士、坂本竜馬の「船中八策」になぞらえた公約の骨格に盛り込まれた項目のいくつかは統治の根幹にかかわり、憲法改正を必要とするテーマだ。なお未整理ではあるが、統治システムの変革を目指し、競争重視で内外の課題を解決しようとする方向性は一貫している。

だが、国政に進出する展開を目指す政党の政策の全体像としては、やはり粗さも目立つ。橋下氏がかねて力説する「道州制」導入への工程を柱とする分権改革のビジョンはもっと磨きをかけるべきだ。喫緊の課題で国民の生活に直結する税と社会保障の踏み込んだ説明、当面の消費増税問題への対応は特に重要だ。

維新の会以上に問われるのは、既成政党だ。「橋下旋風」をおそれて秋波を送り続けるようでは、足元を見られるばかりだ。民主党の現職議員が離党もせず維新政治塾に参加を申し込んでいたという。何ともしまりのない状況の反映である。

強まる不信をよそに衆院解散の駆け引きに明け暮れ、国会で何の成果も出せないようでは橋下氏にわざわざ与野党で塩を送り続けるようなものだ。一体改革、衆院小選挙区の1票格差是正、公務員給与削減などに着実に答えを出すことが最大の対抗策だ。「大衆迎合」と新たな脅威を批判するだけでは、無意味である。

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