東電国有化 ゴネ得を許すな

朝日新聞 2012年02月11日

東電国有化 ゴネ得を許すな

福島第一原発の事故で経営難におちいった東京電力の国有化をめぐり、激しい駆け引きが繰り広げられている。

焦点は、国費の注入で国がどこまで経営権を握るかだ。

政府の窓口として東電に賠償資金を支援している「原子力損害賠償支援機構」は、議決権を支配できる3分の2以上の株式取得を主張している。

これに対し、東電は「国が拒否権を使える3分の1まで」と抵抗しているという。

おかしな話だ。

賠償や廃炉でお金が必要なのは、東電のほうである。巨額の費用を自力でひねり出す力がない。それどころか、本来ならとっくに破綻(はたん)している財務状況にある。

国の支援は、賠償金の支払いや事故処理が滞ったり、電力供給に支障をきたしたりしないための措置だ。東電を助けるためではない。そうでなければ、納税者は納得しまい。

死に体となった企業なのに、なぜ勝手なことを言うことが許されているのか。

まだある。

資本注入額と想定されている1兆円は、できるだけ国費の投入を抑えつつ、現在の東電の株価に照らして株式の3分の2を取得できる水準を考えて算出されている。

「3分の1まで」というからには、金額も半分でいいのかと思えば、そこは「1兆円が必要だ」ということらしい。

これでは、ゴネ得もいいところではないか。

そもそものボタンのかけ違えは、早い段階で東電を実質破綻企業と断じて、公的管理下に置かなかったことにある。

確かに、現行の原子力損害賠償法や破産法制の枠組みのもとでは、難しい面もあった。

だが、そこに乗じて東電処理に反対したのが、財政負担を避けたい財務省だ。融資の焦げ付きを恐れて、救済を画策した主力銀行と思惑が一致した。この「呉越同舟」二者が今回も水面下で動いているという。

繰り返すが、東電には自力で賠償や廃炉費用をまかなう能力はない。破綻処理が筋だ。存続させたところで問題の先送りにすぎない。

東電を温存すれば、満足に投資ができない不健全な企業が居座ることになる。電力市場への新たな事業者の参入による経済の活性化や雇用創出を妨げる。

「金を出す以上、口を出すのは当たり前」(枝野経済産業相)である。3分の2以上の株式が握れないのなら、税金投入をやめるべきだ。

毎日新聞 2012年02月14日

東電実質国有化 政府も責任を自覚せよ

枝野幸男経済産業相が、東京電力に対し、福島第1原発事故の賠償資金として約6900億円の追加支援を認めた。政府はこれとは別に、東電の債務超過を回避するため、公的資金で資本注入し実質国有化する方針だが、その際の経営権(議決権)をめぐる政府と東電の綱引きから、賠償支援の認定が遅れていた。

しかし、不毛な綱引きで被害者救済が遅れるようでは、本末転倒だ。資本注入で一定の経営権を握る政府は、原発事故の早期収束と被害者救済、電力安定供給の責任を自ら担う自覚を持つ必要がある。

追加支援認定を受けて、東電が発表した11年4~12月決算は、約6200億円の最終赤字だった。原発停止に伴う燃料費の負担増などが大きく、公的資金による資本注入がなければ、13年3月期に債務超過に陥るおそれがある。そこで、1兆円規模の資本注入が検討されている。

東電の時価総額は約3200億円だから、政府は1兆円の出資により議決権の4分の3まで獲得可能だ。3分の2以上持てば、政府が組織再編など経営の重要事項を決められる。枝野経産相は追加支援の認定に際し、東電の西沢俊夫社長に「十分な議決権」の譲渡を求めた。少なくとも議決権の過半を取得して一定の経営権を握り、発送電分離などの電力制度全体の改革につなげる狙いがあるようだ。

一方、東電は国が経営権を握ることに抵抗している。西沢社長は決算発表の席上、「経産相の考えもよく考慮しながら議論していく」と述べ、慎重な姿勢をにじませた。

しかし、この綱引きにどれほどの意味があるのだろうか。東電支援の目的が、福島第1原発事故の早期収束、被害者への迅速な損害賠償、電気の安定供給にあることを忘れてはならない。

東電は原子力損害賠償支援機構と3月末までに、公的資本注入を盛り込んだ総合特別事業計画を策定する。東電が合理化など身を切る努力を尽くすことは当然だが、政府も出資する以上、責任を負う。

ところが、政府が過半数の議決権を得ることに関し、財務省は原発廃炉や賠償への国の負担が増すことを理由に反対している。政府内で意見が対立し、責任負担への腰が引けているようでは、東電の経営を任せられるか心もとない。

原発再稼働も電気料金値上げもない場合、東電は燃料費の負担増のために、1兆円の資本注入を受けてもほぼ1年で食い尽くす計算だ。合理化で吸収するにも限界がある。国民負担で、東電の経営権を握るのであれば、政府はこの構造的な問題解決に責任を持って取り組むべきだ。

読売新聞 2012年02月17日

東電「国有化」 なぜ経営権取得を急ぐのか

電力危機の回避へ、東京電力への公的資金注入はやむを得ないが、国が急いで東電の経営権を握る必要はあるまい。

東電と原子力損害賠償支援機構は共同で、総合特別事業計画をまとめる。機構を通じて約1兆円の公的資金を注入し、東電の財務基盤を強化する方向だ。

これに関連し、枝野経済産業相は西沢俊夫東電社長に、「国の十分な議決権が伴わない形で計画が提出されても、認定するつもりはまったくない」と通告した。

国が東電株の過半数から3分の2以上の議決権を持ち、経営を掌握する意向を示したものだ。

東電は2011年4~12月期の決算で6000億円超の赤字を計上し、財務は火の車である。

西沢社長は「民間の方が望ましい」と訴えているが、東電の破綻を防ぐために公的資金を注入する以上は、経営に国が関与し、合理化の徹底や料金値上げの抑制を求めるのは当然だろう。

とはいえ、枝野氏が国による経営支配を注入の条件としたのは行き過ぎだ。そもそも国に企業経営の優れたノウハウがあるのか。東電の経営が非効率になって、“第二の国鉄”となりかねない。

損害賠償の費用は支援機構の援助で確保できる。事故収束や廃炉のコストも当面、議決権のない優先株の資本注入で賄える。東電に経営努力を促したいのなら、優先株を普通株に転換できる条件をつければいい。

経団連の米倉弘昌会長が「国有化というのは、とんでもない勘違い」と批判したのに対し、枝野氏は「経団連でお金を集めてもらえればありがたい」と皮肉った。感情的な対立に発展させず、冷静に話し合うことが求められる。

財務省などは、国有化すると賠償の遅れなどで国が批判の矢面に立たされ、財政負担も増えかねないとして慎重だ。政府内の不一致で、重要なエネルギー政策が迷走するようでは困る。

枝野氏や経産官僚は経営権を握り、政府の主導で発送電分離などの電力制度改革を進めようと狙っているのかもしれない。

だが、制度改革は中長期的なテーマであり、他の電力会社にも影響が及ぶ。東電の経営問題と切り離し、じっくり議論すべきだ。

最優先の課題は、福島第一原子力発電所事故の収束と被害者への損害賠償である。それには東電の経営安定が欠かせない。

安全確認できた原発は再稼働し、電力需給の逼迫(ひっぱく)を解消することも急務である。

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