民主党が政権公約(マニフェスト)に掲げた新年金制度案の財政試算をようやく公表した。
野党の求めに応じたものだが、社会保障と税の一体改革に関する与野党協議は始まりそうもない。
政府・民主党は、新年金制度案に問題が多いことを認め、一体改革の素案から削除すべきだ。
岡田副総理は、衆院予算委員会で、試算の公表に関連して、「各党の議論で、今の年金制度を変えていく方が弊害はより少ないとなれば、そういう選択肢はある」などと、撤回に含みを残した。
野党に柔軟姿勢を示すことで、与野党協議に入りたいのだろう。公明党は、協議の環境を整えるには撤回が欠かせないと主張している。政府・民主党は打開策を探らねばならない。
そもそも、政府・民主党が一体改革素案に「来年の国会に新年金制度創設法案を提出する」と明記したこと自体、無理があった。
野田政権は、消費税率引き上げを柱とする一体改革の実現を最優先しているのに、野党が反発する新年金制度に取り組むとアピールすることは理解できない。
新年金制度案は、国民共通の「所得比例年金」を基本に、その額が少ない高齢者には、税金を財源とする最低保障年金を月額7万円まで上乗せする仕組みだ。
所得比例年金には、現在、国民年金に加入している自営業者らも加わることになる。企業が保険料を半額負担する会社員と、そういった仕組みがない自営業者との負担の格差をどう埋めるのか。
試算によると、消費税率を10%に引き上げるのとは別に、高齢化がピークとなる2075年時点では、最大7・1%分の追加引き上げが必要となる。こうした抜本改革を1年間程度の検討で法案化するのは難しいだろう。
試算は、制度の設計次第で、財源の規模も、給付と負担の割合も変わるとしている。しかし、多くの人が不公平と感じない“落とし所”は容易に見つかるまい。
一体改革の素案には、厚生年金と共済年金の統合、パートの厚生年金加入拡大、低年金者への上乗せ支給など、現行制度の大きな改善策が盛り込まれている。
こうした改良をきめ細かく重ねることで、低所得者も、できるだけ無理のない保険料負担で年金制度に参加できるようになる。最低保障機能も強化される。
それは結果的に、民主党が目指す新年金制度案の趣旨を体現することにつながるはずである。