成年後見 地域の工夫で支えたい

朝日新聞 2012年02月06日

成年後見 地域の工夫で支えたい

認知症のお年寄りや、精神障害で判断の力が衰えた大人のために、財産や生活を保護するのが成年後見制度だ。全国で14万5千人が使っている。

この制度の信頼を揺るがしかねない事態が続いている。本人に代わり、財産の管理や介護保険などの契約をする後見人が、その立場を悪用した事件がたくさんおきているのだ。

最高裁が調べたところ、昨年6月までの13カ月間で、後見人になった親族による財産の着服が少なくとも239件、総額26億3千万円にのぼった。

後見人の約6割を親族が占めるが、弁護士や社会福祉士ら専門職が選ばれることもある。不正は専門職にも及んでいる。

沖縄では、後見人に選ばれた県司法書士会の元会長が、計4人の財産約1億3千万円を自分の投資に流用していた。

事態を見すごせないとして、最高裁は今月から後見制度支援信託を始めた。これは、後見される人の財産の大半を信託銀行に預け、日常生活などに使うお金を預貯金として後見人が管理するものだ。

最高裁は信託の契約時には専門職がかかわると想定しているが、その後は親族が後見人を務めることができるため、費用は安く済むと見込む。

福祉や法律の専門職らがチームで支援する「法人後見」は、不正防止のためにも利点が大きい。まだ全体の3%にとどまるが、社会福祉協議会をはじめ、引き受ける団体は増えている。

北九州成年後見センター「みると」では、法律専門職と福祉専門職、事務局職員の3人がチームを作り、ひとつの後見事務を担う。可能なかぎり、家族からの相談をほかにまわさず対応できるよう心がけている。

金銭の出し入れをする係の職員は別にいる。金銭管理を一人の担当者に集中させず、出し入れの透明さを保っている。

同じ事務室には、社会福祉協議会が運営する権利擁護・市民後見センター「らいと」が入っている。こちらでは、地域のネットワークを生かしながら世話をする「市民後見人」が活動している。

親族間にもめごとがあるなど難しい案件は「みると」で、そうではないものは「らいと」で扱う。そんなふうに臨機応変な取り組みをして、ほかの自治体から見学が続いている。

これからも続く高齢化で、成年後見制度の利用はさらに増えるだろう。手軽に使えて、後見してもらう人への真の支援になる仕組みを、各地で築いていきたい。

読売新聞 2012年02月07日

成年後見制度 不正防止と人材育成が急務だ

認知症などで判断能力が衰えた人たちを支える成年後見人の不正行為が後を絶たない。

最高裁の調査によると昨年6月までの13か月の間に、財産を着服する不正は242件あり、被害総額は26億7500万円にのぼる。

加害者の大半は、親族の後見人だ。被害者の財産管理を任されていながら、銀行口座から無断で預金を引き下ろし着服するといったケースが多い。急速に進む社会の高齢化に、制度が追いついていないということだ。

最高裁は2月から、「後見制度支援信託」を導入した。本人の財産の大半を信託銀行に預け、日常分を親族後見人が管理する。

自宅の修復など多額の出費が必要になった場合は、親族後見人が家庭裁判所の審査を経て信託財産を引き出せる仕組みだ。

従来は、本人に多額の資産がある場合、家裁は親族よりも弁護士や司法書士ら専門職を後見人に選んできた。不正は、親族に比べて格段に少ないが、専門職に支払う報酬の負担が生じる。

支援信託には、不正の防止と費用負担の軽減効果が期待される。指導・監督する家裁は、運用開始後も、後見人の不正防止に目を光らせてもらいたい。

深刻なのは、後見人不足だ。

新たに成年後見人を依頼する件数は、年3万件を超えている。2000年の発足当時の4倍強だ。認知症高齢者やお年寄りの単身世帯数の増加が影響している。

一方、少子化・核家族化で親族後見人のなり手は減少している。現在、後見人名簿には弁護士ら専門職が全国で約1万2000人登録されているが、将来の後見人不足は必至だ。対策が急がれる。

地域の「市民後見人」を生かしたい。この仕組みは、後見業務を適正に行う人材の育成を求めた老人福祉法から生まれた。

研修を積んだ市民が市区町村に登録され、家裁が選任する。東京都の一部の区や大阪市が先駆的に取り組んでいるが、まだ全国で200人程度である。

市民後見人は、専門職より時間に余裕があり、地域に通じている。報酬よりも、やりがいに魅力を感じて応募する人が多い。

昨年の老人福祉法改正で、市民後見人の育成は、市区町村の努力義務となった。厚生労働省は研修や講習会を開催するなど、自治体の育成事業を支援している。

受講者には、高い倫理観を養い、法的知識や実習など充実した指導を施すことが必要となろう。

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