認知症などで判断能力が衰えた人たちを支える成年後見人の不正行為が後を絶たない。
最高裁の調査によると昨年6月までの13か月の間に、財産を着服する不正は242件あり、被害総額は26億7500万円にのぼる。
加害者の大半は、親族の後見人だ。被害者の財産管理を任されていながら、銀行口座から無断で預金を引き下ろし着服するといったケースが多い。急速に進む社会の高齢化に、制度が追いついていないということだ。
最高裁は2月から、「後見制度支援信託」を導入した。本人の財産の大半を信託銀行に預け、日常分を親族後見人が管理する。
自宅の修復など多額の出費が必要になった場合は、親族後見人が家庭裁判所の審査を経て信託財産を引き出せる仕組みだ。
従来は、本人に多額の資産がある場合、家裁は親族よりも弁護士や司法書士ら専門職を後見人に選んできた。不正は、親族に比べて格段に少ないが、専門職に支払う報酬の負担が生じる。
支援信託には、不正の防止と費用負担の軽減効果が期待される。指導・監督する家裁は、運用開始後も、後見人の不正防止に目を光らせてもらいたい。
深刻なのは、後見人不足だ。
新たに成年後見人を依頼する件数は、年3万件を超えている。2000年の発足当時の4倍強だ。認知症高齢者やお年寄りの単身世帯数の増加が影響している。
一方、少子化・核家族化で親族後見人のなり手は減少している。現在、後見人名簿には弁護士ら専門職が全国で約1万2000人登録されているが、将来の後見人不足は必至だ。対策が急がれる。
地域の「市民後見人」を生かしたい。この仕組みは、後見業務を適正に行う人材の育成を求めた老人福祉法から生まれた。
研修を積んだ市民が市区町村に登録され、家裁が選任する。東京都の一部の区や大阪市が先駆的に取り組んでいるが、まだ全国で200人程度である。
市民後見人は、専門職より時間に余裕があり、地域に通じている。報酬よりも、やりがいに魅力を感じて応募する人が多い。
昨年の老人福祉法改正で、市民後見人の育成は、市区町村の努力義務となった。厚生労働省は研修や講習会を開催するなど、自治体の育成事業を支援している。
受講者には、高い倫理観を養い、法的知識や実習など充実した指導を施すことが必要となろう。
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