日米両政府は、在日米軍再編を見直す共同文書を発表した。
06年に両政府が合意し、繰り返し確認されてきた米軍再編のロードマップ(行程表)は、(1)米軍普天間飛行場の名護市辺野古への県内移設(2)在沖縄米海兵隊約8000人のグアムへの移転(3)米空軍嘉手納基地より南にある米軍6施設・区域の返還--などを柱とし、これらを「パッケージ」で進めるとしていた。
見直しは、(2)(3)を(1)と切り離して先行実施するというものである。両政府は米軍再編によって「抑止力の維持」と「沖縄の負担軽減」の両立を図ると説明してきた。見直しはロードマップの大きな変更である。再編目的にどう影響するのか、慎重に見極める必要がある。
共同文書では、普天間の辺野古への移設計画は堅持するとされた。両政府によると、海兵隊は、グアム移転を約4700人に縮小し、残りの約3300人はハワイ、豪州、フィリピンなどに「ローテーション」で分散移転する。また、嘉手納以南の6施設のうち沖縄から強い返還要望のある牧港補給地区(浦添市)やキャンプ瑞慶覧(北谷町など)の一部返還を日米で協議するという。
見直しの動きを通じて浮き彫りになったのは、米軍再編は、当初計画が最終決定であると強調してきた日本政府のように固定的に考えるべきでなく、弾力的で融通自在なものであるということだろう。
今回の見直しは、グアムへの海兵隊移転費を含めた国防費の削減圧力を強める米議会の動きがきっかけとなり、米政府の主導で始まった。
安全保障環境の変化のみならず、財政上の問題、国防費削減を前提にした新たな国防戦略、辺野古移設の困難さ、再編をめぐる両国内の政治状況、米側の動きはこれらを総合的に検討した結果である。
これに対して、日本政府の動きは物足りない。再編の前提は中国の軍事的台頭や朝鮮半島情勢など東アジアの安保環境に対する判断であり、米側の意向が優位になりがちなことは事実だろう。しかし、それでも、海兵隊の海外移転など、沖縄が強く求め、日米がすでに合意している具体的な負担軽減策の先行実施を、米側に先んじて提起できなかった日本政府の姿はふがいなさ過ぎる。
「米国にモノが言えない」背景には、民主党政権が戦略的な安全保障政策を持ち合わせていないという事情がある。この現状を脱却することが野田政権に何より求められる。
そのうえで、日本政府が今、最優先で取り組むべき課題は、普天間飛行場の固定化回避である。
米側が普天間問題と海兵隊移転などを切り離したのは、普天間の固定化もやむなしと判断した結果ではないか、との懸念はぬぐえない。沖縄が反対する「辺野古への移設」一辺倒の主張は、辺野古移設か固定化かという二者択一を沖縄に迫るものであり解決は困難だ。結果的に固定化の可能性が高まっている。野田佳彦首相がそれを知らないはずはない。
日本政府は、辺野古への移設が困難になっている沖縄の政治状況を米側に正確に伝え、見直しを視野に入れて再検討するよう強く申し入れるべきである。辺野古への移設でなければ抑止力が維持できないというのは、今回の見直しの経緯を見ても説得力に欠ける。共同文書で辺野古への移設を再確認したのは残念だ。
同時に、普天間問題の解決には時間がかかることを考慮し、その間の周辺住民の危険性を除去するため、普天間機能の分散などの対策を講じるよう改めて求める。
見直しの協議のなかで、「ローテーション」の海兵隊の一部を米海兵隊岩国基地(山口県岩国市)に駐留させる案を、米側が日本側に打診していたことが明らかになった。
基地機能の分散自体は沖縄の負担軽減に結びつく。しかし、グアムに移転するとされていた約8000人の一部が国内の他の基地に移転されるとすれば、当初計画より後退と言わざるを得ない。将来、沖縄の負担をさらに軽減する際の足かせになりかねず、慎重な検討が必要だ。
また、グアムへの移転規模が縮小されるのだから、移転費の総額102・7億ドルのうち日本側が60・9億ドルを負担するとした過去の合意を見直し、日本側の負担を減額するのは当然である。両政府間で協議を進めるものと見られるが、「ローテーション」対策などの名目で、米政府が支出すべき費用を日本側が補填(ほてん)するようなことは避けるべきだ。
こうした課題を解決し、米軍再編の作業を進めるには、日本側もしっかりとした態勢が必要となる。特に、普天間問題は固定化をめぐって今後、正念場を迎える。
ところが、田中直紀防衛相は、防衛・安保政策をめぐって国会答弁で訂正や謝罪を繰り返し、閣僚席の後ろに控えた秘書官らに耳打ちされながら答弁に立つ姿がテレビで何回も放映されて、野党から資質を問う声が上がっている。米軍再編、普天間問題という難しいテーマで指導力を発揮できるのか、疑念がある。国益を代表する政府の態勢を整えるのは、野田首相の責任である。
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