米軍再編見直し 普天間置き去りは困る

朝日新聞 2012年02月10日

沖縄負担軽減 見える成果につなげよ

日米両政府が、在日米軍再編見直しの基本方針を発表した。

沖縄・普天間飛行場の移設と3点セットだった海兵隊のグアム移転と、嘉手納基地より南の5施設の返還を、普天間とは切り離すことにした。

返還合意からすでに16年、いっこうに動かぬ普天間とは別に、できるところから着手しようというわけだ。従来のかたくなな姿勢を改めたことは評価する。今後の交渉で、具体的な成果につなげてほしい。

両国政府はこれを機に、在日米軍基地の4分の3が集中する沖縄の過重な負担を、確実に削っていくべきだ。

地元にとって、とくに重要なのは、人口が多い本島中南部に広がり、産業振興などの足かせになっている基地の返還だ。

市街地に近い基地の跡地を再開発すれば、新たな雇用の場や経済効果も望める。那覇新都心や北谷(ちゃたん)町のハンビータウンといった先行例もある。しっかり実現させることを望む。

海兵隊のグアム移転は、8千人だった計画を、4700人に縮小する見通しだ。残りは豪州やフィリピンなどにローテーションで派遣するという。

もともとは、14年までに移転を終えるはずだった。具体的な手法とともに、改めて明確な期限を設ける必要もある。

兵員の規模が小さくなるのだから、その経費の日本側の拠出も減らすのが当然だ。

国の安全保障にかかわる負担は、国民全体で分かち合おうという観点に立てば、本土の基地で一部を受け入れることも検討すべきだろう。過去にも実弾演習を北海道や大分県などに分散移転させている。

ただ、米側に打診された山口県の岩国基地は、空母艦載機59機と兵員・家族4千人が神奈川県の厚木基地から移る。性急なさらなる負担には無理がある。

日米両政府は、負担軽減の実績をあげることで、普天間の辺野古移設への理解を得たい、事態打開の機運をつくりたいという思いだろう。

だが、普天間の県外・国外移設を求める沖縄の固い民意が変わる見通しはない。

両国政府がこの現実を見誤ったまま、従来の方針にこだわり続ければ、普天間を固定化させるだけだ。米国側でさえ「事故が起きない方が不思議だ」という危険な施設を、放置することは許されない。

改めて指摘する。

もはや、辺野古移設は白紙に戻すしかない。今回の方針転換を、堂々巡りの議論から抜け出す出発点にすべきだ。

毎日新聞 2012年02月09日

米軍再編見直し 「戦略なき安保」脱却を

日米両政府は、在日米軍再編を見直す共同文書を発表した。

06年に両政府が合意し、繰り返し確認されてきた米軍再編のロードマップ(行程表)は、(1)米軍普天間飛行場の名護市辺野古への県内移設(2)在沖縄米海兵隊約8000人のグアムへの移転(3)米空軍嘉手納基地より南にある米軍6施設・区域の返還--などを柱とし、これらを「パッケージ」で進めるとしていた。

見直しは、(2)(3)を(1)と切り離して先行実施するというものである。両政府は米軍再編によって「抑止力の維持」と「沖縄の負担軽減」の両立を図ると説明してきた。見直しはロードマップの大きな変更である。再編目的にどう影響するのか、慎重に見極める必要がある。

共同文書では、普天間の辺野古への移設計画は堅持するとされた。両政府によると、海兵隊は、グアム移転を約4700人に縮小し、残りの約3300人はハワイ、豪州、フィリピンなどに「ローテーション」で分散移転する。また、嘉手納以南の6施設のうち沖縄から強い返還要望のある牧港補給地区(浦添市)やキャンプ瑞慶覧(北谷町など)の一部返還を日米で協議するという。

見直しの動きを通じて浮き彫りになったのは、米軍再編は、当初計画が最終決定であると強調してきた日本政府のように固定的に考えるべきでなく、弾力的で融通自在なものであるということだろう。

今回の見直しは、グアムへの海兵隊移転費を含めた国防費の削減圧力を強める米議会の動きがきっかけとなり、米政府の主導で始まった。

安全保障環境の変化のみならず、財政上の問題、国防費削減を前提にした新たな国防戦略、辺野古移設の困難さ、再編をめぐる両国内の政治状況、米側の動きはこれらを総合的に検討した結果である。

これに対して、日本政府の動きは物足りない。再編の前提は中国の軍事的台頭や朝鮮半島情勢など東アジアの安保環境に対する判断であり、米側の意向が優位になりがちなことは事実だろう。しかし、それでも、海兵隊の海外移転など、沖縄が強く求め、日米がすでに合意している具体的な負担軽減策の先行実施を、米側に先んじて提起できなかった日本政府の姿はふがいなさ過ぎる。

「米国にモノが言えない」背景には、民主党政権が戦略的な安全保障政策を持ち合わせていないという事情がある。この現状を脱却することが野田政権に何より求められる。

そのうえで、日本政府が今、最優先で取り組むべき課題は、普天間飛行場の固定化回避である。

米側が普天間問題と海兵隊移転などを切り離したのは、普天間の固定化もやむなしと判断した結果ではないか、との懸念はぬぐえない。沖縄が反対する「辺野古への移設」一辺倒の主張は、辺野古移設か固定化かという二者択一を沖縄に迫るものであり解決は困難だ。結果的に固定化の可能性が高まっている。野田佳彦首相がそれを知らないはずはない。

日本政府は、辺野古への移設が困難になっている沖縄の政治状況を米側に正確に伝え、見直しを視野に入れて再検討するよう強く申し入れるべきである。辺野古への移設でなければ抑止力が維持できないというのは、今回の見直しの経緯を見ても説得力に欠ける。共同文書で辺野古への移設を再確認したのは残念だ。

同時に、普天間問題の解決には時間がかかることを考慮し、その間の周辺住民の危険性を除去するため、普天間機能の分散などの対策を講じるよう改めて求める。

見直しの協議のなかで、「ローテーション」の海兵隊の一部を米海兵隊岩国基地(山口県岩国市)に駐留させる案を、米側が日本側に打診していたことが明らかになった。

基地機能の分散自体は沖縄の負担軽減に結びつく。しかし、グアムに移転するとされていた約8000人の一部が国内の他の基地に移転されるとすれば、当初計画より後退と言わざるを得ない。将来、沖縄の負担をさらに軽減する際の足かせになりかねず、慎重な検討が必要だ。

また、グアムへの移転規模が縮小されるのだから、移転費の総額102・7億ドルのうち日本側が60・9億ドルを負担するとした過去の合意を見直し、日本側の負担を減額するのは当然である。両政府間で協議を進めるものと見られるが、「ローテーション」対策などの名目で、米政府が支出すべき費用を日本側が補填(ほてん)するようなことは避けるべきだ。

こうした課題を解決し、米軍再編の作業を進めるには、日本側もしっかりとした態勢が必要となる。特に、普天間問題は固定化をめぐって今後、正念場を迎える。

ところが、田中直紀防衛相は、防衛・安保政策をめぐって国会答弁で訂正や謝罪を繰り返し、閣僚席の後ろに控えた秘書官らに耳打ちされながら答弁に立つ姿がテレビで何回も放映されて、野党から資質を問う声が上がっている。米軍再編、普天間問題という難しいテーマで指導力を発揮できるのか、疑念がある。国益を代表する政府の態勢を整えるのは、野田首相の責任である。

読売新聞 2012年02月09日

海兵隊先行移転 米軍施設の早期返還を目指せ

在沖縄米海兵隊の先行移転によって、米軍施設の返還や地元の基地負担の軽減を早期に実現することが肝要である。

日米両政府が、2006年に合意した在日米軍再編計画の見直しに関する「共同報道発表」を公表した。

在沖縄海兵隊のグアム移転とそれに伴う米軍施設の返還は、普天間飛行場の移設と切り離し、先行実施する。普天間飛行場の辺野古移設については、「唯一の有効な進め方」として、引き続き堅持する方針を明記した。

海兵隊のグアム移転は昨秋、米議会が関連予算を凍結した。普天間飛行場の辺野古移設は、地元の反対で難航している。

今回の見直しは、両者のうち海兵隊移転を優先するものだ。玄葉外相は「いかなる意味でも、普天間の固定化を容認するものではない」と強調したが、普天間飛行場の現状が長期間続く恐れは否定できず、「両刃の剣」と言える。

海兵隊のグアム移転の規模は8000人から4700人前後に縮小される。ハワイなどへの分散移転によって移転全体の規模を維持し、沖縄駐留は1万人程度にまで削減する方針だ。詳細は数か月かけて日米が協議するという。

政府はまず、グアム移転の具体化を急ぎ、沖縄の負担を目に見える形で軽減することに全力を挙げる必要がある。米軍の抑止力の維持と基地の安定使用には、地元の理解が欠かせない。

海兵隊4700人がグアムに移転すれば、隊員による事件・事故の減少や騒音の軽減が期待できよう。06年の日米合意に明記されたキャンプ瑞慶覧、牧港補給地区など沖縄県南部の米軍5施設の返還も動き出す可能性が高い。

人口密集地にも近い米軍施設の跡地を有効利用することは、沖縄振興の有力な手段となる。

政府と沖縄県は、米軍施設返還後の沖縄の将来像を積極的に話し合い、接点を探るべきだ。それが、普天間飛行場の固定化を避け、辺野古移設を前進させる突破口にもなるのではないか。

普天間問題を迷走させ、辺野古移設を困難にした責任は、鳩山元首相と民主党政権にある。野田首相は、それを自覚し、問題解決に正面から取り組むべきだ。

グアム以外の海兵隊の移転先はハワイのほか、様々な案が浮上しているが、まだ流動的だ。実現には時間がかかるだろう。

政府は、8000人の移転が実現するよう、腰を据えて米側と協議しなければならない。

朝日新聞 2012年02月07日

海兵隊移転 辺野古を見直す一歩に

沖縄県の米軍普天間飛行場の移設問題が、大きな転機にさしかかった。

日米両政府が、在日米軍の再編計画のうち、普天間部分を見直すことで大筋合意したのだ。

06年に決めた計画では、(1)名護市辺野古沖への代替滑走路の建設(2)海兵隊8千人とその家族9千人のグアム移転(3)嘉手納基地より南の六つの米軍施設の返還――を一体のものとして進めるとされた。

海兵隊を減らし、基地を返してもらいたかったら、辺野古移設を受け入れよ――。沖縄の側からすれば、そんな圧力であったに違いない。

ところが両政府は一転、辺野古移設と切り離して、海兵隊の移転を先行させることにした。グアムへ移す規模は4700人に縮小し、残りは豪州やフィリピンなどにローテーションで派遣するという。

詳細は未定だが、大規模な兵員の移転になれば、目に見える沖縄の負担軽減策になるだろう。これを機に両政府は、ほかの返還候補の施設についても、前倒しを検討すべきだ。

同時に、普天間が現状のまま放置されることは、断じて許されない。市街地の真ん中にある飛行場の危険性除去こそが、日米合意の原点であることを忘れてはいけない。

この考えに立ったうえで、私たちは日米両政府が辺野古移設を計画通りすすめることに異議を唱える。

それは、県内移設に反対する沖縄の民意は堅く、このままでは普天間の返還が実現しないのは明らかだと考えるからだ。知事が辺野古沖の埋め立てを許可する見通しもない。

ならばこそ、今回の見直しを辺野古案を白紙に戻す追い風ととらえ、新たな打開案を探る第一歩とすべきだ。

海兵隊の先行移転は、米国政府の事情によるものだ。

国防費の大幅な削減を迫られる一方で、今後のアジア太平洋戦略の拠点として、グアムの布陣は整えたい。海洋進出を強める中国をにらみ、南シナ海にも海兵隊の足場を築きたい。

こうした国内事情や戦略環境の変化に、米国はドライに柔軟に対応したのだ。

翻って日本政府は、どうか。「日米合意を踏襲する」と繰り返すばかりで、いつも受け身でしかなかった。

野田首相はきのうの国会で、普天間を固定化させない決意を語った。そのためには、米国の国内事情を勘案しながら、沖縄も納得させる、日本独自のしたたかな構想が要る。

毎日新聞 2012年02月07日

米軍再編見直し 普天間置き去りは困る

日米両政府は、在沖縄米海兵隊のグアム移転と米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設を「パッケージ」としてきた米軍再編の日米合意を見直し、海兵隊移転を切り離して先行させることで大筋合意した。

具体的には、海兵隊のグアムへの移転規模を当初の約8000人から約4700人に縮小し、残りの約3300人はオーストラリアやフィリピンなどの米軍基地にローテーションで分散移転するという。

グアム移転費を含めた国防費の大幅削減を求める米議会の理解を得るため、米政府が移転計画の見直しを主導したものとみられる。

もともと、普天間周辺の住民の危険除去を目的とする飛行場の返還・移設と、米軍再編の一環である海兵隊のグアム移転は、歴史的経緯もその性格も異なる。それが、06年の米軍再編に関する日米合意でセットにされたというのがいきさつだ。

沖縄に集中する海兵隊の海外移転が進めば、沖縄の基地負担の軽減に結びつくのは間違いない。「切り離し」が早期の海兵隊移転につながるとすれば、それ自体は前進だろう。

しかし、この「切り離し」が普天間問題の「置き去り」を招くことになっては決してならない。

「米政府は海兵隊移転で普天間問題解決の意欲を失うのではないか」「普天間が固定化されるのでは」--こうした沖縄の不安に、日米両政府はきちんと答える必要がある。

野田佳彦首相は「固定化への懸念は承知しているので、全力で(日米で)協議していく」と語った。言葉通り、普天間の固定化回避を最優先して取り組んでもらいたい。

毎日新聞は普天間移設について、沖縄が反対する「名護市辺野古への県内移設」の見直しを視野に入れて再検討するよう求めてきた。そうでなければ最悪の事態である「普天間の固定化」が現実味を帯びてくるからだ。米側に再検討を提起する勇気を、野田首相に求める。

また、海兵隊の海外移転見直しについて2点、注文したい。

まず、グアム移転早期実現の協議を急ぎ、残りの部隊の「ローテーションによる分散移転」が現実に沖縄の負担軽減となるよう詳細を詰めることだ。ローテーションの内容しだいで、海外移転が事実上、グアム移転だけになり、負担軽減策が後退してしまうとすれば、論外である。

さらに、グアムへの移転規模の縮小に伴って、総額102・7億ドルのうち日本側が60・9億ドルを負担するとした日米合意も見直さざるを得ない。日本側の負担減額を要求するのは当然であり、「ローテーション」対策として安易な支出に踏み切るようなことは避けるべきだ。

読売新聞 2012年02月07日

米軍再編見直し 普天間の固定化回避に努めよ

米軍普天間飛行場の移設と、在沖縄海兵隊のグアム移転が「共倒れ」する最悪の事態を防ぐ狙いは、悪くないだろう。

日米両政府が、2006年の在日米軍再編計画を見直すことで大筋合意した。

海兵隊のグアム移転の規模を8000人から4700人に縮小する。「一体の計画」だった普天間移設を切り離し、海兵隊移転を先行させる。これが見直しの柱だ。

海兵隊の海外移転全体の数は変更せず、残る3300人程度はハワイ、豪州などに移転させる方向で調整するという。

米政府は、海兵隊移転の規模を修正することで、国防費削減を求める連邦議会の了解を得たいのだろう。新たな計画は、オバマ大統領が1月に発表した「アジア重視」の新国防戦略とも合致する。

現状では、グアム移転も普天間移設も頓挫する恐れがあった。4700人の移転でも、沖縄の基地負担は相当軽減する。実現可能な合意から順次、実現しようとする判断は、十分理解できる。

しかし、首相周辺の思惑通り、「野田政権の得点になる」かどうかは楽観できない。

最も懸念されるのは、海兵隊の先行移転によって、普天間移設の機運が低下して、辺野古への移設が進まず、普天間飛行場の危険な現状が固定化することだ。

普天間移設は米軍再編の出発点であり、根幹でもある。移設先は今でも辺野古が最善だ。政府と沖縄県は、冷静に話し合い、固定化回避へ全力を挙げるべきだ。

グアム移転が進めば、キャンプ瑞慶覧など米軍施設の返還も具体化しよう。普天間問題と、他の施設返還や跡地利用を含む沖縄振興策の包括的合意を目指したい。

海兵隊の移転先も、グアム以外は不透明だ。ハワイ、豪州、フィリピンなどを一時駐留して回る案などが検討されている。

8000人の移転が実現するよう、日本政府は、米側と粘り強く交渉することが肝要だ。

日本側が最大28億ドルを資金提供するとしたグアム移転協定も見直す必要がある。移転の規模が縮小する以上、日本の財政支出の減額を求めねばなるまい。

米軍の抑止力の維持も大切だ。海兵隊の移転対象は当初、司令部や後方支援の要員だったが、戦闘部隊も含める方向となった。

中国の軍備増強で沖縄周辺の安保環境が不透明な中、戦闘部隊が移転しても即応能力を低下させない、というメッセージを日米両国が発信することが求められる。

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