沖縄防衛局長 選挙介入が常態なのか

朝日新聞 2012年02月02日

沖縄局長講話 組織ぐるみの「背信」だ

防衛省は本来、官庁のなかでも最も厳しく政治的中立性を保つべき省庁だ。実力組織である自衛隊を率いる以上、組織ぐるみで政治にかかわるようなことは危険きわまりない。

こんな緊張感が完全に欠落している事態が発覚した。

米軍普天間飛行場を抱える沖縄県宜野湾市の市長選に向け、沖縄防衛局が同市に本人や親族が住む職員のリストを作り、真部朗(まなべ・ろう)局長が、棄権しないよう呼びかける「講話」をしていた。

防衛省は、特定の立候補予定者を推すような発言はなかったと説明する。しかし、有権者名簿を作り、局長が働きかけていたのだから、膠着(こうちゃく)状態の普天間移設問題を念頭に、特定候補への投票を暗に促す意図があったと見られて当然だ。

「政治的行為」を厳しく制限した国家公務員法や、公務員の地位を利用した選挙運動を禁じた公職選挙法などに、ただちには違反しないとしても、法の網の目をくぐった政治活動そのものといえる。

一連の指示は、総務部人事係から各部の庶務担当者あてに電子メールで出された。講話は勤務時間中に庁舎内で行われた。まさに組織をあげての活動であり、真部局長の責任は極めて重い。更迭は免れない。

沖縄では、これまでも選挙のたびに、政府の介入が取りざたされてきた。

1997年の名護市の市民投票の際には、久間章生防衛庁長官が沖縄出身の自衛官ら約3千人に文書で協力を求めた。真部局長は一昨年の名護市の選挙でも「同様のことをした」と話している。

こうした動きは、沖縄県内だけのことなのか。全国の自衛隊駐屯地でも似たようなことがありはしないか。

田中直紀防衛相は本省の関与を否定した。だが、今回の背信行為を出先機関の問題に矮小化(わいしょうか)してはいけない。

この際、第三者による調査機関を設けて、過去の選挙にさかのぼって、徹底的な検証をすべきだ。それが十分にできなければ、田中氏の責任も問われることになろう。

昨年末以降、沖縄では政府の信頼が失墜し続けている。

前沖縄防衛局長の女性蔑視の暴言、環境影響評価書の県への提出をめぐるドタバタ、新旧防衛相の沖縄への配慮を欠く不適切な発言……。そこに加えて、この局長講話である。

普天間の辺野古移設は、もう実現する見通しはない。政府は今度こそ立ち止まり、他の打開策を探るべきだ。

毎日新聞 2012年02月02日

沖縄防衛局長 選挙介入が常態なのか

防衛省沖縄防衛局が沖縄県宜野湾市長選(12日投開票)の「有権者リスト」を作成し、真部朗(まなべろう)局長が職員に「講話」を行っていた。政府機関による選挙への介入とも言うべきもので、言語道断である。

共産党が国会で取り上げて明らかになった。防衛省の調査によると、真部局長の指示で同市在住の職員や同市に親族がいる職員80人のリストを作り、職員への講話で市長選への投票を呼び掛けていた。

講話では、市長選立候補予定者を紹介し、米軍普天間飛行場を抱える宜野湾市民の民意が重要であることなどを指摘したという。「特定の立候補予定者を支持する内容は確認されなかった」との調査結果だが、講話内容の記録はない。

公選法は、国家公務員による地位を利用した選挙運動を禁じ、自衛隊法は、文官を含む自衛隊員の政治的行為を厳しく制限している。

宜野湾市長選の行方は、普天間移設問題にも大きな影響を与える。その選挙直前に候補予定者などについて講話を行えば、特定候補予定者への支持に直接、言及がなかったとしても、基地問題の政府方針に都合がよい候補予定者の後押しに含意がある、と受け取るのが普通だろう。

普天間をめぐっては、前沖縄防衛局長の不適切発言、前防衛相の国会答弁などが沖縄の怒りを買った。真部局長の言動が沖縄の不信を増幅させ、問題解決を一層難しくすることは明らかだ。更迭が当然である。

見逃せないのは、真部局長がかつて、政府が普天間の移設先とする同県名護市の選挙でも講話を行っていたことである。名護市では10年1月に市長選、同9月に市議選があり、普天間移設受け入れが争点になっていた。当時の沖縄防衛局長は真部氏だった。政府はこの講話の時期や実態についても調査すべきだ。

同市では97年12月、普天間移設に絡んで海上ヘリポート建設計画の是非を問う市民投票が実施されたが、那覇防衛施設局の職員が戸別訪問やパンフレット配布などで事実上の集票活動を展開、地元で批判を浴びたことがある。選挙などへの介入が繰り返し行われていたとすれば、構造的問題である。

これらの問題を監督する田中直紀防衛相は、普天間周辺での米軍ヘリ飛行について「そんなに多くないのでは」と発言、国会答弁でも訂正、陳謝を繰り返すなど、拙劣な発言と対応が目立つ。野党からは資質を問う声も出ている。

普天間飛行場の固定化(継続使用)を回避し、周辺住民の危険性を除去するために、政府は今後、正念場を迎える。ここは、野田佳彦首相が前面に立って、普天間問題の解決に全力を尽くすしかない。

読売新聞 2012年02月05日

沖縄局長「講話」 「普天間」前進へ態勢立て直せ

違法ではないが、誤解を招きかねない行為だったのは否定できない。

防衛省が、12日投票の沖縄県宜野湾市長選への投票を職員に呼びかけた真部朗沖縄防衛局長について、処分を検討している。

真部局長は1月下旬、宜野湾市内に本人か親族が住む職員66人に講話を行った。米軍普天間飛行場の移設問題に関する政府の立場や立候補予定者の考え方を説明する一方、「公務員は政治的中立性が要求される」と注意を促した。

真部局長は参考人として招致された衆院予算委員会でも、特定の候補を推薦してはいけないなどとする防衛省の服務規律の通達を踏まえた講話だったと強調した。

宜野湾市長選は保革一騎打ちが予想され、その結果は普天間問題にも影響すると見られていた。

真部局長とすれば、公務員の地位を利用した選挙運動を禁じる公職選挙法に抵触しない範囲で、普天間問題の前進の一助となれば、と考えて講話をしたのだろう。

防衛省は、特定候補を支持する発言はなく、違法行為はなかったとしている。その判断は、基本的に妥当と言えよう。

真部局長は一昨年の名護市議選などでも同様の講話を行った。

今回は、一川、田中の2代の防衛相の失言・迷言に加え、前任局長の不適切発言や環境影響評価書提出時の混乱で、沖縄防衛局への地元の視線が険しくなっていたことが、問題を大きくした。

田中防衛相は当初、3日に真部局長を処分・更迭する考えだったが、予算委などで局長の擁護論が出たため、決定を先送りした。

田中氏が「局長に説明責任を果たさせる」と語ったのは、判断先送りで混乱を招いた自らの責任を回避するもので、不見識だ。

前局長に続き、官僚に責任を押しつける安易な対応を重ねれば、政策課題に真剣に取り組んでいる官僚の士気をくじき、防衛行政自体を弱体化させかねない。

野田政権を追及する自民、公明両党の対応にも、疑問がある。

そもそも普天間飛行場の辺野古移設を決めたのは自公政権だ。

野党として、政府の問題点を批判するのは当然だが、結果として辺野古移設の実現を困難にすれば日米関係を不安定化させ、国益を損ねる。党利党略でなく、より大局的な対応が求められる。

普天間問題は今、正念場にある。辺野古移設が頓挫すれば、普天間飛行場は固定化が避けられない。野田政権は態勢を立て直し、移設実現に全力を挙げるべきだ。

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