朝日新聞 2009年10月28日
中医協人事 医療の抜本改革につなげ
医療行為や薬の値段を決めてきた中央社会保険医療協議会の人事を長妻昭厚生労働相が発表した。長妻氏は「医療崩壊を食い止める」ために診療報酬を見直すとし、その考えに沿って委員を選んだと会見で述べた。
民主党は政権公約で、医療再生のために医師の増員とともに「医療機関の診療報酬の増額」を掲げた。開業医に比べて病院勤務の医師らの待遇の改善が遅れている、との認識だ。鳩山政権はこの公約実現に向けて一歩を踏み出したことになる。
来春に控えた報酬改定では、従来の配分方式を改め、地域の医療を支える病院に大胆に上積みすることが期待される。その意味で、中医協の人事も大切なことだ。
今回の人事では、これまで3人いた日本医師会の執行部メンバーが外され、代わりに茨城県と京都府の医師会幹部2人と大学医学部長1人が入る。新委員はいずれも日医の推薦を受けていない。
日医をはじめ関連団体が推薦した人が委員に就く慣例だったが、政権交代で一変した。医師委員5人のうち病院を代表する医師が3人になったことも大きな変化だ。
開業医の意見が強く反映される日医の影響力をそぐ。そこに狙いがあると思われる。
報酬改定については、自民党を支持してきた日医が強い力を持ち続けた。その結果、開業医に比べて病院の再診料は低く抑えられてきた。
近年は医師不足や救急患者の受け入れ能力の低下など、病院の厳しい実態が明らかになるにつれ、救急医療の報酬を増やすといった病院経営への配慮がなされたが、根本解決には遠い。今後の改定が注目されるところだ。
問題は、財源をどうするかである。長妻氏は診療報酬全体を増やす意向を示しているが、今回は病院の勤務医などに手厚く配分する一方で開業医にもある程度は上積みする、ということが可能かどうか。
実際には、病院経営を助けるために開業医の再診料を引き下げられるかが問われるのではないか。
報酬を考える上で負担のあり方をめぐる論議も避けて通れない。現在の仕組みでは、報酬を上げると患者の負担や税、保険料もかさむ。厳しい不況の中で患者にも負担増を求めることができるのか。さまざまな工夫が検討されなくてはならない。
見直しが必要なのは医師の報酬に限らない。技師など高い技術をもつ医療従事者を含めて病院がきちんと評価され、それに見合う報酬を受けるようにするための改革が求められる。
中医協人事は手順のひとつであり、医療再生に結びつけなくては意味がないことを長妻氏は肝に銘じてほしい。
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毎日新聞 2009年10月28日
日医外す中医協 医療再構築の転機に
医療行為や薬の価格である診療報酬を決める中央社会保険医療協議会(中医協)から日本医師会(日医)の代表委員が外されることになった。自民党を歴史的に支持してきた開業医の団体で診療報酬改定に強い影響力を握ってきたのが日医だ。自民党による族議員政治のシンボル的存在でもあっただけに、政権交代を改めて印象づける人事といえる。
表向きの理由は病院勤務医の待遇改善である。激務の割に報酬が少ない勤務医は疲弊しており、病院を辞めて開業に転じる人が増えている。その一方で医師不足に悩む病院は診療科の閉鎖や廃院を余儀なくされている。厚生労働省は前回(08年度)の診療報酬改定で、開業医に比べて低い勤務医の再診料をアップすることを目指したが、日医が開業医の報酬ダウンに抵抗し、中途半端な改定に終わった。このため、民主党は来年度の診療報酬改定に向け、日医の影響力の排除を図ったといわれる。
これまでの日医の推薦枠には茨城県医師会理事、京都府医師会副会長、山形大医学部長が任命される。今回の衆院選で茨城県医師会の政治団体は民主党を支持し、京都府医師会も一部自民離れをするなど日医執行部と距離を置いている。自民党政権下で診療報酬が4回連続マイナス改定されたことへの反発からだった。次の日医会長選には茨城県医師会長が立候補することも表明している。中医協人事の真のねらいが「自民党の支持基盤を覆すため」「日医への報復」とも言われるのはそのためだ。
いずれにせよ、国民にとっては医療崩壊に歯止めをかけることが何よりも重要だ。勤務医や産科、小児科などに手厚い診療報酬の改定に向けて論議してもらいたい。ただ、医師不足は診療報酬だけでなく、新医師臨床研修制度によって都市部の総合病院に医学部卒業生が集中し、若い医師が足りなくなった大学病院が地方の病院から派遣医を呼び戻したことが大きいとも言われている。
日医枠に新たに任命される3人は開業医を主力とする地方の医師会や大学医局が出身母体だが、中医協の場でそれぞれの団体の権益の主張に徹するのでは、日医に代わる圧力団体が登場するだけのことになる。代表委員の入れ替えだけでなく、利害関係者が集まって診療報酬を決める中医協のあり方についても検討すべきかもしれない。
急速な高齢化に伴い医療費は毎年1兆円ずつ膨張している。限られた財源の中で、高齢者医療をどうするのか、大学病院の専門医療と身近な医療機関による総合診療の役割分担、在宅医療の拡充などについて論議し、国民が安心できる医療の再構築に努めてほしい。
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読売新聞 2009年10月28日
中医協人事 脱皮を迫られる日本医師会
日本医師会(日医)が岐路に立っている。
長妻厚生労働相は「中央社会保険医療協議会」(中医協)から日医執行部の代表を排除した。医療行政への日医執行部側の影響力は、著しく低下するだろう。
中医協は診療報酬の価格を決める重要な場だ。年間30兆円を超える医療費の配分に大きな権限を持っている。民主党は中医協の議論は開業医寄りであると批判し、委員構成の見直しを唱えてきた。
日医は医療機関側委員に3人の推薦枠を持ち、従来は推薦通りに任命されていた。だが、9月まで委員だった日医の副会長と理事2人の任期が切れた後、後任人事が異例の凍結状態となっていた。
結局、長妻厚労相は日医執行部からの推薦は受け付けず、日医内で非主流派と目される茨城県医師会理事と、京都府医師会副会長に就任を求めた。もう1人の枠には山形大学医学部長を起用した。
総選挙で茨城県医師会は民主党を全面支援し、自民党を支持し続けた日医執行部と対立した経緯がある。同県医師会長の原中勝征氏は、来年4月の日医会長選に、現会長の唐沢祥人氏の対抗馬として立候補すると表明している。
政権交代と日医の中の路線対立が連動したのが、今回の中医協人事である。
だが多くの国民にとって日医内部の主導権争いは重要でない。問題は新しい陣容の中医協が、開業医の利益を優先してきた診療報酬体系を改革できるかどうかだ。
2年に1度の報酬改定の議論がこれから本格化する。過酷な救急医療や産科、小児科といった分野の病院勤務医に、思い切って報酬を配分しなければならない。
診療報酬全体を大きく引き上げることは財政上困難だ。地域医療に粉骨砕身している開業医にはきちんと報いるとの前提で、開業医全体の報酬枠に切り込むことが必要になるだろう。
その際に、非主流派ながら医師会幹部である新委員が、やはり開業医の既得権を守ろうとするならば何も変わらない。これまでの日医推薦委員とは違う、というところを見せてもらいたい。
中医協から締め出された日医執行部も、非主流派に対抗するならば勤務医の声をもっと組織運営に採り入れ、開業医中心の圧力団体から脱皮を図る時ではないか。
国民は医療態勢の現状に不安を抱いている。医療界全体で改革に取り組むことが不可欠だ。その中心に日医がいたいのなら、日医は変わる必要があろう。
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産経新聞 2009年10月28日
日医排除 医療体制再建につなげよ
診療報酬の点数を決める厚生労働相の諮問機関・中央社会保険医療協議会(中医協)から、日本医師会(日医)の推薦委員が排除される。
長妻昭厚労相は、任期切れとなった3人全員を外し、地方医師会の代表2人と大学病院代表1人とに差し替える人事を発表した。
中医協委員30人のうち、医師など診療側委員は7人で構成される。このうち3人は日医の副会長や常任理事といった役員の「指定席」だった。医療の専門知識を必要とする中医協では、日医の委員が議論をリードしてきた。
鳩山政権は来年の診療報酬改定で、勤務医の待遇改善を図る方針を示している。開業医の発言力が強い日医の影響力を薄め、政府の方針に理解のある委員を増やそうとの判断は、改革の意思を示すものといえなくもない。
だが、日医の全員を一度に外すやり方は、あまりに図式的で粗雑な印象を免れない。患者はまず近所の診療所で診てもらい、高度な医療が必要と診断されたら早期に病院に紹介される。そうした「病診連携」が地域医療の基本だ。実際の医療政策もそれを目指す大きな方向性を示すものでなければならない。
産科や小児科、救急医療をはじめ過酷な労働条件に耐えかねて辞める勤務医は後を絶たない。地域の中核病院さえ閉鎖される診療科がある。国民が安心して治療を受けられる医療体制の再建は待ったなしだ。
日医は自民党と深いつながりを持ち、旧政権では医療政策に影響力を行使してきた。前回の診療報酬改定では勤務医不足対策の財源を確保するため、勤務医よりも優遇された開業医の再診料引き下げが提案されたが、日医の反発で実現しなかった。開業医優先とされる姿勢に根本的な問題がある。
だからといって、有無を言わせぬ人事で開業医と勤務医の離反を招くような「荒療治」を正当化できるのか。勤務医と開業医の対立をあおるような事態となれば、迷惑を被るのは患者であることを忘れてはならない。新委員に先の衆院選で民主党候補を応援した茨城県医師会理事らを選んだことで、総選挙の「論功行賞」との声が聞かれるようではなおさらだ。
委員の顔ぶれをどう変えようと、患者である国民を向いた議論がなければ何も変わらないことを長妻氏は肝に銘ずべきだ。
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