原子力安全行政の立て直しは急務だ。実効性のある、強力な新組織にしなければならない。
政府が、原子力規制関連法案を閣議決定した。原子力の安全や規制業務を一元的に所管する「原子力規制庁」を環境省の外局として新設する。4月発足を目指している。
原子力政策を進める経済産業省から原子力安全・保安院を切り離し、各府省に分散している原子力関連部署とともに統合する。原発事故の調査などにあたる「原子力安全調査委員会」も創設する。
組織再編は妥当だ。東京電力の福島第一原子力発電所事故では、保安院が監視機能を十分果たせなかったことが指摘されている。
野田首相は原子力規制庁に関して、「いかなる圧力の影響も受けてはならない」と独立性の高い組織にする意向を示している。公正中立で、専門知識に裏打ちされた行政に徹しなければならない。
細野原発相は、原子力規制庁長官を民間人から起用する考えを明らかにした。組織を運営する能力があり、大所高所から判断できる人物を選んでもらいたい。
職員は、保安院など関連部署から約500人を集める。幹部は、“古巣”の府省に戻さず、安全行政に専念させる考えだ。
政府が「脱原発依存」にこだわり過ぎると、技術者が原子力の分野から徐々に離れてしまい、先細りになる恐れがある。
そんな事態を招かないよう、政府は、原発政策の中長期的な展望を示すべきである。
政府の事故調査・検証委員会は、事故対応が東電任せだった保安院を「情報を収集・把握するという自覚と問題意識に欠けていた」と強く批判した。
原子力規制庁はまず責任体制を明確にすべきだ。原発の安全性を十分チェックし、緊急事態に対応できるよう備えねばならない。
法案には、既存の原発にも、最新の安全基準や技術を適用することを義務づける規定が盛り込まれている。これまでは電力会社の判断に委ねられていたが、安全性向上のために、強制措置を可能にすることは理解できる。
しかし、原発の運転期間は原則40年とし、1回限り最長20年まで延長できるとした点はどうか。
この年限の科学的な根拠は必ずしも明確ではない。延長を認める基準もあいまいだ。
個別の原発の安全性や、エネルギー需給に十分配慮せず、法律で一律に運転期間を定めることには疑問がある。再考を促したい。
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