原子力規制法案 新組織で安全行政を立て直せ

毎日新聞 2012年02月01日

原子力新規制 既得権益の見直しも

政府は東京電力福島第1原発の重大事故を踏まえ原子力規制を転換するための法案を閣議決定した。環境省の外局として「原子力規制庁」を設置するほか、原発の寿命やシビアアクシデント(過酷事故)対策なども法律で義務づける内容だ。

これまで、原子力の安全規制を担う原子力安全・保安院が原発の推進を担う経済産業省に属していたことの弊害は大きい。規制を利用から分離し、原子力規制庁に一元化するのは当然のことだ。当初の仮称だった原子力安全庁を改め原子力規制庁とするのも、組織の性格を考えれば妥当だ。

ただし、表向きの名前を変え、組織を組み替えただけで、規制に特化した独立性の高い組織が一夜にしてできるはずはない。規制庁の人員の多くは保安院から横滑りすることになり、独立性を確保するための具体的な工夫が求められる。

新たに設ける「原子力安全調査委員会」も、原子力の安全確保にどのように貢献できるのか、まだ判然としない。内閣府の原子力安全委員会が今回の事故対応で信頼を損なっただけに、独立性と能力を国民に示せなければ不信はぬぐえないだろう。

今回の事故対応では緊急時の危機管理に大きな問題があり、これが事故を拡大させた疑いがある。危機管理は規制庁の重要任務であり、これにも十分に力を注ぐべきだ。

安全規制の一元化から取り残されている部分もある。日本原子力研究開発機構が行う安全研究や、核物質が核兵器などに転用されることを防ぐために文部科学省が行う監視や査察(保障措置)は規制庁に移管されていない。今後の課題だ。

今回の改正法案には、原発の寿命を原則40年とすることや、最新の技術基準への適合を既存原発にも義務づける「バックフィット」が盛り込まれている。政府は、この両者をあわせることで40年以上の運転は極めて難しいとの見方を示しているが、最大で60年まで延長できる例外規定も含まれている。なし崩しに運転が延長されることのないよう厳格な条件を設ける必要がある。

法改正による原子力防災体制の強化にも注目したい。今回の事故では緊急対策の拠点となるオフサイトセンターが機能しなかった。抜本的な見直しは欠かせない。原発事故に重点的に備える防災対策区域の拡大に伴い国や地域の防災計画の見直しも急務だ。

原子力を推進してきた国全体の構造の中には多数の法人や団体があり、天下りの弊害も指摘されている。実効性のある規制を進めるためには、こうした既得権益を持つ組織や団体の改革もこの機会に併せて行うことが重要だ。

読売新聞 2012年02月01日

原子力規制法案 新組織で安全行政を立て直せ

原子力安全行政の立て直しは急務だ。実効性のある、強力な新組織にしなければならない。

政府が、原子力規制関連法案を閣議決定した。原子力の安全や規制業務を一元的に所管する「原子力規制庁」を環境省の外局として新設する。4月発足を目指している。

原子力政策を進める経済産業省から原子力安全・保安院を切り離し、各府省に分散している原子力関連部署とともに統合する。原発事故の調査などにあたる「原子力安全調査委員会」も創設する。

組織再編は妥当だ。東京電力の福島第一原子力発電所事故では、保安院が監視機能を十分果たせなかったことが指摘されている。

野田首相は原子力規制庁に関して、「いかなる圧力の影響も受けてはならない」と独立性の高い組織にする意向を示している。公正中立で、専門知識に裏打ちされた行政に徹しなければならない。

細野原発相は、原子力規制庁長官を民間人から起用する考えを明らかにした。組織を運営する能力があり、大所高所から判断できる人物を選んでもらいたい。

職員は、保安院など関連部署から約500人を集める。幹部は、“古巣”の府省に戻さず、安全行政に専念させる考えだ。

政府が「脱原発依存」にこだわり過ぎると、技術者が原子力の分野から徐々に離れてしまい、先細りになる恐れがある。

そんな事態を招かないよう、政府は、原発政策の中長期的な展望を示すべきである。

政府の事故調査・検証委員会は、事故対応が東電任せだった保安院を「情報を収集・把握するという自覚と問題意識に欠けていた」と強く批判した。

原子力規制庁はまず責任体制を明確にすべきだ。原発の安全性を十分チェックし、緊急事態に対応できるよう備えねばならない。

法案には、既存の原発にも、最新の安全基準や技術を適用することを義務づける規定が盛り込まれている。これまでは電力会社の判断に委ねられていたが、安全性向上のために、強制措置を可能にすることは理解できる。

しかし、原発の運転期間は原則40年とし、1回限り最長20年まで延長できるとした点はどうか。

この年限の科学的な根拠は必ずしも明確ではない。延長を認める基準もあいまいだ。

個別の原発の安全性や、エネルギー需給に十分配慮せず、法律で一律に運転期間を定めることには疑問がある。再考を促したい。

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