急減する人口 政策総動員で活力を維持せよ

朝日新聞 2012年01月31日

50年後の人口 未来を変えるために

2060年までの新しい推計人口が、国立社会保障・人口問題研究所から発表された。

日本の人口が減少する速さには驚くほかない。50年間で4132万人減って、今の約3分の2になってしまう。

この予測を前に、私たちはどう行動すればよいだろうか。

まず、すでに生まれている世代に関する対応だ。

65歳以上は、団塊ジュニアが高齢期に入る42年に3878万人となり、ピークを迎える。今より約930万人の増加だ。

医療や介護、生活支援の受け皿を整える必要がある。そのためには国民の負担が重くなるのは、やむを得ないだろう。

0~14歳の子どもは一貫して減り続け、60年には今の半分以下の791万人になる。総人口の1割を切る。

最近の出生率の回復傾向を反映し、減少のスピードは緩んだが、長期的な少子化の傾向は変わっていない。

推計では1人の女性が産む子どもの数を1.35と仮定している。人口減少に歯止めがかかる2.07には遠く及ばない。

65歳以上が人口に占める割合である高齢化率は、今は23%ぐらいだが、このままだと50年後には40%近くまで上昇するというのが今回の推計だ。

この未来を変えることができるだろうか。

同研究所の高橋重郷副所長の試算によると、出生率が上昇していき、30年以降2.07で安定した場合、高齢化率は40年代に30%台前半でピークを打ち、長期的には20%台半ばに落ち着くという。

高い目標ではあるが、子どもの数が増えれば、人口ピラミッドは安定する。高齢者が2.5人に1人か、4人に1人かで社会の活力は大きく違う。

注目すべきは、母親の出産年齢で30歳以上が29歳以下を上回っていることだ。35歳以上での出生数は15年前の約2.3倍に増えている。

ある程度キャリアを積んだ後に子どもを産むという決断ができるか。仕事をしながら子育てができる環境をもっと充実させなければいけない。

また、9割近くの未婚男女は結婚したいと考えているのに、今回の推計では5人に1人は結婚しないという前提を置いている。すでに結婚しているカップルも、持ちたい子どもの数を実現できないでいる。

いずれも経済的な不安が背景にある。若年層の雇用改善はこの点でも重要だ。

将来を変える責任は今を生きる一人ひとりが負っている。

毎日新聞 2012年02月01日

人口減少社会 未来の安定と活性化を

日本の人口が50年後には8000万人台になると聞けば、不安になる人が多いだろう。厚生労働省の将来の人口推計によると、わが国の人口はこの先50年間で4132万人も減少する。関東1都6県の人口規模が消失するわけで、いかに人口減少が猛烈かがわかる。だが、悲観ばかりしても仕方がない。冷静に課題を分析し、新しい社会づくりに向けて取り組みたい。

少子化対策には先進各国が取り組んでいるが、なかなか決め手は見つからない。あまり対策を講じてこなかった日本の出生率が上がらないのも当然だ。即効薬はない。私たちの意識を変えるところから始めよう。

まずは社会保障の担い手について。公的な福祉サービスの比重が大きいのは北欧諸国、市場に福祉サービスを委ねる傾向が強いのが米国である。これに対して日本は家族内の支え合いが中心だった。大家族で親戚や近所の結びつきが強かった時代はいいが、今や1家族の平均人数は2・46人。それにもかかわらず福祉は家族が担うものだという社会の固定観念が子育て政策の遅れを招いた。働きたくても育児のために働けず、働きたければ結婚や出産をあきらめざるを得ない人は多い。独身男女の約9割が結婚したいと思っており、希望している子どもの数も2人以上というのにである。

公的な福祉サービスを増やすには税負担や保険料を上げるしかない。先進国の中で日本の国民負担率は最低レベルだ。規制緩和して企業などの多様なサービス事業所を導入することも必要だ。「子ども・子育て新システム」はその第一歩である。バラバラに分かれていた制度を一元化し、1兆円規模の財源で多様な保育サービスを整備する。柔軟な運用ができるのか懸念もあるが、子育て環境は大きく変わる可能性がある。

また、「福祉」と言えば年金や介護を意味していたが、高齢者福祉に財源の比重が大きい国はギリシャをはじめ軒並み財政破綻にひんしている。平和で医療が進歩すれば平均寿命はどの国も延びる。高齢化は避けられないが、子育て政策や若者の雇用政策を強化することで現役世代の先細りを防ぎ、活性化を図ることはできる。「高齢者」の固定観念も変えなければならない。65歳を過ぎても働く意欲があり健康な人は大勢いる。福祉を受ける側から支える側へ回れば、高齢化率が上がっても社会保障費の膨張は抑えられる。

急激な減少はできるだけ防ぐべきだが、人口の少ない社会の到来からは逃げられない。人口は減っても個々の活力が十分発揮できる社会を目指そう。地球環境や資源を思えば悪いことばかりではないはずだ。

読売新聞 2012年01月31日

急減する人口 政策総動員で活力を維持せよ

50年後の日本の総人口は今より3割以上減少する。しかも高齢者が全体の4割を占める――。そんな未来像が、改めて突きつけられた。

急速に進む人口減で社会の活力が損なわれることのないよう、政策を総動員する必要があろう。

厚生労働省の国立社会保障・人口問題研究所が、2060年までの人口推計を公表した。5年に1度、国勢調査の結果をもとに算出している。

現在約1億2800万人の人口は、毎年20万~100万人の規模で減り続け、半世紀後は8674万人にまで減少するという。

年齢別では、14歳以下の若者が全体の9・1%に減る一方、65歳以上の高齢者の比率は39・9%に上昇する。世界でも突出した少子高齢化の構図が鮮明になる。

今回の推計で、女性が生涯に産む子どもの数に近い「合計特殊出生率」の予測は、わずかながら上方修正された。

現在30代後半の女性が、これまでためらっていた出産に意欲的になり、実際の出生率がやや上向いているためだ。

出生率は今後いったん下がるものの、その後上昇し、60年に1・35になる。それでも人口維持に必要な水準2・07には程遠い。

人口減の流れにできるだけ歯止めをかけるには、安心して子どもを産み、育てることができるよう、政策で支えることが大事だ。

政府は、社会保障と税の一体改革の中に「子ども・子育て新システム」の整備を掲げている。

待機児童の解消など子育て支援策に、新たに年間1兆円超を投じる構想だが、うち7000億円は消費税率の引き上げによって財源を確保するのが前提だ。少子化対策としても、一体改革の実現を急がなくてはならない。

働き手の減少も深刻な問題である。15~64歳の生産年齢人口は半世紀後には4418万人と、現在のほぼ半分になってしまう。

労働力人口を確保するには、女性が就業しやすい社会環境を整えることが第一だ。それは子育て支援と表裏一体の施策である。

若者の雇用を損なわぬようにしつつ、意欲ある高齢者には長く働いてもらうことも重要だ。

経済連携協定(EPA)などのルールに基づき、優秀な外国人を積極的に受け入れることも、不可欠である。

活力を維持する施策を重層的に組み合わせながら、これからの超少子高齢社会に踏み込んでいくしかあるまい。

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