朝日新聞 2012年01月31日
民主年金試算 出さない方が混乱する
またまた民主党が、ふらついている。
いったん、党の新年金制度の財源試算を公表する考えを示したのに、1週間あまりで先送りへと方針転換したのだ。
試算は、消費増税に向けた社会保障と税の一体改革の与野党協議に入る前提として、公明党が求めていた。応じないのは、わざわざ野党に協議を拒む口実を与えたようなものだ。
そもそも、試算を出さないことに、どんな意味があるのか。その内容は、今回の消費税率5%幅引き上げとは別に、約60年後には最大で約7%幅の引き上げが要るというものだ。すでに私たちも広く報じてきたし、野党も知っている。
それを、あえて隠す方が不自然だし、今回の一体改革の議論と混同されかねない。有権者が「明日からでも7%の増税が必要なのか」と誤解してしまうのではないか。
民主党はすべての年金制度の一元化と、月額7万円の最低保障年金創設を柱とした年金改革を金看板にしてきた。その過程で「政権交代すれば、誰でも7万円の年金がもらえる」と、有権者に思わせたことは否定できない。
それまでに、何年かかり、保険料や税を、だれがどのくらい払うのか。それは現行制度と、どれほど違うのか。こうした制度論を怠ってきた。
民主党が年金一元化などを言い出したのは、2003年の衆院選マニフェストだ。あれから8年、政権交代からも2年以上たつ。なのに、いまだに制度の中身がない。
今回の混乱は、こうした怠慢のツケが回ってきたというべきだろう。
いま民主党がすべきことは、まず試算の公開である。その上で、その数字は多くの前提つきの抜本改革案に向けたものだから、今回の消費増税論議とは切り離す。いまは5%増税の一体改革の協議に全力を挙げる。
そう仕分けをして、野党に頭を下げるしかあるまい。
もうひとつ、国会運営のトゲになりそうなことがある。
野田首相が昨年11月の国会で、民主党の年金一元化などの抜本改革案について、「13年の法案提出をめざす」と述べたことだ。
そんなことが、本当にできるのか。現行制度を根幹から変える大作業を、短期間に、だれがどうやって進めるのか。
首相は腹をくくって、ひとまず抜本改革案を棚上げすべきだろう。それが一体改革を実現させる現実的な早道に違いない。
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毎日新聞 2012年01月31日
年金新制度「試算」 公表して議論を深めよ
この期に及んで情報を隠そうとする発想に驚く。政府・民主党は新年金制度の実施に必要な消費税率の試算結果について、当面は公表しないことを決めた。
税と社会保障の一体改革案で最も重要な年金部分の全体像があいまいなうえ、議論に必要なデータも開示しないようでは野党が協議を拒否する口実を与えかねない。無用の混乱を避けるためにも、野田佳彦首相は速やかな試算公表を指示すべきだ。
「試算結果と一体改革は別物」。首相ら政府・与党の幹部が協議して、こんな理解しがたい結論を出してしまった。
民主党は09年の衆院選マニフェストで年金制度の抜本改革案として消費税を財源に月7万円の最低保障年金制度の創設を盛り込んでいた。
今回の素案が示した5%の増税分は新制度創設に伴う費用を盛り込んでおらず、民主党は昨年春、2075年度で最大7%のさらなる増税が必要との試算を非公式にまとめていたとされる。このため野党側は試算の公表を求め、輿石東幹事長らもいったんは積極姿勢を示していた。
ところが首相も加わった協議の結果、公表は見送られた。輿石氏は「(5%増税の)数年後にさらに7%上がると思われている」とその理由を語ったというが、すでに試算は報道で流布している。パターン別の試算など、きちんと情報を公開しないことで逆に数字が独り歩きし、誤解が拡大しているのが実態ではないか。数字を明かせば増税イメージが強まり、世論の逆風が吹くという発想であれば短絡に過ぎる。
試算公表を渋るより大きな理由は政府・民主党自身が新制度導入の棚上げを進めてきた点にあるのだろう。政府が昨年、菅内閣時代にまとめた改革案の大枠は現行制度の維持が事実上前提と受け取られたが、今回の素案では最低保障年金の導入に言及している。マニフェストの目玉政策の位置づけのあいまいさを突かれ、苦慮しているのではないか。
もし民主党が本音では新制度導入は困難とみているのであれば、公約は撤回すべきだ。決めかねているのなら両論を併記し与野党協議を呼びかけるしかあるまい。いずれにせよ、正確な財源論を深めるうえでも試算公表を拒む理由などないはずだ。
首相は「公表にはメリット、デメリットもあるので状況の推移を見極める」と述べたというが、国民への説明は損得勘定で行うものではない。年金問題とは別に、2020年度の基礎的財政収支の黒字化にはやはり最大7%の再増税が必要、との試算もある。増税の最終目標をめぐる国民の議論を深めるためにも、政府は進んで手の内を明かすべきだ。
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