毎日新聞 2012年01月28日
除染工程表 生活再建の指針を早く
自分が避難指示の出ている地域の住民だったとする。「これで今後の生活の指針が立てられる」と思えるだろうか。
環境省が示した放射性物質の「除染ロードマップ(工程表)」からは、住民の立場に立った生活再建の方向性が見えてこない。政府はもっと血の通った、包括的な指針を早く示すべきだ。
今回の工程表が対象としているのは、現在の警戒区域と計画的避難区域だ。3月末に、今後の年間積算線量の見通しに応じて新たに3区分され、本格除染が進められる。
工程表は、まず、役場や常磐自動車道、上下水道などの除染を先行して行うこととしている。いずれも本格除染の足がかりとして重要であり、迅速に進めてもらいたい。
問題は、線量や状況に応じた本格除染を、住民の希望にあわせどのように進めていくかだ。
まず、住民は自分の住居がどの区分に線引きされるのかを早く知りたいだろう。その結果、「帰還困難区域」(年間50ミリシーベルト超)だったとする。今回の工程表には、「除染の効果を確かめるモデル事業を実施する」という漠然とした計画しか示されていない。
帰宅できるのか、できないのか。あいまいな言い方を続けるだけでは住民を翻弄(ほんろう)するだけだ。除染はせず放射線量の自然な減衰を待つという判断をせざるをえない地域もあるだろう。その場合、コミュニティー全体で別の場所に移転するという選択肢もありうる。
もちろん、選択するのは住民だが、政府は住民主導で意思決定できるよう、移転場所など選択肢を示さなくてはいけない。めどが立たないモデル事業の結論を待たずに、現時点の見通しを住民にきっちりと示し、具体的な生活再建に向け踏み出すべき時だ。
2年後に年20ミリシーベルト以下をめざす「居住制限区域」(年間20~50ミリシーベルト)でも、住民は不安を抱えているはずだ。本当に20ミリ以下に下げられるのか、若い人が戻ってくるのか、農業を続けられるのか。そうした住民の気持ちをくみ取り、具体的な復興につなげるには、また別の知恵がいる。
「避難指示解除準備区域」(年間20ミリシーベルト以下)では、十分に線量が下がれば帰宅したい人は多いだろう。その望みをかなえるには、インフラ整備や雇用などに十分な気配りが必要だ。
いずれの場合も、なにより大事なのは、住民参加で意思決定することだ。そのためにも政府は、昨年11月から実施している除染モデル事業のデータや、移転を含めた選択肢を早急に示してもらいたい。
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読売新聞 2012年01月30日
除染工程表 住民帰還のため着実な実施を
東京電力福島第一原子力発電所事故で放射性物質に汚染された周辺地域の除染について、環境省が工程表を公表した。
約8万6000人とされる避難住民の生活を再建するため、除染は最優先の課題である。「いつ我が家に戻れるのか」という不安を抱える住民にとって、工程表は今後の生活を考える一つの目安となるだろう。
環境省は、迅速かつ着実に除染を進めなければならない。
政府は4月をメドに、福島第一原発の周辺地域を、年間被曝線量に応じて「避難指示解除準備区域」(20ミリ・シーベルト以下)、「居住制限区域」(20~50ミリ・シーベルト)、「帰還困難区域」(50ミリ・シーベルト超)の3区域に再編する方針だ。
いずれの区域でも、環境省が直轄で除染を実施する。表土のはぎ取りや建物の壁面などの洗浄、植え込みの伐採、側溝の汚泥の除去などが必要となる。
前例のない取り組みだけに、放射能の専門家や企業などの知恵を結集し、効果的な除染のノウハウを確立することが大切である。
工程表は、帰還困難区域を除く二つの区域で、除染の完了時期を2014年3月としている。避難指示解除準備区域の一部では、この3月から除染が始まり、年内に終了する。可能な限り早期に多くの住民の帰還を図るためだ。
住民の生活圏である市街地を優先するなど、効率的な除染の実施が求められる。
スケジュール通りに除染を進めるためには、はぎ取った汚染土壌などを運び込む仮置き場の確保が重要だ。仮置き場に集めたものを一括して長期間、保管する中間貯蔵施設の建設用地選定も急がねばならない。
除染が完了しても、住民の帰還には課題が残る。水道、ガスなどライフラインの復旧や、学校や医療機関、店舗などの整備が生活の再建には欠かせない。
2月に発足する復興庁が中心となって、地元自治体の意向も聞きながら、詳細な帰還計画を策定する必要がある。
汚染が最も深刻な帰還困難区域については、除染技術や除染作業員の安全確保策を確立するためのモデル事業を実施し、検証することになった。
環境省は、その結果を踏まえて「対応を検討する」としている。現時点で、住民の帰還のメドは事実上、立っていない。
この地域の住民をどう支援していくのか。政府に課せられた大きな問題である。
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