日露関係 潜在力を掘り起こそう

朝日新聞 2012年01月29日

日ロ関係 資源を軸に信頼深めよ

玄葉光一郎外相とロシアのラブロフ外相が会談し、資源エネルギーを中心にした経済や、アジア太平洋地域での安全保障の分野で両国が協力を強めていくことなどで合意した。

一昨年秋にメドベージェフ大統領が北方領土の国後島を訪問した後、日ロ関係は悪化した。だが、昨年3月の東日本大震災を機に、冷静に両国間で協力のあり方を探る方向へと潮目が変わった。そうした流れを着実に太く育てていきたい。

3月の大統領選挙で復帰を目ざすプーチン首相がロシア外交の主導権を取り戻していることが、変化への大きな要素だ。

欧米重視だったメドベージェフ氏と比べ、プーチン氏はアジア・太平洋方面にも大きな関心を払ってきた。大震災後に、日本へ液化天然ガスを緊急供給し、東シベリアの天然ガス田開発への日本企業の参加などの資源協力を呼びかけたのも、その表れといえる。

ロシアは今年9月に、極東のウラジオストクでアジア太平洋経済協力会議(APEC)の首脳会議を開く。世界の成長を引っ張るこの地域にロシアが参入し、極東・シベリアの開発や、自国に必要な経済の現代化につなげる戦略の一環だ。

シェールガスなど新しい資源の台頭で、ロシアの天然ガスの輸出は、頭打ち傾向にある。福島第一原発の事故の後、発電用に天然ガスの比重が高まる日本と、利害は一致する。隣国ロシアからより安く輸送できるパイプライン敷設の可能性なども含め、資源を中心に協力を探っていきたい。

外相会談では、船舶の安全な航行や海の生態系の保全の協力強化でも合意した。中国の海軍力の増強や、南シナ海をめぐる領有権問題の深刻化など、周辺の安全保障環境は大きく変化している。日ロが海の安全の問題で協力するのは時宜にかなった動きだろう。

軍拡を続け、圧倒的に多い人口でシベリア・極東で接する中国は、ロシアにとって脅威の性格を強めている。極東や北方領土で進めるロシアの軍備の近代化も、そんな事情がある。

しかし、海の安全協議が中国を刺激しては逆効果だ。長期的には中国や他の周辺国も巻き込み、地域の安定に貢献するような方向で進めたい。

北方領土問題で両国の立場の違いはなお大きい。遠回りのようでも、地域のなかでロシアと日本がともに利益になる関係を実行に移していくことが、互いの信頼を深め、問題を解決する環境を育てることになる。

毎日新聞 2012年01月29日

日露関係 潜在力を掘り起こそう

外交といえば私たちは米国や中国との付き合い方、あるいは朝鮮半島の動向といったものにばかり注意を向けがちだ。むろん、それらは日本の命運を左右する重要な関係ではある。だが、わが国の周囲をながめれば、もっと関係を深めることが国益にプラスになるにもかかわらず、通りいっぺんの付き合いしかできていない国がある。隣の大国ロシアはその最たるものだろう。

そのロシアのラブロフ外相が来日し、玄葉光一郎外相と会談した。ラブロフ外相は今年最初の外遊先に日本を選んだ。玄葉外相は、アジア太平洋地域におけるパートナーとしてふさわしい関係を築きたいとの考えを伝えた。互いに重視しているとのメッセージの交換である。その方向に沿ってロシアとの絆を深めたい。今年は日露関係を好転させるチャンスだと考えるからだ。

まずロシア側の指導者の交代がある。3月のロシア大統領選で、メドベージェフ大統領に代わってプーチン首相が大統領に返り咲く公算が大きい。メドベージェフ体制下の日露関係は、大統領の国後島訪問などで北方領土問題をめぐる雰囲気が悪化し、停滞が続いた。プーチン氏が大統領に復帰することによってただちに大きな変化があるとは考えにくいものの、同氏はかつて大統領時代に日本との平和条約交渉に真剣に取り組む姿勢を見せ、対日関係の発展に意欲を示していた。

トップ交代は外交課題を動かす一つの契機になる。日本側は、ロシアの新体制に能動的に働きかける準備を整えておくべきだ。

また、ロシア外交がアジア太平洋重視の構えを一層強めていることも見のがせない。9月には初の議長国としてウラジオストクでアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議を開催するなど、アジア太平洋地域で存在感を高めようとしているロシアにとって、日本との関係強化は大きなテコにもなる。

アメリカがアジア太平洋国家回帰を宣言し、中国と地域の主導権争いを演じる中、軍事力も含めたロシアの存在はアジア太平洋のパワーバランスを考える上で欠かせない要素である。この海域での中国の影響力が大きくなりすぎることに対し、日本とロシアは懸念を共有している。対中関係を戦略的に考えていくためにも、ロシアとの連携は有益だ。

難しいかじ取りだが、領土問題の前進を図りつつ、政治的・経済的にあらゆる分野で関係を発展させていくことが必要だ。日露関係の大きな潜在力を掘り起こし、いかに日本の外交力強化につなげるか。今年は重要な隣国ロシアとの付き合い方を真剣に考える年にしたい。

読売新聞 2012年01月29日

日露外相会談 大統領選後へ「領土」で戦略を

経済・軍事面で台頭する中国、権力移行で不透明さを増す北朝鮮。

東アジアの情勢が大きく変化しつつあるこの時期に、海を隔てた日本とロシアが協力を深めていくことは両国の国益にも合致しよう。

来日したラブロフ露外相と玄葉外相が会談し、安全保障、エネルギー、経済、海洋分野などの関係を発展させることで一致した。

ロシアでは3月、大統領選が行われ、プーチン首相が大統領に返り咲くことが確実視されている。政権交代後にも引き継がれる様々な課題を、両外相が約4時間半も議論したのは結構だ。

最大の懸案である北方領土問題に関しては、棚上げせず、両国間のこれまでの文書や「法と正義」の原則に基づいて議論を進めていくことで一致したという。

ただ、ラブロフ氏は最近、北方領土問題について、「第2次大戦の結果、法的根拠に基づきロシア領となった」と述べている。歴史的事実を一方的に否定するかのような態度は問題である。

ロシア側は今後、大統領選を控えて、対外的には強硬な姿勢を崩すまい。日本政府はロシアの政権交代後の外交方針を十分見極めて、対露戦略を練り直す必要がある。領土問題の打開に、腰を据えて取り組まねばならない。

ラブロフ氏は、記者会見で北方領土での「共同経済活動」に言及し、漁業、水産加工、農業など日本との合同プロジェクトを歓迎する意向を表明した。

だが、ロシアの国内法に基づく経済活動を前提としている。これでは、北方領土は日本固有の領土だという、日本の立場が損なわれることになる。領土問題と切り離せないのは当然だ。

北朝鮮に対しては、核問題を巡る6か国協議再開に向け緊密に協力することで一致した。日本人拉致問題についても、ラブロフ氏は北朝鮮との対話の中で取り上げていると紹介し、ロシアは「最終的解決」を支持すると述べた。

日本政府は、北朝鮮の金正恩体制の下で、拉致問題解決への糸口がつかめるよう、ロシアの力も借りてはどうか。

ロシアは昨年、東アジア首脳会議(EAS)に初めて正式参加した。今年9月にはウラジオストクでアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議を開催する。

アジア・太平洋地域への関与を一段と強めるロシアと信頼関係を構築することは、領土問題はもとより、日本が積極的な外交を展開するためにも重要である。

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