朝日新聞 2012年01月28日
原発ゼロの夏 具体策を早く示して
枝野経済産業相が今夏の電力需給について、「原発ゼロ」を想定して対策を講じていく考えを、朝日新聞のインタビューで明らかにした。
定期点検で止まった原発の再稼働は、地元の自治体や住民の同意が得られる見通しがなかなか立たないのが実情だ。このままだと、4月末には全国に54基ある原発すべてが止まる。
電力供給の確保は重要だが、最初から安全性とてんびんにかけて論じる話ではない。原発がひとつも動かないかもしれないという最も厳しい状況を想定して対策を講じる。その姿勢は評価する。
枝野さんは、電力各社が火力など原発に代わる発電量を増やしてきたことや、社会全体としてまだ節電余地があることを挙げ、電力使用制限令のような強制的な措置を講じなくても乗り切れる、との見方を示した。
確かに、東京電力管内では昨夏、前年に比べ20%近い節電を達成し、結果的には比較的余裕のある態勢を保った。
ただ、最大の課題だったピーク時の電力使用分散に貢献したのは、主として工場などの大口契約者だ。操業日を休日にシフトした自動車業界のように、コスト増を覚悟で「我慢」を引き受けたところも少なくない。
原発も、福島県内はすべて止まっていたが、新潟県の柏崎刈羽原発は490万キロワット分が動いていた。
関西や九州は原発比率が高いぶん条件は厳しく、臨時の電源確保も東電ほどに十分ではないとされる。はたしてこの夏、電力需給が本当に大丈夫なのか。不安は残る。
インタビューで枝野さんは原発ゼロで乗り切る可能性を強調した。強気の発言は、経産省内で数字の積み上げや効果的な節電メニューの設計が進んでいるからかもしれない。
であれば、需給の見通しや新たな対策の中身を、「今春」と言わず、できるだけ早く示してほしい。
すべてが無理なら、節電対策など一部でもいい。東電は原子力損害賠償支援機構とともに、夏場のピーク需要を抑えるアイデアを社外に募り、採用案には対策に必要な費用を一部負担する制度を始めた。これも全国に広げるべきだ。
少しでも具体的なイメージをつかめるほうが、国民も疑心暗鬼にならずにすむ。
原発を動かさなくて済むならそれに越したことはない。この夏の経験が、脱原発への展望につながる。万全を期して取り組んでほしい。
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毎日新聞 2012年01月28日
米ゼロ金利延長 危機の種まかぬように
米国の中央銀行である連邦準備制度理事会(FRB)が、少なくともあと3年ほど、ゼロ金利政策を続けるとの見通しを発表した。リーマン・ショック後の08年12月、FRBが初めてゼロ金利の領域に踏みだし3年が経過したが、さらに14年終盤まで現状維持の方向だという。
これまでは「13年半ばまで」と説明していたから、約1年半の大幅延長になる。相当長い間、金利は上げないとのメッセージを発することで、企業や家計に安心感を与え、借り入れを促して、停滞している経済活動を活性化させたいようだ。
バーナンキ議長は会見で、今後も追加的な手を打つ可能性を示唆し、問題が多いとされる大々的な量的緩和の第3弾も否定しなかった。だが、政策金利をゼロ近辺まで引き下げた以上、追加策の効果は限られる。世界経済に最も大きな影響を及ぼす国が異例の金利水準を6年も続けると宣言することによる弊害を、十分注意していく必要がありそうだ。
最大の懸念は、「ゼロ金利は当分の間、不変」との意識が定着することで、金融危機の出発点となったバブルの芽が育つことにならないかという点だ。あふれるマネーが今回向かう先が不動産なのか、株式か、原油や穀物なのかは分からない。だが、サブプライム問題を含め、リスク意識がまひする中での金融の暴走は、長期にわたる金融緩和の末に起きていることを、忘れてはいけない。
FRBは今回初めて、目安とする物価上昇率を公表した。中央銀行の考え方が分かりやすくなるとすれば歓迎だ。日銀もすでに同様の開示をしている。ただ、デフレ状態を脱し、物価上昇率を高めようという趣旨でFRBが目標値を公表したわけではないことに留意したい。「米国が導入したから日銀もインフレ目標を」と求めるのは的外れである。
また、物価が目標圏内にあっても、不動産や証券など資産のバブルが国内外で膨らむことがある。日米で起きた過去の失敗に学ぶべきだ。
超低金利の長期化は、経済が自律的に反転するエネルギーをかえってそぎかねない点にも注意すべきだ。再生の見込みが乏しい企業まで延命させたり、金融機関の融資意欲が衰えてしまう恐れがある。国債市場がバブル状態となれば、金利が上昇に転じた時に大きな混乱を招くかもしれない。日本経済が陥った長期停滞の沼に、はまらないでほしい。
米経済の力強い成長は米国のみならず世界経済に利益となる。今年、米国は選挙イヤーで早期の景気回復への要請は特段強い。FRBは難しい立場にあるが、目先の改善のため、将来の危機の種をまくようなことがあってはならない。
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読売新聞 2012年01月28日
米ゼロ金利継続 景気低迷に警戒強めたFRB
米連邦準備制度理事会(FRB)が、事実上のゼロ金利政策を長期間続ける方針を打ち出した。
米国経済の先行きに警戒を強めたのだろう。
FRBは声明で、ゼロ金利政策について、「少なくとも2014年終盤まで異例の低金利が正当化される可能性が高い」と指摘した。「13年半ばまで」としてきた従来の方針と比べ、1年半程度も延ばす意味は大きい。
米国の失業率は8%台に高止まりし、今年の実質成長率も2%弱に低迷する見込みだ。景気の回復力はまだ緩慢である。
ギリシャに端を発した欧州危機は収束せず、世界経済を揺るがせている。対策の遅れで危機が深刻化すると、米国経済に一段と打撃を与えかねない。
FRBは、ゼロ金利政策を思い切って長期化させて、長期金利の低下を促し、設備投資などを刺激する景気下支え効果を狙った。
ユーロ圏の急減速や不安定な市場など、世界を覆う不透明感を軽視できなかったと言えよう。
金利引き下げの余地はなく、金融政策が打てる手は限られている。それでも現状で可能な限りの姿勢を示したのは評価できる。
FRBは今回初めて、政策金利の見通しを示し、早期の金融引き締めを想定していないメンバーが多いことを明らかにした。
長期的に望ましい物価上昇率の目安を「前年比2%」と設定した点も、政策の透明性を高めるもので注目すべき変化である。
物価上昇率の「目安」とは、上昇率が2%から外れた時に、直ちに政策対応が必要な「インフレ目標」とは異なる。だが、2%を重視するメッセージは鮮明だ。
超金融緩和が長引くと、物価上昇圧力が高まる恐れがある。そうした懸念に対し、FRBが物価安定をあくまで最優先していく姿勢を示したことは、企業や家計に安心感を与えるだろう。
今後の焦点は、金融市場が一段と不安定になった場合、FRBが第3弾の大規模な量的緩和策(QE3)に踏み切るかどうかだ。
昨夏に終了した第2弾のQE2は、新興国のインフレを招く副作用をもたらして批判された。QE3へのハードルは高いが、FRBは欧州危機の推移などを注視し、難しい舵取りが求められる。
日本にとっては、米国の超金融緩和策でドル売り圧力が強まり、歴史的な円高・ドル安が続くことに注意が必要である。政府・日銀は、円高是正や円高対策に万全を期さねばならない。
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