一般教書演説 超大国が「内向き」では

朝日新聞 2012年01月26日

オバマ演説 米国内の格差が争点に

選挙戦の開幕を告げる演説だった。オバマ米大統領は24日の一般教書演説で、共和党との対決姿勢を鮮明にした。再選をめざす11月の投票にむけての国民への訴えだったからだ。

内政では、勤労者など中間層を重視して「誰にも公平な経済を作り直す」と述べた。勤労者への減税を拡大し、バブルの後遺症で住宅ローンに苦しむ世帯を救済するという。

大きな争点は税制である。

共和党の有力候補ロムニー前マサチューセッツ州知事が所得を公開した。一昨年は投資で2千万ドル(約15億6千万円)を超える年収を得たが、支払った税率は13.9%。給与所得ならば約35%が適用されるのに比べ、大幅に低い。

成功物語への憧れが強い米国では、富裕層の優遇も「人々の意欲を刺激する」と認められてきた。大富豪の投資家バフェット氏が「私の税率が秘書より低いのは不公平」と公言していることにふれて、オバマ氏は「最も豊かな人への減税を続けるのか。教育や医学研究にまわすのか。赤字を減らすなら、両方はできない」と迫った。

米国社会で、格差をどこまで認めるべきか。この論議は選挙を占う大きな要素だろう。

「小さな政府」を掲げる共和党は、富裕層を含めた減税やいっそうの規制緩和が必要だと主張し、オバマ政権の景気刺激策は「無駄な出費で赤字を拡大させた」と攻撃している。

気になるのは、経済ナショナリズムの高まりだ。オバマ氏は「雇用を米国に戻す」と繰り返し、国内で雇用を作り出す企業を優遇する方針を打ち出した。

そして、音楽、映画などの海賊版や「不公正な貿易」が横行していると中国の名をあげ、そういう不公正を調査する新たな組織も設けるという。

対外投資を政策で抑えることは、世界を発展させる貿易をゆがめかねない。「不公正貿易」というレッテルを貼るのも、相手国との経済摩擦を引き起こしかねないだけに、決めつけには慎重であるべきだ。

外交への言及は少なかった。

オバマ氏はイランの核兵器開発を許さないとして、「あらゆる選択肢を排除しない」と述べた。イラン攻撃を唱える共和党の主張を受けて、妥協しない姿勢を打ち出したようだ。

選挙の年は、主張が過激になりがちだ。保護主義や強硬な外交が大衆受けする。だが、そうした主張は、これまで築いてきた国際協調を弱め、米国の足元を掘り崩しかねない。冷静で実のある論争を期待したい。

毎日新聞 2012年01月26日

一般教書演説 超大国が「内向き」では

大統領の演説に、聴衆は時に総立ちで拍手を送った。米連邦議会の演説会場には笑顔があふれていた。なのにどうも盛り上がりに欠けたのは、これがオバマ氏最後の一般教書演説になるかもしれないという不安や予感を、少なからぬ聴衆が共有していたからだろうか。

そつのない演説ではあった。秋の選挙で再選をめざす大統領は、働く者が報われる公平な社会、「米国の価値観」の復活を訴えて中間所得層への支援を重視した。富裕層に配慮する共和党との違いを鮮明にするとともに、経済格差に抗議する「反ウォール街運動」などの支持を期待した発言ともいえよう。

中国などの貿易活動を調べる新組織を作ることも表明した。公平・公正を重んじる姿勢には共感できるが、一連の経済政策には「内向き」の印象もつきまとう。例えば雇用流出を抑止するのは、なお8・5%と高い失業率を改善しないと再選は危ういと考えたからだろう。だが、2年前の演説では、輸出倍増による雇用創出を唱えており、視線が「内向き」になった感じも否めないのだ。

他方、オバマ氏は共和党の名大統領リンカーンの名を挙げて同党に協調を呼び掛け、米国は「より安全で、より世界に尊敬される国」になったとして、イラク駐留米軍の撤退やウサマ・ビンラディン容疑者の殺害を成果とした。確かに、オバマ政権が二つの戦争の幕引きを図り、前政権下に端を発する経済危機とも地道に戦ってきたことは評価したい。

だが、大統領支持率が低迷し指導力低下がいわれるのは心配だ。かつて民主党クリントン政権を「リベラル(進歩的)」と批判した共和党保守派は、オバマ大統領を「ラジカル(急進的)」と酷評する。米国の保守的な価値観と相いれないという意味だ。クリントン元大統領の政敵で、今回共和党の大統領候補指名をめざすギングリッチ元下院議長がオバマ批判の陣頭に立っているのは、いささか因縁めいている。

右派からの「弱腰」批判を意識してか、オバマ大統領は核開発を続けるイランに「どんな選択肢も排除しない」と述べ、同盟国イスラエルの安全に「鉄のごとく強固」に関与する意向を示した。他方、アジア太平洋重視と言いながら、これまで一般教書で言及していた北朝鮮の核開発に触れなかったのは残念だ。

イランの核兵器開発が疑惑の段階であるのに対し、北朝鮮は2度も核実験を行った。北朝鮮の現実的な脅威にどう対処するかは、世界的に重大な問題である。イランのみに目を奪われず、同盟国・日本の安全と東アジアの安定を真剣に考える。そんな「公正」さも米国には必要だ。

読売新聞 2012年01月26日

一般教書演説 再選へ意欲を見せたオバマ氏

再選に向けて、共和党との対決姿勢を際立たせた演説だった。

オバマ米大統領は、一般教書演説で、持続的な成長と中間所得層への支援を最優先課題にあげた。

国内製造業の復活や、天然ガスなど国産エネルギーの開発、米労働者の技術向上と雇用創出などで経済の再生を目指すとし、再選へ強い意気込みを見せた。

米国経済は持ち直してきたとはいえ、景気の先行き不透明感は強い。住宅価格は低迷し、失業率は8・5%に高止まりしている。

大統領の支持率が40%台前半にとどまっているのも、所得格差が広がっているのが原因だ。

「チェンジ(変化)」を約束しながら、景気回復の果実を与えられない現状では、大統領再選に黄信号がともる。

雇用対策などの景気刺激策を打ち出そうにも、議会の支持なしには実行できない。その議会では、共和党と民主党の対立が激化し、政策遂行に不可欠な法案が通りにくくなっている。

大統領が、一般教書演説で、政策の実現を阻むものには「行動で戦う」と宣言したのは、多数派として下院を支配する共和党への強いいらだちがあるからだろう。

大統領にとっての今後の重要な課題の一つは、税制改革だ。

一般教書で、大統領は社会保障費の歳出削減に努める一方で、中間所得層よりも低い税率で納税している富裕層については、増税しなければならない、と訴えた。

共和党の有力大統領候補の一人で、資産家のロムニー前マサチューセッツ州知事が、課税率がわずか14%だったと批判を浴びたことも意識したに違いない。

投資による所得への税率が、勤労所得よりも優遇されているためだが、大統領には、富裕層への増税にも一貫して反対する共和党を標的にする狙いがある。

共和党の候補選びが進み、これから大統領選も本格化する。米国経済の行方は日本経済にも大きく影響する。大統領選での、経済再生を巡る論戦を注視したい。

外交・安全保障分野で、大統領は、アジアを重視する国防戦略を改めて示した。

財政赤字削減の一環で、米国は国防費を10年間で約5000億ドル(約38兆円)削減する。だが、年内に1兆ドル超の財政赤字削減の具体策が議会で合意できなければ、さらに大なたがふるわれる。

それは、日本の安全保障に重大な影響を及ぼす。財政赤字削減の論議の行方も注目したい。

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