野田首相は施政方針演説のほぼ3割を、社会保障と税の一体改革と、その前提となる政治・行政改革に割いた。
震災復興、原発政策、経済再生などより大胆に手厚く論じたことで、消費増税を柱とする一体改革を絶対にやりたい、という気合は伝わってきた。
めざす方向性も、共感できる部分が多い。
だが、説得力が弱い。
言葉に力を込めたわりに、改革をすすめる道筋、仕掛けの具体性に乏しいからだ。
これで現実政治を動かせるのか。
私たちが演説で評価するのは若い世代に目を向け、将来への責任を強調した点だ。
首相はこう説いた。
多くの現役世代で1人の高齢者を支えた「胴上げ型」の人口構成から、3人で1人を担ぐ「騎馬戦型」を経て、いずれ1対1の「肩車型」になる。
いまのままでは将来の世代は負担に耐えられない。改革の先送りは許されない。次の選挙より次の世代のことを考え抜くのが政治家である――。
確かに、膨らむ社会保障費をまかなうには、若い世代に税や保険料を払う体力を育んでいかなければならない。
ならばこそ、こうすれば若い世代が強くなると納得できる政策が要る。子育てを支援する「子ども・子育て新システム」の構築を急ぐというだけでは、わからない。
若者に安定した雇用を確保する具体案もないのでは、有権者の心に響きようがない。
消費増税への理解を広げるのに不可欠な行革も足りない。
独立行政法人や特別会計に切り込んで削れる金額を示してこそ、「それなら、つらい負担増もやむをえない」という声が広がるのではないか。
首相は、消費増税を含む税制改革を訴えた麻生元首相や福田元首相の演説を引きながら、一体改革での与野党協議を呼びかけた。むろん、これに野党は応じるべきだ。
ただ、自民党の演説を引用した手法は余分だった。民主党の野党時代の攻撃的な言動を問い返され、またも与野党の泥仕合を招きかねない。
つまらぬ駆け引きではなく、こつこつと成果を示し、説明を重ねることだ。それで有権者の支持をとりつけなければ、野党の歩み寄りも期待できない。
「政治を変えましょう」
首相は演説で、こう呼びかけた。私たちもそれを期待する。実現できるかどうか。改革の成否は、この一点にかかる。
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