施政方針演説 「決断する政治」への戦略持て

朝日新聞 2012年01月25日

施政方針演説 気合十分、説得力不足

野田首相は施政方針演説のほぼ3割を、社会保障と税の一体改革と、その前提となる政治・行政改革に割いた。

震災復興、原発政策、経済再生などより大胆に手厚く論じたことで、消費増税を柱とする一体改革を絶対にやりたい、という気合は伝わってきた。

めざす方向性も、共感できる部分が多い。

だが、説得力が弱い。

言葉に力を込めたわりに、改革をすすめる道筋、仕掛けの具体性に乏しいからだ。

これで現実政治を動かせるのか。

私たちが演説で評価するのは若い世代に目を向け、将来への責任を強調した点だ。

首相はこう説いた。

多くの現役世代で1人の高齢者を支えた「胴上げ型」の人口構成から、3人で1人を担ぐ「騎馬戦型」を経て、いずれ1対1の「肩車型」になる。

いまのままでは将来の世代は負担に耐えられない。改革の先送りは許されない。次の選挙より次の世代のことを考え抜くのが政治家である――。

確かに、膨らむ社会保障費をまかなうには、若い世代に税や保険料を払う体力を育んでいかなければならない。

ならばこそ、こうすれば若い世代が強くなると納得できる政策が要る。子育てを支援する「子ども・子育て新システム」の構築を急ぐというだけでは、わからない。

若者に安定した雇用を確保する具体案もないのでは、有権者の心に響きようがない。

消費増税への理解を広げるのに不可欠な行革も足りない。

独立行政法人や特別会計に切り込んで削れる金額を示してこそ、「それなら、つらい負担増もやむをえない」という声が広がるのではないか。

首相は、消費増税を含む税制改革を訴えた麻生元首相や福田元首相の演説を引きながら、一体改革での与野党協議を呼びかけた。むろん、これに野党は応じるべきだ。

ただ、自民党の演説を引用した手法は余分だった。民主党の野党時代の攻撃的な言動を問い返され、またも与野党の泥仕合を招きかねない。

つまらぬ駆け引きではなく、こつこつと成果を示し、説明を重ねることだ。それで有権者の支持をとりつけなければ、野党の歩み寄りも期待できない。

「政治を変えましょう」

首相は演説で、こう呼びかけた。私たちもそれを期待する。実現できるかどうか。改革の成否は、この一点にかかる。

読売新聞 2012年01月25日

施政方針演説 「決断する政治」への戦略持て

「決められない政治からの脱却」、「政局ではなく大局を」――。

意欲と志はいい。問題は、それを実現するだけの周到な戦略が、野田政権にあるかどうかだ。

通常国会が開幕した。野田首相の施政方針演説は、政権交代前、自民党の首相が行った施政方針演説を引き合いに出した。

福田首相は「与野党が話し合い、国政を動かすことこそ政治の責任」と述べた。麻生首相は「消費税を含む税制抜本改革を行うため2011年度までに必要な法制上の措置を講じる」と約束した。

こうした発言と、社会保障・税一体改革の協議に応じない今の自民党の姿勢とは食い違うと、野田首相は言いたいのだろう。

自公政権当時、さんざん抵抗したのが民主党だったことから、野党側から激しい反発が出た。しかし、今の危機的な財政を立て直して持続可能な社会保障制度を築くために、自民、公明両党は協議に応じる必要がある。

政府・民主党も、これまで通りの対応では済まない。まず、消費税率引き上げの必要性を意を尽くして国民に説かねばならない。

岡田副総理は先週、唐突に「消費増税分は、全額を社会保障財源化し、国民に還元する」と、表明した。何とか国民の理解を得ようと考えたのだろうが、従来の説明との整合性は問われよう。

公明党は社会保障制度の将来像を明確にするよう求めている。

民主党は政権公約(マニフェスト)で、13年までに年金一元化や月額7万円の最低保障年金など新たな年金制度を創設すると掲げている。この公約と一体改革との関係がわからないというのが、公明党の主張である。

民主党の輿石幹事長は、これに応じ、社会保障改革の全体像を示すことで、野党側を協議につかせたいと考えているようだ。おおまかな全体像を示し、一体改革に理解を求めることは必要だ。

その際、財源すら不明確なマニフェストの実現にこだわり続けていては、野党との協議は始まるまい。首相はマニフェストが、「決断する政治」を妨げる要因であることを忘れてはならない。

改革のためにはマニフェストの撤回をためらうべきではない。

施政方針演説の中で、「まず(かい)より始めよ」として、政治と行政を担う者が身を切り、範を示すことが重要だと指摘したのは当然だ。首相は、国会議員の定数削減や国家公務員給与削減に強い指導力を発揮してもらいたい。

この記事へのコメントはありません。

この社説へのコメントをどうぞ。
お名前
URL
コメント

この記事へのトラックバックはありません。

トラックバックはこちら
http://shasetsu.ps.land.to/trackback.cgi/event/950/