ハーグ条約 子どもの利益優先で法整備を

毎日新聞 2012年01月24日

ハーグ条約 子供の幸せ守る制度に

国際結婚が破綻した場合の子供の扱いを定めた「ハーグ条約」に加盟するための国内手続き案が決まった。法相の諮問機関である法制審議会の部会が要綱案をまとめた。

条約は、父母の一方が無断で子供(16歳未満)を国外に連れ帰った場合、原則として子供を元の国に戻したうえでどちらが養育するかを決定するとのルールを定める。昨年12月現在で締結国は87あり、主要8カ国(G8)では日本だけが未締結だ。

欧米からの加盟働きかけが強まり、菅直人前首相が昨年のG8首脳会議で加盟方針を表明していた。

子供が現に居住する国の裁判所が、返還すべきか否か判断するというのが条約の考え方だ。今回、法制審部会は、当事者が争う場合の司法手続きの規定などを決めた。

要綱案によると、子供を連れ出された親からの申し立ては、東京家裁と大阪家裁に限定する。両家裁の非公開の審理で原則通り戻すかどうかを決める。手続きは3審制で、高裁や最高裁まで争える。また、申立人が子供や配偶者に暴力などを振るうおそれがある場合は返還拒否を考慮できると法案に明示する。

子供を連れ帰った親が元の居住国から誘拐罪で指名手配されるなど深刻なケースも出ている。国際問題に発展し得るだけに、家裁の窓口を絞って専門的に審理したり、3審制で慎重に結論を出すのは妥当だろう。

DV被害に配慮した国内規定は、加盟国にあまり例がないことを理由に欧米などから反発も出ているが、日本独特の事情もある。

日本では、日本人の母親が子供を連れ帰る例が多数に上る。外務省が把握しているだけで、米国、英国、カナダ、フランスの4カ国から計200件以上の例が問題提起された。そして、子供を連れ帰った親の多くがDV被害を訴えると言われる。

「自国民の保護」や「子供の利益」を考えれば、DV規定の明示には一定の説得力がある。

もともと条約には子供の心身に害を及ぼす場合、裁判所は返還命令を出さなくてもよいとの規定がある。実際に主要締結国の司法判断は、「返還命令」7割に対し、「返還拒否」が3割だ。条約の趣旨をはみ出すような規定ではないことを諸外国に丁寧に説明してもらいたい。

政府は3月にも法案を国会に提出する方針だ。責任国家として、国際社会の問題解決のルールに従うのは避けられない。ただし、返還命令が確定すれば子供と親を引き離す手続きも取られる。それだけに、国会では当事者の声も聞いて細部にわたり議論を尽くすべきだ。何より子供の利益や福祉を最重要に考える制度にしてほしい。

読売新聞 2012年01月24日

ハーグ条約 子どもの利益優先で法整備を

国際ルールを尊重しつつ、日本人の権利を守ることにも十分配慮して、国内法の整備を進める必要がある。

法相の諮問機関・法制審議会の部会が、国際結婚が破綻した場合の子どもの扱いを定める「ハーグ条約」加盟に必要な国内法の要綱案を決めた。政府は3月に法案を国会に提出する。

加盟すると、例えば日本人女性が、外国人の夫または元夫に無断で16歳未満の子どもと帰国した場合、不法な連れ去りと見なされる。夫らが求めれば、日本の家庭裁判所の審理を経て、子どもを元の居住国に戻すのが原則だ。

大事なのは、日本に子連れで戻ってきた親が返還を拒否できるのはどのような場合なのか、を明確にすることである。

条約は、返還拒否条件を「子どもの心身に害がある」場合などと抽象的に定めているだけだ。

要綱案では、その拒否条件を具体的に列挙した。日本人の親や子どもが、外国人の親から暴力を加えられる恐れのある場合や、元の居住国で、親が子どもを十分に養育・保護できない場合などだ。

家庭内暴力から逃れようと日本へ帰国した母子は多い。離婚したことによって元の居住国の滞在資格を失った親もいる。

こうした事情を踏まえれば、条約の趣旨を損なわない範囲で、返還拒否条件を定めることは妥当と言えよう。

返還命令に親が応じない場合、要綱案は、裁判所による強制措置も可能とした。親を説得し、子どもと接触する裁判所職員の役割は極めて重要となろう。

一方、外国人の親に、日本の裁判所での手続きなどを支援する役割は外務省が担う。

外務省がまとめた関連法案の素案では、外国人の親から援助申請があった場合、子どもの居場所を把握するため、学校や自治体などに情報の提供を求める。照会を受けた団体には「遅滞なく情報提供する」ことが要請される。

外務省は、担当部署を設けて対応する。関係府省や団体と緊密に連携することが重要だ。

関連法案には逆に、日本に居住していた子どもが、海外に連れ去られた場合の措置も明記される。日本人の親が、海外の裁判所に子どもの返還を求めるケースだ。

外務省は、加盟各国の法制度に関する情報を収集し、日本人の親に提供するほか、外国政府に協力を要請する。返還が円滑に実現するよう、十分な支援をしなければならない。

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