独立行政法人改革 「身を削った」とは言えぬ

朝日新聞 2012年01月21日

独法・特会改革 組織いじりでは困る

野田政権が独立行政法人と特別会計の改革案をまとめた。

国民に負担増を求める消費税増税の前に、行政のムダを大胆に削ることができるか。09年の政権交代後、「政治主導」を掲げて取り組んできた事業仕分けの集大成でもある。

それなのに、がっかりするような中身だ。

改革案では、独法を現在の102から65に減らす。7法人を廃止し、35の法人を12にまとめることが柱だ。業務の性格に沿って独法を分類し、きめ細かく管理していくという。

17の特別会計では、公共事業を束ねる社会資本整備事業特会など四つを廃止し、一般会計に吸収する。農林水産省が所管する3特会を一つにまとめ、計11に減らす。

しかし、これによって歳出をいくら削減するかという肝心な点が示されていない。

102の独法は14万人近い常勤職員を抱え、国からの財政支出は計3兆円に達する。17特会の歳出総額は、各会計間の重複分を除いても約190兆円。一般会計の2倍を超える。

その削減額がないと、ただの組織いじりに終わりかねない。事実、廃止後も別の形の法人に衣替えしたり、特会の中に新たに勘定を設けたりという例が盛り込まれている。統合も省庁をまたぐものは実質ゼロ。組織が肥大化する恐れすらある。

様々な名目の資金が、独法を経由することで天下り官僚を養う原資になっていないか、という疑念も消えない。

改革案作りの詰めの作業は、独法改革では民間人をメンバーとする会議が、特会では財務省が中心だった。独法や特会を所管する各省庁の抵抗を崩すのは容易ではない。

「官」に目を光らせるのは、本来、政治の役割だ。公開の場で個別の事業をやり玉に挙げたり、政府の作業に注文をつけたりするだけでは不十分だ。

民主党は昨年末、行政改革調査会を急ごしらえで立ち上げた。組織をあげて取り組んでもらわなければ困る。

ところが、政治の側で行政改革に逆行する動きが目立つ。

代表例が整備新幹線だろう。線路の建設とJRへの貸し付けを担当する独法が受け取っている貸付料を、未着工3区間の建設費に回すと、党と国土交通省が一体となって決めてしまった。特定財源を復活させるような発想である。

岡田副総理・行革担当相は「やれることはやった」との認識を示した。とんでもない。やるべきことは山ほどある。

毎日新聞 2012年01月21日

独立行政法人改革 「身を削った」とは言えぬ

政府自ら、ギリギリまで身を削った改革案とは言えまい。政府・民主党は現在102ある独立行政法人(独法)を統廃合し65以下に約4割削減する基本方針を決めた。

国から年間3兆円の支出を受け「ムダの温床」とも指摘される独法だが廃止・国への移管や民営化は14法人にとどまり、支出削減額も示さないのでは本気度が伝わらない。与野党協議などを通じ、中身をしっかり練り直すべきだ。

独法は行政の効率化に向け、民間手法の導入を目指し制度化された。ところが所管省からの天下りで多くの役職が占められたり、ファミリー企業と随意契約で割高な契約をしているような弊害が指摘されてきた。このため、民主党はさきの衆院選公約で全廃を含めた抜本的見直しを掲げていた。

野田内閣は消費増税に向け、行革に積極姿勢を示す必要に迫られている。岡田克也副総理兼行革担当相が就任しどこまで踏み込むかが注目されたが、期待外れだった。純粋な廃止は「日本万国博覧会記念機構」など4法人だけで、民営化なども7法人どまりである。

法人数を減らした主体は統合によるもので、まとめる過程で逆に「焼け太り」するおそれすらある。岡田氏は「(金額などを)計るのは難しい」と説明するが、ムダ撲滅を掲げるのであれば組織そのものを削り、支出削減額の目安を示すべきだ。

改革案は存続する法人について、一定の目標を持つ「成果目標達成法人」と行政の仕事を代行する「行政執行法人」に移行させる方針も示した。天下り規制も含め運営監視をきちんと制度化しないと、単なる衣がえに終わりかねない。規模の大きい「都市再生機構」などの結論も実質は先送りだ。「4割削減」という看板以上に問われるのは、どこまで官庁の抵抗を封じ、ゆがみをただせるかという改革の質のはずだ。

特別会計についても、政府は17から11に減らす方針を固めた。特会の「埋蔵金」を財政難の救世主とすることはもはや幻想だ。とはいえ、ムダや非効率の温床を放置するわけにはいかない。公共事業が減少する中、「社会資本整備事業特別会計」の廃止方針は当然だろう。

今回の改革案について政府側は「これだけでも大事業だ」と言いたいのかもしれない。だが、「ここまでやるか」というくらいの覚悟で切り込まないと、国民の共感を得ることはできない。

政府は独法、特別会計改革の関連法案を通常国会に提出する予定だ。税と社会保障の一体改革と同様、行政改革も与野党協議の俎上(そじょう)に載せ、厳しく吟味すべき課題である。

読売新聞 2012年01月24日

独法・特会改革 肝心なのは政府支出の削減だ

組織形態の見直しは最初の一歩にすぎない。増税への国民の理解を広げるには、政府の財政支出の実質的な削減につなげることが重要だ。

政府の行政刷新会議が独立行政法人や特別会計の改革案を決定した。通常国会に関連法案を提出し、実現を図る。

102ある独法のうち、平和祈念事業特別基金など7法人は廃止し、国立病院機構など7法人は民営化する。理化学研究所など35法人は12法人に統合する。全体の法人数は4割近く減る予定だ。

政府原案の廃止・民間移管は計5法人だった。社会保障と税の一体改革の環境整備として行革の姿勢を示そうと、政治主導で削減数を増やした。数に限れば、自公政権時より踏み込んだと言える。

ただし、廃止には、国に移管される独法が含まれる。民営化も看板の掛け替えが多い。「数合わせ」を優先した感は否めない。

全く別の業務を担当する独法を統合し、トップの数を減らしても、各法人の体制を温存すれば、組織が逆に肥大化する恐れもある。

最大の問題は、年間3兆円を超す独法への政府支出の削減額が示されていないことだ。

組織改革に合わせて、職員のリストラや、不要不急の事業の廃止・縮減に本格的に取り組む必要がある。自治体や民間に任せられる事業は積極的に移管し、二重行政などを廃することが大切だ。

歳出削減のカギは大物法人だ。都市再生機構と住宅金融支援機構については、外部有識者の検討会を設置し、今夏に結論を出す。きちんと成果を上げてほしい。

一方で、存続する独法は、金融業務、人材育成、研究開発型など機能別に分類したうえ、それぞれ最適な監督体制を導入する。

様々な目的・事業を持つ独法を同一の制度で運営するのは無理があるためで、狙いは理解できる。継続的な改革が求められる。

特別会計は、社会資本整備事業特会などの統廃合によって、17から11に削減する。

特会の数を減らすだけでは、歳出削減や効率化に直結しない。旧道路整備特会が、採算性を無視して、必要性の低い高速道路を造り続けたような“聖域”をなくし、優先度の高い他の分野に予算を振り替えてこそ、効果を生む。

会計検査院によると、2009年度の剰余金計1・8兆円が翌年度も使われず、11年度に繰り越されたことが判明している。

可能なものは一般会計に繰り入れるなど、有効活用すべきだ。

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