原発耐性検査 再稼動の判断を先送りするな

朝日新聞 2012年01月19日

原発政策 「減らす」原点忘れるな

原発の寿命を40年と法律に明記する方針を細野原発相が発表して2週間もたたないうちに、例外的に最長60年まで延長可能とする法改正案を内閣官房が明らかにした。

一方、経済産業省の原子力安全・保安院は、関西電力が実施した大飯3、4号機(福井県)についてのストレステスト(耐性評価)を「妥当」とする審査結果の素案をまとめた。定期検査で止まった原発の再稼働に向けた一歩となる。

国民の多くは戸惑っているのではないか。原発への依存度を減らしていくのが野田政権の原点だったはずだ。「40年まで」は野田首相が政権発足時に明言した「寿命が来た原発は順次廃炉にする」という方針の具体化ではなかったのか、と。

原発の40年以上の運転について、内閣官房は「極めて例外的で、これまで以上に厳しい基準を設ける」と説明する。ストレステストも「手続きの一環で、再稼働の是非は政治に委ねられている」(保安院)という。

だが、震災を教訓に規制を強化し、原発を減らしていくという姿勢が後退した印象を与えているのは間違いない。

そもそも、原発をどのくらいかけて、どの程度減らすかという大枠が決まらないうちに、細かい規制や手続きを進めようとすることに無理がある。

エネルギー政策全体については「2030年に電力供給の53%を原発でまかなう」とするエネルギー基本計画を白紙から見直すことになっている。舞台は経産省が事務局の総合資源エネルギー調査会。今春がめどだ。

しかし、原発をめぐる意見の対立が激しく、委員からは「合意点と対立点の整理にとどめ、最終判断は政治に委ねるほうがいい」との声が出ている。

野田内閣は、有識者らの審議を待つだけでなく、リーダーシップを発揮する必要がある。

大切なのは、政権の姿勢が揺らいでみえることのないよう、折に触れてメッセージを発していくことだ。

古い原発は出力も小さく、需給に与える影響は大きくない。すでに40年を過ぎた原発は確実に止めることを宣言する。

そのうえで、昨夏の節電効果も踏まえて、今夏のピーク時に最低限動かさざるをえない原発が何基なのか、具体的に示すことが欠かせない。

閉められる原発はできるだけ早く廃炉にしていく。そのための環境整備を急ぐ。こうした姿勢を目に見える形で示さなければ、今後の原発政策に対する理解も得られまい。

毎日新聞 2012年01月20日

原発テスト 「結論ありき」と疑う

東京電力福島第1原発の重大事故の教訓を今後にどういかそうとしているのか。このところの政府のやり方には疑問が多い。

経済産業省の原子力安全・保安院は関西電力が提出した大飯原発3、4号機の安全評価(ストレステスト)を「妥当」と評価した。再稼働の前提として定期検査中の原発を対象に行われる第1次評価である。

この先、原子力安全委員会の確認や国際原子力機関(IAEA)の評価を受ける。さらに、首相と関係3閣僚が再稼働の是非を政治判断するが、まず技術的な安全性を閣僚が判断することの是非に議論がある。加えて、今回の評価結果を見る限り、技術的な安全評価も「結論ありき」に思える。

保安院が妥当とした関電の評価によると、設計上の想定より1・8倍大きい地震の揺れや4倍大きい11・4メートルの津波に襲われても炉心損傷には至らない。全交流電源が喪失し熱の逃がし場がなくなった場合でも炉心は16日間、使用済み核燃料は10日間、損傷までに余裕があるという。

しかし、評価の前提となっている設計上の想定は東日本大震災以前のものだ。震災で最大の揺れや津波の想定そのものが揺らいでいる。耐震指針や安全設計審査指針の見直しも行われている。もとの想定が信頼できるという保証はどこにもない。

想定が甘ければ甘いほど大きな余裕があるように見える矛盾も内包している。それを思えば、1・8倍や4倍という数値に意味はない。そもそも、事故そのものの検証もまだ終わっていない。少なくとも事故の原因を踏まえ、国民が納得するリスク評価の指針を示すべきではないか。

原発のリスク評価という点では寿命の法規制についても疑問がある。「運転40年を超えたら原則として廃炉」との方針を細野豪志原発事故担当相が発表したのが今月6日。それから2週間もたたないうちに、政府は「例外として60年運転が可能」とする方針を公表した。

いったい、どちらに重きを置いているのか。本気でリスクの高い原発を減らしていくつもりがあるのか。原発政策への不信感を招くやり方だ。

国民の信頼を得るという点では、大飯原発のストレステストの意見聴取会で市民を会場から閉め出した保安院のやり方にも問題があった。基本的には議論の場そのものを公開し、議事に大きな障害が出るような言動があった場合に個別に対応すればすむ話だ。市民団体が疑問視する委員の利益相反についても、きちんと説明するのが先決だ。

原発の再稼働を最終的に判断するのは地元自治体だ。市民の信頼がなければ再稼働もありえない。

読売新聞 2012年01月19日

原発耐性検査 再稼動の判断を先送りするな

停止中の原子力発電所の再稼働に向け、最初のハードルを越えたと言えるだろう。

関西電力が実施した大飯原発3、4号機(福井県)の「ストレステスト(耐性検査)」評価結果について、経済産業省原子力安全・保安院が、妥当とする判断をまとめた。

これに関する専門家からの意見聴取会には、反対派活動家らが多数押しかけて混乱した。枝野経産相は「平穏に開催されない状況になったのは容認できない」と批判した。残念な事態である。

耐性検査は、定期検査で停止した原発の再稼働の条件として、昨年7月に、菅政権が全ての原発に課したものだ。

法的根拠はない。だが、東京電力福島第一原発事故を踏まえ安全を一層向上させることが国民や地元自治体の理解を得る上で役立つとの判断だった。欧州が先行して導入したことも参考とした。

設計段階で考慮されなかった想定外の地震や津波が襲来したと仮定し、各原発に安全の余裕がどれだけあるのかをコンピューターを使った計算などで確認する。

見落とされていた弱点を検査で見つけ出す効果もある。

大飯原発の3、4号機については、関電が昨秋、地震の揺れで想定の1・8倍まで、津波は想定の4倍の11・4メートルまでなら耐えられる、と報告していた。重大な欠陥も見つからなかったという。

保安院は、その内容を、専門家の意見を聞きつつ詳しく点検、確認してきた。すでに14基の原発についてテスト結果が提出されているが、ゴーサインが出たのは大飯原発3、4号機が初めてだ。

評価結果は、今月下旬に来日する国際原子力機関(IAEA)の専門家や、内閣府の原子力安全委員会も、チェックする。これを経て来月初めにも、野田首相や細野原発相らが、再稼働の可否について、政府としての判断を示す。

再稼働できないと、国内の原発は4月末に全て止まる。電力の安定供給は、さらに厳しくなる。

問題がない、と確認された以上は、再稼働を認めるべきではないか。今後は一連の手続きが滞りなく進むことを期待したい。

最後のハードルは、地元自治体の了解を得ることだ。大飯原発がある福井県は福島第一原発事故に基づき、政府に安全の新基準を設けるなどの対応を求めている。

安全に万全を期し、利用可能な原発は動かす。野田首相は、自ら掲げた方針に沿って、全力で地元の理解を得ねばならない。

この記事へのコメントはありません。

この社説へのコメントをどうぞ。
お名前
URL
コメント

この記事へのトラックバックはありません。

トラックバックはこちら
http://shasetsu.ps.land.to/trackback.cgi/event/946/