欧州財政・金融危機の封じ込めが、一段と不透明になってきた。欧州は対応の遅れを挽回し、収束を急ぐ必要がある。
米格付け会社のスタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は、ユーロ圏9か国の国債格付けを引き下げた。
最上級の「AAA」(トリプルA)だったフランス、オーストリアの長期国債を1段階格下げし、財政不安が深刻なイタリアやスペインなどは2段階も下げた。
放漫財政のギリシャに端を発した信用不安は、イタリアなどに飛び火している。欧州当局は昨年末、ギリシャへの追加支援策や、財政規律の強化を打ち出した。
しかし、ギリシャの債務カットは実施されていない。危機拡大を防ぐ安全網となる欧州金融安定基金(EFSF)の資金基盤拡充が遅れているのも問題である。
S&Pが格下げの理由として、「対策が不十分」と指摘したのはもっともだ。危機収束の決め手を欠き、対応が後手に回っている欧州に対する警告と言えよう。
格下げショックにより、ニューヨーク株式市場の株価は下落した。外国為替市場ではユーロが急落し、約11年ぶりの円高・ユーロ安水準となった。週明け後も、市場の動揺に警戒が必要だ。
今回、とくに懸念されるのが、ドイツとともに、危機対策を主導しているフランスの国債格下げの影響である。
EFSFは、トリプルAの格付けを持つフランスなどの信用力に支えられて債券を発行し、支援資金を調達する仕組みだ。
ところが、フランス国債などの格下げで、EFSFの資金調達コストが上昇し、資金を集めにくくなる恐れがある。
4400億ユーロ(約43兆円)を見込んでいたEFSFの支援規模が大幅に縮小しかねない。危機対策の枠組みが崩れ、練り直しを迫られる事態も予想される。
欧州国債の担保価値の低下は、国債を大量に保有する欧州銀行の経営に打撃を与えよう。
こうした負の連鎖を食い止めないと、危機はますます深刻化し、世界景気の足を引っ張る。
当面の焦点は、20日に開かれる独仏伊3か国の首脳会議と、今月末に予定される欧州連合(EU)首脳会議である。
まずはギリシャ支援を着実に実施し、EFSF強化の具体策を示すことが急務だ。財政規律強化に向けたEU新条約の調整も加速すべきだ。市場の不安を払拭する実行力が欧州に求められる。
この記事へのコメントはありません。