欧州国債格下げ 手ぬるい危機対策への警告だ

朝日新聞 2012年01月17日

ユーロ危機 格下げに負けぬ結束を

フランスなど欧州9カ国の格付けを米スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)が一斉に引き下げた。ギリシャの債務減免をめぐる同国政府と金融機関との交渉は、減免率での対立から中断した。

債務問題への対応の遅れが、経済環境をさらに悪化させる負の連鎖が生じている。次々と迫る難題に、外国為替市場ではユーロ安が一段と進む。

ここで何より心配なのは、危機対策の柱である欧州金融安定化基金(EFSF)の土台が動揺することだ。

財政危機の国や経営難の銀行を支援するEFSFは、最上位格付けの「AAA」を持つ独仏など6カ国の信用で資金を調達してきた。資金量のうえでドイツに次ぐ担い手であるフランスが一段階下の「AA+」に陥落した痛手は大きい。

ただ、格下げは今後も起こりうる。当面は、金利が割高になっても「AA+」格の国の信用も使って資金を確保しつつ、金利コストの上昇分が支援国の負担増にならないよう、工夫していくほかない。

同時に、さらに踏み込んだ枠組みが必要だ。格下げで個々の国の信用低下が避けがたいのならば、これをはね返すために、欧州全体として信用力を高める取り組みが求められる。

具体的には、金融市場で期待が強い「ユーロ圏共同債」での資金調達である。各国がばらばらに国債を出すより、借金の条件は全体として有利になるはずだ。負担が増えるドイツが抵抗しているが、いまこそユーロ圏の結束を固め直し、危機克服への覚悟を行動で示す時だ。

今年7月に設立する欧州版の国際通貨基金(IMF)といわれる欧州安定メカニズム(ESM)の強化がその露払いとなるだろう。今はEFSFとESMを合わせた資金規模に、5千億ユーロ(約49兆円)の上限規定がある。抜本的な拡大に踏み切るべきだ。

このまま個々の国の信用に頼り続けると、信用力格差から利害の対立が鮮明になり、ユーロの分裂や崩壊というシナリオが現実味を帯びる。

仮に、金融市場がギリシャの離脱やユーロの分裂を真に受け始めると、資産保全や投機的な思惑による巨大な資金シフトが起き、銀行システムを危機に陥れる恐れがある。そうなれば、健全な国の経済までもが大打撃を受けることになる。

このような制御不能の事態を防ぐために、欧州は団結して問題解決への姿勢を示し、思惑の芽を摘まなければならない。

毎日新聞 2012年01月20日

ユーロ危機 IMF頼みは筋違いだ

世界銀行が今年の世界経済の成長率予測を大幅に下方修正した。欧州債務危機の影が域外にも広がり始めたことを物語っている。

例えば中国。これまで世界経済のエンジン役を果たしてきたが、成長の減速はすでに鮮明だ。日本も直接、間接の影響が避けられない。東日本大震災の復興需要で、当初、日本の成長率を2・6%と見ていた世銀だが、今回1・9%に引き下げた。

速やかに悪循環を断つ必要がある。ということで、国際通貨基金(IMF)が動き出した。融資能力を大幅に高めるという。現在3800億ドル程度とされる資金基盤に5000億ドル(約38兆円)を追加する案が検討されているようだ。予備枠も合わせ、総額1兆ドルを目指している。

追加分のうち2000億ドルは、欧州連合(EU)諸国が各中央銀行経由で拠出すると約束済みだ。今後の融資も大半が欧州の債務危機国向けとなりそうだが、欧州の負担を上回る額を、日米や、中国など新興国の協力に期待しているらしい。

確かに「連帯して世界経済の悪化を止めよう」という呼びかけは聞こえが良い。だがIMF支援は、あくまで自力での資金調達が困難になった国を対象とすべきだ。ユーロ圏を一つとみなせば、資金力はまだ十分あるではないか。

欧州の信用不安は欧州で解決するのが大原則だ。IMFは、ギリシャなどへの支援ですでに相当額を貸し込んでいる。日本の資金もIMF経由で使われている。「国内で納税者の反対が根強い」とか「自らの格付けが下がる」などといった理由でユーロ加盟国が追加の資金支援を渋り、IMFにもっと頼ろうというのでは、虫が良すぎる。

米国や英国が慎重と言われるが、当然だろう。先進国の財政はどこも厳しい。交換条件を付けて応じる新興国があるかもしれないが、IMFによるつなぎ融資は決して欧州危機の抜本解決とならない。むしろ、問題の長期化に手を貸すことにならないか。日本も慎重であるべきだ。

米国の格付け会社、スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)が、ユーロ圏9カ国と欧州金融安定化基金(EFSF)の格付けを引き下げた。だが、欧州からは、問題の抜本解決を急ごうという意気込みが伝わってこない。月末のEU首脳会議の準備会合として予定されていた独仏伊3国の首脳会談が来月に延期されたのは象徴的な例だ。

長引けば欧州の負担も世界経済への打撃も増すばかりだ。これ以上のIMF頼みではなく、欧州に財政支援やユーロ共同債の導入などを強く促していくのが、G20諸国のなすべきことである。

読売新聞 2012年01月15日

欧州国債格下げ 手ぬるい危機対策への警告だ

欧州財政・金融危機の封じ込めが、一段と不透明になってきた。欧州は対応の遅れを挽回し、収束を急ぐ必要がある。

米格付け会社のスタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は、ユーロ圏9か国の国債格付けを引き下げた。

最上級の「AAA」(トリプルA)だったフランス、オーストリアの長期国債を1段階格下げし、財政不安が深刻なイタリアやスペインなどは2段階も下げた。

放漫財政のギリシャに端を発した信用不安は、イタリアなどに飛び火している。欧州当局は昨年末、ギリシャへの追加支援策や、財政規律の強化を打ち出した。

しかし、ギリシャの債務カットは実施されていない。危機拡大を防ぐ安全網となる欧州金融安定基金(EFSF)の資金基盤拡充が遅れているのも問題である。

S&Pが格下げの理由として、「対策が不十分」と指摘したのはもっともだ。危機収束の決め手を欠き、対応が後手に回っている欧州に対する警告と言えよう。

格下げショックにより、ニューヨーク株式市場の株価は下落した。外国為替市場ではユーロが急落し、約11年ぶりの円高・ユーロ安水準となった。週明け後も、市場の動揺に警戒が必要だ。

今回、とくに懸念されるのが、ドイツとともに、危機対策を主導しているフランスの国債格下げの影響である。

EFSFは、トリプルAの格付けを持つフランスなどの信用力に支えられて債券を発行し、支援資金を調達する仕組みだ。

ところが、フランス国債などの格下げで、EFSFの資金調達コストが上昇し、資金を集めにくくなる恐れがある。

4400億ユーロ(約43兆円)を見込んでいたEFSFの支援規模が大幅に縮小しかねない。危機対策の枠組みが崩れ、練り直しを迫られる事態も予想される。

欧州国債の担保価値の低下は、国債を大量に保有する欧州銀行の経営に打撃を与えよう。

こうした負の連鎖を食い止めないと、危機はますます深刻化し、世界景気の足を引っ張る。

当面の焦点は、20日に開かれる独仏伊3か国の首脳会議と、今月末に予定される欧州連合(EU)首脳会議である。

まずはギリシャ支援を着実に実施し、EFSF強化の具体策を示すことが急務だ。財政規律強化に向けたEU新条約の調整も加速すべきだ。市場の不安を払拭する実行力が欧州に求められる。

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