毎日新聞 2012年01月16日

経産省幹部逮捕　産業政策の足元ゆらぐ

経済産業省の元審議官が、金融商品取引法違反（インサイダー取引）容疑で、東京地検特捜部に逮捕された。事実なら、経産省の産業政策に対する信頼は大きく損なわれる。

同省は株取引を規制する内規を設けていた。それでも、防げなかったのはなぜか。省内に規律の緩みや不祥事を生む土壌はないか。捜査当局に任せ切りにせず、自ら検証し、根本的な対策を講じる必要がある。

逮捕された木村雅昭容疑者は、０９年に半導体大手エルピーダメモリの内部情報を得ながら、妻名義でエ社の株を売買したなどの疑いがもたれている。

経産省はリーマン・ショック後の０９年４月、一般企業への公的資金投入を可能にする改正産業活力再生特別措置法を成立させた。エ社は適用第１号だ。木村容疑者は、商務情報政策局担当の審議官としてその救済計画に携わっていた。

企業救済を利用し、私腹を肥やしていたとすれば、公的資金投入の妥当性も疑われかねない。木村容疑者は容疑を否認しているという。特捜部には、徹底的な捜査で真相を明らかにしてほしい。

経産省では０５年に、企業再建を担当していた係長がインサイダー取引で起訴され、有罪判決を受けている。その後、担当する業界企業の株取引を禁止し、それ以外の株取引は年度末に省内の監督機関に報告させるという内規を作った。

しかし、今回の問題が表面化した後の昨年末の調査で、特許庁の職員２人が特許審査を担当した企業の株を売買していたことが明らかになった。犯罪にならないにしても、公務員としての倫理観の欠如は、はなはだしいといわざるを得ない。

産業政策を担う経産省には、企業の情報が集まる。そうした情報の私的流用は、同省の政策の正当性さえ揺るがしかねない。

経産省は昨年末、全職員を対象に当面の間、株取引を自粛することや家族を含めた証券口座を省内の監督機関に登録するなどの内規強化を打ち出した。今回の事件を踏まえ、処分の厳格化を含めた一段の対策強化を求めたい。

経産省は今、エネルギー政策の見直しや環太平洋パートナーシップ協定（ＴＰＰ）参加問題など大きな政策課題を抱えている。いずれも国民の支持が不可欠な重要案件だ。

ところが、昨年の東京電力福島第１原発事故以来、同省に対する国民の目は厳しさを増している。国主催の原発シンポジウムをめぐる「やらせ」問題では、次官ら首脳３人が更迭された。職員全員が危機感をもって規律の緩みをただし、信頼回復に取り組む必要がある。