イラン制裁 新たな危機防ぐ努力も

朝日新聞 2012年01月13日

イラン核開発 制裁同調もやむなし

イランに核開発の断念を迫るため、米国が決めた経済制裁の強化に、日本も協力することになった。

来日したガイトナー財務長官に対し、安住淳財務相が、イランからの原油の輸入を計画的に減らす方針を伝えたのだ。

イランは今年に入り、地下核施設でウランの濃縮作業を始めた。「平和利用」と説明しているが、米国などは軍事目的とみて警戒を強めている。

イランが核兵器を持つことになれば、中東の安定は根底から揺さぶられる。イランが、国連安保理決議など国際社会の再三の警告を無視している以上、制裁強化はやむをえない。

欧州連合(EU)はすでに、イラン産原油の輸入を全面禁止する方向で最終調整に入った。日本もできるだけ足並みをそろえて、国際社会の強い意思をイランに示す必要がある。

ましてや日本は、北朝鮮の核放棄に向け、国際社会の協力を求める立場にある。イランに対しても毅然(きぜん)と対応できなければ理解は得られまい。

ただ、制裁は代償を伴う。

イランからの原油は、日本の全輸入量の1割を占める。国別では、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、カタールに次ぐ4番目の調達先だ。

日本は原発の大半が止まり、火力発電への依存が高まっている。各国がイラン以外から買い入れを増やせば、輸入価格がさらに上がり、経済活動の足を引っ張る恐れは否定できない。

政府にはまず、代わりの輸入先の確保を急いでほしい。そして、具体的な削減の幅や進め方については、経済への影響が最小限となるよう知恵を絞り、米国には日本の事情をよく理解してもらわねばならない。

また、制裁の強化がイランの譲歩を促す保証はない。国際的な孤立が、かえって核保有への決意を支える事態もありうる。

イランは対抗措置として、原油輸送の要衝であるホルムズ海峡の封鎖をほのめかした。昨年11月には、制裁に反発するデモ隊が、テヘランの英国大使館を襲撃する事件もあった。

地域の緊張を緩和し、不測の事態を避けるためにも、圧力一辺倒ではなく、やはり対話の努力が欠かせない。

日本は、米国の求めに応じてイランのアザデガン油田から完全撤退するなど、最近は制裁強化への同調が目立つ。

しかし日本は、米国がイランと国交を断絶した後も、友好関係を維持してきた。独自のパイプを生かして、少しでも事態の改善をさぐりたい。

毎日新聞 2012年01月13日

イラン制裁 新たな危機防ぐ努力も

政府がイラン産原油の輸入削減方針を決め、来日したガイトナー米財務長官に伝えた。ウラン濃縮など核開発を進めるイランに対し、経済制裁の強化で圧力をかけたい米国の要請を受けたものだ。

米国では昨年末、イランの中央銀行と取引を続ける外国銀行に制裁措置をとる法律が成立した。原油の代金のほとんどが中央銀行を経由するため、実質的に原油貿易を阻止し経済の根幹を揺さぶる狙いがある。

イランの原油輸出は約65%がアジア向けで、1位、2位を占める中国、日本の協力が米国には極めて重要だ。一方、日本の原油輸入元としてイランは、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、カタールに次ぐ4位で、全輸入量の約1割を占める。軽視できない貿易関係だが、米国の要請を拒否すれば、制裁により邦銀が米国内での活動を継続できなくなる恐れがあった。

また、イランの核開発に、同盟国として協調し反対の姿勢を鮮明にする意味からも、米国と歩調を合わせざるをえなかった。欧州連合(EU)内にも、近くイラン産原油の輸入禁止を決める動きがあり、こうした対イラン包囲網の流れを考慮する必要もあったのだろう。

ただ、代替輸入元の確保など、民間企業の対応には一定の時間がかかる。安住淳財務相は、削減の過程で邦銀に制裁しないよう求めたようだが当然だろう。特に原発事故を受けて火力発電への依存が高まる中、経済活動や国民生活に支障をきたすことのないよう、政府には外交努力も含め、工夫してもらいたい。

気になるのは、米国主導の対イラン制裁強化に、イランがどう動くかだ。イランは、対抗措置としてホルムズ海峡を封鎖する可能性を示唆している。万一、世界で海上輸送される原油の3分の1強が通過する同海峡の封鎖となれば、アジア諸国だけでなく、米国や欧州の経済も甚大な打撃を避けられないだろう。

封鎖が実際に行われなくても、同地域における緊張の高まりは、原油先物市場での価格高騰を招く恐れがある。欧州の債務危機や米経済の先行き、新興国の成長鈍化など、世界経済にはすでに十分過ぎるほどの心配材料がある。制裁が対抗措置を呼び、緊張がエスカレートして新たな危機を招くようなことがないよう、米国には同盟国との十分な情報交換や、冷静な対応を求めたい。

イラン原油をめぐる今回の問題は、エネルギーを特定地域に依存するリスクを改めて浮き彫りにした。当面は代替先をサウジやカタールなどに求めるとしても、エネルギーの種類や輸入元の多様化・分散化を急がねばならない。

読売新聞 2012年01月13日

イラン制裁 原油の安定調達へ万全尽くせ

イランの核保有阻止に向け、米欧が原油輸入禁止による経済制裁で足並みをそろえつつある。

日本が米欧に同調するのは、圧力をかける上でやむを得ない。だが、原油不足や価格高騰などの混乱は最小限にとどめなければならない。

野田首相は、来日したガイトナー米財務長官と会談し、「イランの核問題に深刻な懸念を共有している」と語った。安住財務相は、長官に日本のイラン原油の輸入を「早い段階で計画的に減らす」方針を伝えた。

米国が検討している制裁は、原油輸入のためイラン中央銀行と金融取引する外国の金融機関に対し、米国での金融事業を制限する内容だ。早ければ、今年半ばにも発動される見通しだ。

外国銀行がイラン中銀との取引を控えることで、イランの原油収入を減少させ、核開発の原資を断つことが米国の狙いである。

欧州連合(EU)も、イラン原油の禁輸方針で一致した。

ただ、日本は輸入原油全体の1割をイランに依存する。輸入をどう削減するのか対応は難しい。

中東を歴訪した玄葉外相は、サウジアラビアやアラブ首長国連邦に日本への原油の安定供給を要請し、前向きな回答を得た。官民が連携して、代替原油の確保に万全を尽くす必要がある。

懸念されるのは、原油高騰だ。イラン情勢の緊迫化に伴い、ニューヨーク市場などではすでに、原油価格が1バレル=100ドル超に値上がりしている。

今後、一段と急騰すれば、電力料金などが値上がりし、日本の景気に打撃を与える。イランの原油収入がかえって増え、制裁が裏目に出る可能性も否定できない。

問題は、イラン原油の最大輸入国である中国が制裁に反対していることだ。余剰となったイラン原油を抜け駆け的に購入しないよう、中国には自粛を求めたい。

そもそも、米国の制裁は、具体的な発動基準があいまいだ。野田首相が財務長官に対し、「運用によっては、日本や世界経済に深刻な影響を与えかねない」と改善を求めたのはもっともだ。

政府は引き続き、邦銀を金融取引制限の適用除外にするよう、働きかけていく必要がある。

一方、イランは、制裁が発動されれば原油輸送の大動脈であるホルムズ海峡を封鎖すると示唆するなど、強く反発している。

日米欧は、制裁と対話を組み合わせ、不測の事態を避ける努力を続けなければならない。

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