小沢氏公判 国民との約束を果たせ

朝日新聞 2012年01月13日

小沢氏公判 政治家失格は明らかだ

民主党の元代表・小沢一郎被告が、東京地裁で2日間の被告人質問を終えた。

政治資金収支報告書に、秘書らと共謀してうその記載などしていない。4億円の土地取引も秘書に任せており、手元の現金を用立てたほかは一切あずかり知らぬ、と無罪を訴えた。

虚偽記入の疑惑発覚から2年あまり、国会での説明を拒み続け、昨年1月に強制起訴された際には「法廷で真実を述べる」と言っていた。

それが、ふたを開けてみれば「記憶にはない」「秘書に任せていた」の繰り返しだった。

むろん、裁判所は政治家としての資質を論ずる場ではない。刑事責任の有無は今春の判決を待つしかない。

だが、小沢氏はかねて、報告書の中身の透明度に胸を張ってきたはずだ。

「政治活動を国民の不断の監視と批判の下におき、民主政治の健全な発展を図る」という、政治資金規正法の趣旨にかなう発言だった。

それなのに法廷では、虚偽記載の罪に問われた問題の収支報告書にさえ、いまに至っても目を通していないと答えた。

なぜ、見もしないで内容を保証できたのか。報告書に向き合う緊張感も、報告書を見る国民に対するおそれも持ちあわせていないことを端的に示した。

かつての政界ならいざ知らず、政治とカネに厳しい目が注がれるいま、政治家として失格であることは明らかだ。

こんなありさまで、「私の関心は天下国家」と唱えても、だれが耳を傾けるのか。

「小沢氏は検察にはめられたのだ」と主張してきた人々は、これでもなお小沢氏を擁護するのだろうか。

小沢氏が信頼し、任せていたという3人の秘書らは一審で有罪判決を受けている。会計責任者だった秘書は報告書を見もせず、宣誓欄の署名も代筆させていた。別の秘書は、政治団体間での何千万円という金のやり取りも記載しなかった。

この監督責任も免れない。

小沢氏の「秘書任せ」の弁明が通る余地があるのは、規正法が報告書の一義的な責任を政治家本人ではなく、会計責任者に負わせているからだ。

その見直し問題は、長らく国会で放置されてきた。

違反の言い逃れを封じるために連座制を強化し、政治家自身が責任と倫理を明確にする制度を確立すればよい――。

19年前に出版した著書「日本改造計画」で、こう指摘したのは小沢一郎氏その人である。

毎日新聞 2012年01月13日

元代表法廷発言 監督責任の軽視明らか

注目された2日間の被告人質問が終了した。政治資金規正法違反(虚偽記載)に問われた民主党元代表、小沢一郎被告だ。

衆院議員、石川知裕被告ら元秘書3人は04年、資金管理団体「陸山会」の土地購入をめぐり、元代表から提供された4億円などを政治資金収支報告書に記載しなかったとして昨年、東京地裁で有罪判決を言い渡され控訴した。元代表は収支報告書の虚偽記載への共謀を問われている。

元代表は4億円の現金を陸山会に提供しただけでなく、当時秘書だった石川被告が同時期に同額の銀行融資を受けた際、書類に署名した。

4億円もの銀行融資は本来、必要だったのか。指定弁護士は、元代表提供の4億円を隠すための偽装工作だったとみる。元代表の認識はどうだったのか。いったい元代表は4億円もの金をどう用立てたのか。

これまでも指摘されてきたさまざまな疑問が追及された。

「何度も繰り返しますが」と、時にいらだつ様子も見せた元代表の発言を突き詰めるとこうなる。政治資金収支報告書作成は秘書への信頼に基づき、任せていた、ゆえに、報告など具体的な場面を追及されても「記憶にない」し「分からない」。

収支報告書に至っては「見たことがない」とまで言い切った。

また、関心が集まった4億円の出所については、これまでの説明をさらに変え、新たに「印税や議員報酬もあった」とした。

元代表は昨年来、「法廷で真実を述べる」と繰り返し、国会での説明を事実上棚上げしてきた。その結果が「秘書任せ」では、到底国民の納得は得られないだろう。

そもそも元代表は、自らの巨額事務所費が問題になった代表当時の07年、率先して領収書の一部などを公表。それ以後、「政治資金の収支をオープンにしているのは私だけ」などと強調してきた。収支報告書への関与を否定した法廷発言は、過去の発言の軽さを浮き彫りにした。

法廷では、政治家としての秘書に対する監督責任や、4億円という巨額の金を現金で扱うことへの認識を裁判官が熱心に尋ねた。元代表はそのやりとりの中で、政治家になった当初から収支報告書の内容は把握していないとし、「大多数の国会議員がそうだと思う」とまで述べた。

どういう根拠なのだろう。他の国会議員はどう受け止めるのか。事実ならば、国民にも公開される政治資金に対する著しい責任感の欠如だ。

刑事責任とは別に、やはりこの問題は国会での元代表の説明が必要だ。その上で、法改正などを通じ、政治資金に対する政治家の監督責任を明確にしなければならない。

読売新聞 2012年01月12日

小沢氏公判 「秘書任せ」で理解得られるか

政治資金収支報告書の虚偽記入の疑惑発覚から2年余り。国会で一度も説明することのなかった政界の実力者は、法廷で何を語ったか。

資金管理団体・陸山会の土地購入を巡り、政治資金規正法違反に問われた民主党の小沢一郎元代表の裁判で、最大のヤマ場として注目された被告人質問が、2日間にわたり東京地裁で行われた。

小沢氏は、収支報告書の作成に関し、「すべて秘書に任せていた」「直接関心を持ついとまはなかった」と主張した。

この裁判のポイントは、虚偽記入の実行役として起訴され、1審の東京地裁で有罪判決を受けた石川知裕衆院議員ら元秘書と、小沢氏との間で共謀が成立するかどうかだ。小沢氏の発言は自らの関与を否定するものである。

だが、疑問なのは、小沢氏が収支報告書を秘書任せにしただけでなく、自身の裁判が始まった後も含めて、「一度も見たことがない」と言い切ったことだ。

政治資金規正法は、政治活動が国民の監視の下で公正に行われるようにするため、政治資金の収支の公開制度を設けている。収支報告書は国民に判断材料を提供する重要な手がかりだ。

発言が事実なら、小沢氏は規正法の趣旨を軽んじていると批判されても仕方がない。

小沢氏は常々、「政治資金はすべてオープンにしている」と強調してきた。報告書も見ないで何を根拠にそう言えるのか、と疑問を抱く人も多かろう。

さらに、政治家は秘書に対して監督責任を負っている。それをどう考えているのか。

小沢氏が自ら用意した土地購入原資の4億円の出所については、「親から相続した現金や不動産の売却益のほか、印税や議員報酬だ」などと説明した。

ただ、小沢氏は検察の事情聴取の過程で説明を変遷させており、石川議員らを有罪とした東京地裁判決でも「明快な説明ができていない」と指摘されていた。

小沢氏は法廷で、「その時点では具体的に分かっていなかっただけだ」と弁明したものの、不透明さは拭いきれない。

この被告人質問で実質審理は終了し、小沢氏の刑事責任の有無は裁判所の判断に委ねられる。

「法廷で真実を述べる」と語ってきた小沢氏だが、「秘書任せ」の主張に説得力はあったのか。自らの政治資金について説明を尽くす姿勢を示さぬ限り、国民の理解は得られないだろう。

朝日新聞 2012年01月09日

小沢氏公判 国民との約束を果たせ

民主党の元代表・小沢一郎被告が10、11の両日、東京地裁での被告人質問に臨む。

元秘書らと共謀し、政治資金収支報告書にうその記載をしたとして強制起訴された裁判は、いよいよ大詰めを迎える。

私たちは小沢氏に対して繰り返し、国会で説明責任を果たすよう求めてきた。

ところが、氏は国会に出ていくことも、記者会見での突っ込んだやり取りも拒み続けた。

そして昨秋の初公判でも「報告書に間違いや不適切な記載があった程度で、検察が捜査するのはおかしい」という独自の考えを展開しただけだった。

もちろん刑事裁判には刑事裁判のルールがある。弁護士や裁判官らの質問に答えるのが基本だし、自分に不利なことは言わなくても構わない。

だが、小沢氏はいまも政界に大きな影響力を持つ。そして問われているのは、その活動を根底で支えた政治資金をめぐる疑惑なのだ。

みずから「法廷で真実を述べる」と公言してきた経緯からいっても、ここはきちんと答えてもらわねばならない。

問題の土地取引の原資になった4億円は、どんな金なのか。支援者からの浄財だ、銀行融資だ、個人資産だと説明が二転三転したのは、なぜなのか。

元秘書らの裁判では、小沢事務所内での収支報告書づくりのいい加減な実態が明らかになっている。かねて、資金の流れについて「オープン、明朗」と胸を張ってきたこととの矛盾を、どう説明するのか。

ほかにも確認したい点はたくさんある。

みずからの立場、これまでの言動、それによっていっそう深まった政治への不信――。

こうしたもろもろを考えたうえでの身の律し方が、今度こそあってしかるべきだ。

破綻(はたん)が明らかな政権公約に、国民との約束だとして執着する小沢氏だが、自分の腹ひとつで実行できる、もうひとつの国民との約束を果たすときだ。

このところ小沢氏には、4月に予定される判決の「その後」を見すえた動きが目立つ。本人の刑事責任の有無は裁判所の判断をまつほかないが、忘れてならないのは、元秘書3人がそろって有罪判決を受けているという重く厳しい事実である。

その政治責任、監督責任を棚上げにしたまま表舞台に立とうとしても、多くの有権者が納得するはずがない。

国民の目をおそれ、国民に向き合い、国民の疑問に答える。最後の機会がこの公判だ。

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