JR前社長判決 組織の免罪ではない

朝日新聞 2012年01月12日

JR前社長無罪 なお重い安全への責任

鉄道事業者に要求される安全対策という点から見れば、(略)期待される水準に及ばないところがあった――。

乗客106人が亡くなった7年前のJR宝塚線脱線事故で、神戸地裁は業務上過失致死傷罪に問われたJR西日本の山崎正夫前社長に無罪を言い渡した。その際の裁判所の指摘である。

判決は、組織としての責務が個人の刑事責任につながるわけではないとしたうえで、前社長は危険を予見することができなかったと結論づけた。

過失事件の刑事裁判は、企業の責任を問う仕組みになっていない。裁判所は、その限界を示しつつも、事故防止をめぐるJR西日本の姿勢に厳しく注文をつけた、と読める。

事故の直接原因は、列車が制限速度を超えて急カーブに突っ込んだことだ。運転士は死亡し、前社長が起訴された。鉄道事故で経営幹部の刑事責任が問われた異例の裁判だった。

自動列車停止装置(ATS)を設置していれば事故は防げた。現場は96年に半径がほぼ半分となる急カーブに変更され、通過する列車の本数も増えた。

検察は、危険性が高まったのにATSを整備しなかったのは、当時、安全対策を統括する取締役鉄道本部長だった前社長の過失だと主張した。

運転士にミスがあれば、いつか事故が起きるかもしれない。そうした程度の認識で過失を問えると責任の範囲を広げ、起訴に持ち込んだ。

しかし判決は次のように判断して前社長の責任を否定した。

鉄道事業者は当時、カーブの危険度を個別に判定してATSを整備していたわけではない。現場のような急カーブはほかにもあり、脱線の危険性の認識につながるものではなかった。

具体的な危険性が予想できなければ有罪にできないという従来の考え方に沿った判断だ。

この裁判では被害者参加制度によって経営陣の供述調書が開示されたり、遺族が前社長に直接質問したりする機会があった。それでも遺族らは結論に満足していないだろう。

事故の誘因として運転士らへの懲罰的な日勤教育が指摘され、安全への投資より収益を重視する同社の企業体質に不信が強かったからだ。

実際に、原因究明にあたる国の事故調査委員会の委員らに不明朗な工作を重ねていた。内部資料を兵庫県警に提出せず、証拠隠しの疑いも持たれていた。

JR西日本は無罪を免罪符と受け止めるのではなく、安全思想を徹底させる必要がある。

毎日新聞 2012年01月12日

JR前社長判決 組織の免罪ではない

JR福知山線脱線事故で、業務上過失致死傷罪に問われたJR西日本の山崎正夫前社長に対し、神戸地裁は無罪判決を言い渡した。一方で判決はJR西の安全対策について「大規模鉄道事業者として期待される水準に及ばないところがあった」と言及した。JR西は指摘を厳しく受け止め、再発防止策をさらに徹底しなければならない。

事故の直接原因は、運転士が制限速度を大きく超えて現場のカーブに快速電車を進入させたことである。前社長は、取締役鉄道本部長という安全対策の事実上の最高責任者として、96年に現場を急カーブに変更した際、自動列車停止装置(ATS)を設置しなかったことの過失が問われた。

判決は、前社長が「速度超過による脱線転覆事故が発生する危険性を認識していたことを認めるに足りる証拠はなく、注意義務違反は認められない」と判断した。

一方で判決は、JR西には「組織としての鉄道事業者に要求される安全対策という点から見れば、転覆のリスクの解析やATS整備のあり方に問題が存在した」と指摘した。

無罪判決に対する遺族や被害者の受け止め方は厳しい。公判は個人を被告とする刑事裁判の性格上、現場カーブの設置時点の危険認識に争点が集中し、運転士がなぜ速度超過したのかという本質的な事故原因に迫ることができなかった。

現行刑法の業務上過失致死傷罪では法人の責任が問えず、大事故などの組織責任を追及するうえで刑事裁判の限界も指摘される。法人に対する処分や責任追及のあり方について改めて検討する必要がある。

公判には被害者参加制度を利用して過去最多の54人の遺族・被害者が参加し、前社長に直接質問したり、意見陳述する機会があった。毎日新聞が遺族・被害者に行ったアンケートでは約9割が「公判は意義があった」と回答し、被害者参加や優先傍聴の制度が一定の役割を果たしたことは示された。

事故後、JR西は背景要因と指摘された過密ダイヤの改善や懲罰的な日勤教育の廃止などに取り組んだ。しかし、事故調査委員会の報告書案が事前にJR西側に漏れていたことが発覚したり、事故後も現場カーブ付近で列車がATS作動で緊急停車したりしたケースがあったのに長期間公表されないなど、閉鎖的な企業体質に対する不信はぬぐえない。

事故では、検察審査会の議決を受けて井手正敬被告ら歴代3社長も同罪で強制起訴され、公判前整理手続きが進んでいる。公判でJR西の組織上の問題がさらに究明され、安全態勢の強化につながることを望む。

読売新聞 2012年01月12日

JR西事故判決 無罪でも免れない企業の責任

乗客106人が死亡したJR福知山線脱線事故で、神戸地裁は、JR西日本の前社長に無罪を言い渡した。

2005年4月に起きたこの事故で、前社長は業務上過失致死傷罪に問われた。だが、判決は「事故を予見できた可能性は低く、前社長個人の責任は問えない」と結論付けた。

一方で、判決は、組織としての安全対策について、「大規模鉄道事業者として期待される水準に及んでいなかった」と、JR西を厳しく批判した。

JR西は、この批判を真摯(しんし)に受け止めなければならない。

裁判で、最大の争点となったのは事故の予見可能性だった。

検察は、前社長が安全対策の最高責任者である鉄道本部長を務めていた1996年、現場を急カーブに付け替える工事が施された点に着目した。

工事完成前にはJR函館線の同様の急カーブで脱線事故があり、事故が起きる可能性を認識していたにもかかわらず、自動列車停止装置(ATS)の設置を怠った過失がある、との主張である。

だが、判決は「事故現場と同じ危険なカーブはかなりの数で存在している」とした。函館線脱線事故についても、「今回の事故とは様相が異なり、危険性を想起させるものではなかった」と述べ、検察側の主張を退けた。

前社長の注意義務の範囲を厳格に判断したものだが、納得できないという遺族も多いだろう。

刑事責任は別としても、判決が指摘したように、事故当時のJR西の安全対策はあまりに不十分だったと言えよう。

例えば、事故前から各路線でATS整備を進めていたのに、危険性の高い急カーブへの設置が後回しになっていた。判決が「リスクに応じた優先度を伴っていない」と批判したのも当然だ。

この判決は、検察審査会の起訴議決を受けて強制起訴された歴代3社長の裁判にも影響を与えるだろう。前社長より前の3社長の過失立証については、さらに困難になるとの見方が強い。

事故の後、JR西は、カーブにATSをより重点的に整備し、衝撃を弱める車両を導入するなどの安全対策に乗り出している。

設備面だけでなく、社員教育ではベテランを配して技術指導に取り組むなど、ソフト面でも安全性の向上に力を入れている。

利用者の信頼を取り戻すためには、安全対策をさらに徹底することが求められよう。

この記事へのコメントはありません。

この社説へのコメントをどうぞ。
お名前
URL
コメント

この記事へのトラックバックはありません。

トラックバックはこちら
http://shasetsu.ps.land.to/trackback.cgi/event/938/