朝日新聞 2012年01月07日
原発政策 40年で廃炉は当然だ
4月の原子力安全庁(仮称)発足にあわせた、新たな原子力安全規制の大枠が固まった。
あいまいだった原発の寿命は「運転開始後40年」と法律に書き込む。過酷な事故が起きた場合の対策も、事業者の自主的な取り組みとしてしか位置づけられてこなかったのを、きちんと法律で義務づける。
これまでの規制が原発推進と一体化していたことへの反省から、米国の原子力規制委員会などにならい、原子力基本法に基本理念として「放射線の有害な影響から人と環境を守る」ことを明文化する。
福島第一原発の事故の教訓を考えれば、いずれも当然の転換である。
原発の寿命について、安全庁の準備室は「原発の新設が難しいから廃炉も先延ばしするといった供給側の事情に配慮するような発想を切り離す」という。その姿勢は評価する。
とはいえ、これはほんの第一歩にすぎない。
すでに40年を超えて運転している原発は、東京電力の福島第一1号機以外に、日本原子力発電の敦賀1号機と関西電力の美浜1号機(ともに福井県)の2基ある。関電は7月に40年となる美浜2号機についても、運転延長が可能とする報告書を国に提出している。
まずは、これらを例外なく廃炉にすることが試金石となる。
ただ、40年寿命だけでは脱原発は進まない。私たちは老朽化した原発はもちろん、地震や津波の可能性が高い地域にあったり、現実的な避難計画の設定が難しかったりする原発は廃炉にしていくよう求めてきた。
新たな規制では、最新の安全技術や運転開始の段階ではわからなかった活断層の存在などの知見を、すでに動いている原発にも反映することを義務づける「バックフィット」という制度を導入する。
これを厳密に適用し、現時点での知見を反映させて、すべての原発の「仕分け」を早く実施すべきだ。
また、金融機関と同様、法令違反などが発覚すれば、業務停止や免許取り消しとなるような罰則規定も必要だろう。
問われるのは、描いた絵を本物にする実行力だ。
新たに発足する安全庁の独立性や検査・審査能力をどう確保し、育てていくか。
新庁の主力は原子力安全・保安院から移行する職員だ。電力会社や原発メーカーの出身者も少なくない。意識改革を通じて事業者との間に緊張感のある組織にしなければならない。
|
毎日新聞 2012年01月09日
原発の寿命 なし崩し「例外」を避けよ
東京電力福島第1原発の重大事故を踏まえ、安全規制にかかわる法改正の方針を政府が打ち出した。
運転から40年を超えた原発は原則として廃炉にする。既存の原発にも最新基準への適合を義務づけ、炉心が溶けるような過酷事故への対応を自主規制から法規制に変える。
いずれも、これまであいまいにされてきた安全対策である。法改正できちんと位置づけるのは当然だ。
老朽化した原発を順次廃炉とし、最新の安全基準を満たさない原発を停止していけば、事故のリスクは減っていくだろう。原発を減らしていくことにもつながる。方向性は評価したい。
一方で懸念されるのは法律が抜け道だらけにならないかという点だ。法改正のポイントを公表した細野豪志・原発事故担当相の話を聞く限り、安全対策の実効性を担保するための議論は生煮えの印象がある。
まず気になるのは「原則40年」を超えて運転できる例外規定だ。申請に基づいて評価・審査し、問題がなければ延長を認めるというが、その具体的な条件は何なのか。
これまで政府は運転30年を超える原発について電力会社の評価と老朽化対策を確認することで運転延長を許可してきた。細野氏は「これまでの確認作業とは根本的に違い、延長のハードルは極めて高い」と述べているが、違いをはっきりさせなければ、なし崩しに例外ばかりになってしまう恐れがある。
日本には福島第1原発1号機以外に運転開始から40年を超過している原発が2基ある。細野氏は法改正後のこれらの原発の扱いについても明確な方針を示さなかったが、積極的に廃止していくべきだ。
寿命を40年で区切った根拠もはっきりさせておく必要がある。原発の寿命はこれまで安全性だけでなく経済性も加味して決められてきた面がある。今後は、安全性に特化し、年限にこだわらず、老朽化の影響を精査していく体制が必要だ。
既存の原発に最新の知識や基準を適合させる「バックフィット」にも実効性を保つ厳しい基準と体制がいる。これまでも、06年に改定された原発耐震指針への適合を調べるバックチェックが求められてきたが、多くの原発で終わっていない。原子力安全・保安院の審査も遅い。
これでは、「チェック(評価)」を「フィット(適合)」に変えたところで、安全性を保つことはできない。最新の知見を全国の原発に早急に反映させる仕組みを作るべきだ。
政府は「放射線による有害な影響から人と環境を守る」という基本理念も法律に明記する。これをお題目に終わらせてはならない。
|
読売新聞 2012年01月08日
原発の新規制 唐突な「40年で廃炉」の方針
原子力発電所の運転は原則40年以上は認めないことなどを柱とする、原子力安全規制の新方針を政府がまとめた。
これを盛り込んだ原子炉等規制法の改正案を、新たな原子力規制組織である「原子力安全庁」(仮称)の設置法案などとともに、今月召集される通常国会に提出するという。
東京電力福島第一原発の事故の後、福井県など立地自治体から、原発の老朽化を問題視する声が出ていることを重く見た。
海外では、脱原発を掲げる国を除き、法律で原発の「寿命」を規定する例はまれだ。今後の電力供給の在り方を巡る政府内の議論も続いている。唐突すぎないか。
国内では、廃炉となる福島第一原発の4基を除く50基のうち、15基が、すでに運転30年を超えている。うち2基は40年以上だ。原発は急速に減ることになる。
延長申請があれば、老朽化を評価したうえで認める場合もあるとしているが、細野原発相は「極めてハードルが高い」と言う。
事故前、原発は電力供給の約3割を担っていた。それを何で代替するのか。風力発電や太陽光発電では、まだ力不足だ。
廃炉に伴う課題も多い。政府は廃炉費を1基約500億円と試算し、電力会社による費用積立制度も設けている。だが、積み立てが本格化して約10年のため、廃炉が相次ぎ廃棄物が増えると賄えない。専門の人材も少ない。
さらに野田政権は原発輸出を目指している。原発が次々消える国では国際的信用も得られまい。
原発の寿命を定めるのなら、新設に向けた政策を、将来のエネルギー政策と絡め検討すべきだ。世界トップクラスの安全性を備えた原発に置き換えればいい。
それまでは、既存の原発を、安全性を十分確認したうえで利用していくことはやむを得ない。
今回の新たな規制方針にも、その条件は盛り込まれている。
まず、原発で大きなトラブルが起きても重大事故につながらないよう、法律で電力会社に対策を求める。最新の安全基準や技術を、既存の原発に、迅速に反映させることを義務づける「バックフィット」という仕組みも導入する。
これらは従来、電力会社が自主的に取り組んできた。だが、それが今回の事故の要因となった。
すでに国内の原発は定期検査で次々に停止しており、再稼働のめどが立っていない。新たな規制方針が、これをさらに遅らせることのないようにしてもらいたい。
|
この記事へのコメントはありません。