一体改革素案決定 反対なら代替案示せ

朝日新聞 2012年01月11日

一体改革協議 捨て身で野党呼び込め

野田首相が週内に、内閣改造と民主党役員人事に踏み切る。

昨年、参院で問責決議を受けた一川保夫防衛相と山岡賢次消費者相を交代させるとともに、税と社会保障の一体改革を進める態勢の強化をめざすという。

どんな理由をつけるにせよ、昨年と同じ展開だ。

野党は問責閣僚が出る国会審議には応じないと突っ張る。政権は閣僚を守ろうとしつつも、結局は通常国会の召集直前に、内閣改造の形をとって閣僚の首をすげ替える。

政治の現状への危機感を欠いた、相も変わらぬ与野党の突っ張り合いである。まったく見るに堪えない。

私たちは、参院が法的拘束力のない問責決議で、閣僚のクビを飛ばすような事態には問題があると主張してきた。いまも、その考えに変わりはない。

しかし一方で、一川、山岡両氏に限れば、閣僚としての資質に疑問があることも否定できない。とくに沖縄の信頼を失った一川氏について、私たちは速やかな更迭を求めてきた。

いま、野田政権が最優先にすべきは一体改革の実行である。そのためには、与野党協議を急がねばならない。問責閣僚を続投させることで、野党に拒否の口実を与えるくらいなら、内閣改造で事態の打開を図るのは妥当といえる。

「ネバー、ネバー、ネバー、ネバーギブアップ」。首相は年頭の記者会見で、チャーチルの言葉をひき、「大義のあることを、あきらめないでしっかり伝えていくならば、局面は変わる」と述べた。

しかし、言葉にいくら力を込めても、現実は動かない。「大義」を掲げるだけでなく、野党を引き寄せる具体的な手だてを講じる必要がある。

ここは考えどころだ。一体改革とともに与野党協議が欠かせない重要な課題が並んでいる。

たとえば、(1)国会議員の定数削減と一票の格差の是正(2)国家公務員給与の削減(3)郵政改革の3点について、政権与党として、野党の主張にどこまで歩み寄れるのか。最大限の譲歩案を大胆に示すべきだ。

野党の出方を見ながら、小出しに妥協していくのではなく、与党の側から切れるカードをさっさと切る。

それは、国民に対して、政権の覚悟を示すことでもある。

その譲歩案に説得力があれば、それでも協議を拒む野党に国民の批判が向かうはずだ。

衆参ねじれのもと、政権与党は、国民の支持を求めて捨て身の対応をするしかない。

毎日新聞 2012年01月14日

税制改革と改造 首相こそ説明の先頭に

野田佳彦首相だけでなく、民主党の命運をかけた布陣となる。野田改造内閣が13日発足した。参院で問責決議を受けた2閣僚を含む5閣僚を交代した中規模の改造で、副総理に岡田克也前幹事長を起用し、税と社会保障の一体改革と行政改革の司令塔に据えた。

避けて通れぬ消費増税が焦点となる通常国会の24日召集を控え、党国対委員長の交代も含め態勢の強化を図ったことは当然だ。与野党協議の推進はもちろん、一体改革に国民の理解が得られるよう、政権が総力を挙げる時だ。

首相は改造後の記者会見で「耳あたりのいい政治」との決別を掲げ、「つらいテーマもしっかり訴える」と消費増税など改革実現に向けた布陣を強調した。改造人事の直接の動機は、さきの国会で問責決議を受けた一川保夫防衛相と、山岡賢次国家公安委員長の事実上の更迭を迫られたことだ。昨年の菅内閣のように、問責された閣僚を通常国会前に内閣改造という形で交代させるパターンが繰り返された。

野党は問責決議を乱用すべきでなく、閣僚の進退と直接連動することは原則として好ましくない。だが、両氏の一連の言動をみる限り資質や適格性に疑問を抱かざるを得ない。

国会を控えての交代は当然で、むしろ遅すぎたくらいだ。党内融和を優先した結果、「適材適所」と言えない人事をした不明を首相は反省すべきだ。田中直紀防衛相ら初入閣の閣僚も国会論戦などを通じ、さっそくその手腕や能力が問われよう。

主要閣僚が留任する中で改造の目玉となったのは党代表経験者でもある岡田氏の副総理起用である。

野田内閣はこれまで「重し」不在の感が否めなかった。一体改革や行政改革に精通し、幹事長時代に自民、公明両党とのパイプも培った岡田氏を首相との二枚看板とする狙いは理解できる。岡田氏が距離を置く小沢一郎元代表に近い勢力の反発を危ぶむ見方も出ているが、党内融和よりも今は政策の遂行を重視する局面である。

改造内閣の前途は実に多難だ。12年度当初予算案の審議は3月ごろにヤマ場を迎えるとみられ前内閣と同様、関連法案の処理は難航が予想される。3月は最大の懸案、消費税を2段階で15年10月までに10%に引き上げる法案も国会に提出される。

首相が消費増税を乗り切るには与野党協議を早期に開始し、軌道に乗せる必要がある。首相は記者会見で改めて野党が税制協議に応じることに期待を示した。問責2閣僚が交代し、自民党にはいよいよ協議を拒む理由はあるまい。

民主党の衆院選公約に消費増税がなかったことを理由に自民党がかたくなな態度を取るばかりでは、早期の衆院解散ばかり考え、政策より政局を優先しているとのそしりを免れない。政府・民主党素案には足らざる部分がある。協議に加わり制度にみがきをかけるのが責任野党の役割であることを改めて指摘したい。

首相は同時に一体改革に国民の理解と納得を得るよう、一層の努力を傾けるべきだ。社会保障の長期ビジョンを示すことや、国家公務員給与引き下げ、衆院の定数削減など政府や国会議員が身を切る実績を残すことが欠かせない。公務員給与は自民、公明両党との接点をさらに踏み込んで探る必要がある。独立行政法人、特別会計改革など失速気味の行革に首相や岡田氏がどこまで正面から切り込むかも問われる。

衆院の定数削減と違憲状態にある衆院「1票の格差」是正も与野党を通じて、待ったなしの課題だ。

選挙制度の抜本改革論議も絡む複雑な問題だが年内の衆院解散の可能性も指摘される中、緊急対応を優先すべきだ。次期衆院選で是正を反映できるかもはや微妙な状況だが、都道府県ごとに1議席をまず配分する「1人別枠」を廃止し格差を是正する法整備と、一定の定数削減を済ませることが最低限の責任となる。

来月の復興庁発足を見据えた復興行政、原発事故に伴う放射性物質の除染、避難区域の見直し、事故原発の廃炉に向けた東京電力の経営見直しなども当然ながら改造内閣の重要課題だ。政府は中長期のエネルギー政策を今夏にまとめる。「脱原発依存」の道筋をどう描けるか、一体改革、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)参加と並び、国家の針路を左右する課題である。

首相は消費増税法案について次期国会で成立の展望が開けない場合、衆院解散で民意を問う構えではないか、との観測もある。自民党には法成立への協力と引き換えに衆院解散を求めるいわゆる「話し合い解散」を探る動きもある。予算案審議が緊迫する3月、あるいは6月の国会会期末に向け、政治が緊迫の度合いを強めることは避けられないだろう。

首相が進める改革に国民の幅広い共感が得られてこそはじめて与野党協議を進める世論の追い風が吹き、民意を問うような覚悟にも迫力が伴うはずだ。だからこそ、首相自らが国民に説明する先頭に立つべきだ。火の玉のような熱意をもって局面を打開しなければならない。

読売新聞 2012年01月14日

野田改造内閣 一体改革実現へ総力を挙げよ

自公は「消費税」から逃げるな

社会保障と税の一体改革を、何としても成し遂げたい――野田首相の意気込みがうかがえる。

野田改造内閣が発足した。24日から始まる通常国会には、内閣の命運がかかっている。首相の言う「最善かつ最強の布陣」の真価が問われよう。

新体制で最も目を引くのは、首相が、民主党代表や外相などを歴任した岡田克也前幹事長を副総理として内閣に迎え、一体改革と行政改革を担当させたことだ。

岡田氏は、消費税率引き上げが持論で、民主党内の増税反対派が求める行革の旗振り役でもあった。幹事長時代に自民、公明両党と協議を重ねた実績もある。

国対委員長交代は妥当

首相が、岡田氏の起用について「ぶれないで、逃げないで結論を出せる」と期待感を表明したのは理解できる。問題は、この難局でどう結果を出すかである。

小沢一郎元代表を党員資格停止処分にした時の幹事長だっただけに、党内に反発も根強いが、首相も岡田氏も「大義」を前にして、党内のあつれきを恐れてはならない。

衆参ねじれ国会で一体改革を実現するには、内閣だけでなく、与野党協議の第一線が果たす役割も大きい。

首相が、平野博文国会対策委員長を城島光力幹事長代理に代えたのは妥当だ。平野氏は、野党から信頼を得られず、国対委員長として「適材」とは言えなかった。

城島氏は野党にパイプがあり、協議の経験も積んでいる。首相官邸との意思疎通を密にしつつ、自民、公明両党との協力関係を構築することが求められる。

実態は追い込まれ人事

新内閣のもう一つのポイントは、参院で問責決議が可決された一川防衛相と山岡消費者相を事実上、更迭したことだ。

政権発足後わずか4か月、実態は、野党に追い込まれての改造にほかならない。

法的拘束力のない問責決議による閣僚交代が慣例化するのは望ましくない。だが、一体改革をはじめ多くの懸案で野党に協力を求める以上、やむを得まい。

首相は防衛相に田中直紀参院議員を充てた。田中氏は外交防衛委員長などを経験しているが、野党から「また素人で大丈夫か」と疑問の声が上がったように沖縄、安全保障政策の手腕は未知数だ。

米軍普天間飛行場の移設問題など山積する防衛省の課題に立ち向かう内閣の「本気度」も疑われる。一川氏と同じ小沢グループからの起用だが、今は「党内融和」を重んじる局面ではなかろう。

山岡氏の後任には、松原仁国土交通副大臣を起用し、拉致問題担当を兼務させた。

北朝鮮は指導者交代で体制が不安定だ。拉致問題に取り組んできた松原氏は、玄葉外相と連携し、膠着(こうちゃく)状態を打開する糸口を見いだしてもらいたい。

法相の交代は当然だろう。平岡秀夫氏は、米軍岩国基地への空母艦載機移駐に「反対」と述べ、野党から「閣内不一致」と批判を浴びた。死刑を執行しなかったことにも、被害者遺族から「責任放棄」との声が上がっていた。

一方、自民、公明両党は、野田改造内閣の「一体改革シフト」にどう向き合うのか。対決姿勢を取るばかりでは無責任に過ぎよう。

日本は震災復興、原発事故への対応をはじめ、様々な危機に直面している。毎年、巨額の国債を発行し、将来世代にツケを先送りするような現状を一刻も早く改善しなければならない。消費税率引き上げによる財政再建は急務だ。

自民党の谷垣総裁は、「消費税率10%」は自民党の公約で、その実現は「国家国民にとって焦眉の急」だとの認識も示している。

与野党で政治を動かせ

それなのに、民主党が政権公約(マニフェスト)で消費税率引き上げを約束していなかったことを理由に、「ウソの片棒を担ぐことになる」と協議を拒んでいる。

結局、国政より党利党略を優先しているだけではないのか。

自民党内には、与党と協議すべきだという主張も少なくない。

公明党の山口代表は、民主党が主張してきた年金改革との整合性を含め、社会保障の将来像を明らかにすることを要求している。

政府・与党は、これに応じて、早急に見解を示すべきだ。それを機に、与野党協議を開始し、自公両党も対案を出して、論議を深めればよい。

自公両党は批判だけでなく、長年政権を担った政党として責任を果たさねばならない。それが、政権復帰への近道にもなろう。

産経新聞 2011年01月15日

菅第2次改造内閣 国難打開へ実績を示せ

■また「先送り」では日本が滅ぶ

民主党への激しい逆風が吹き付ける中、菅第2次改造内閣が船出した。昨年9月の改造からわずか4カ月しかたっていない。仙谷由人前官房長官ら問責決議を可決された閣僚を更迭せざるを得なかったためだ。

菅直人首相は改造後の記者会見で、「危機を乗り越えていく力を最大にしたい」と語った。意気込みは分かるが、社会保障の立て直しと財政再建、日米安保体制強化など国難打開に向けた課題に対し、具体的な実績を示すことができるかどうか。新しい布陣にその成否がかかっている。

問題は菅首相自身の統治能力と覚悟である。首相は昨年末、「今までは仮免許だったが、本免許になった」と語り、顰蹙(ひんしゅく)を買った。発言の軽さは変わっていない。

昨夏の参院選でも自ら消費税増税に言及しながら、批判を受けると引っ込めるなど発言がぶれた。環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)についても、首相は昨秋の所信表明演説で「参加検討」を表明しながら反対されると先送りしてしまった。

こうした「生煮え」ともいえる中途半端な政治姿勢が国民の信を失っていることを、首相はしっかりと認識すべきだ。日本はいま崖っぷちに立たされている。これ以上、先送りを続ければ、国がつぶれてしまう。

◆与謝野氏に説明責任

今回注目したいのは、経済財政担当相に「社会保障・税一体改革」として、たちあがれ日本を離党した与謝野馨元財務相を起用したことだ。

与謝野氏は自公政権時代、税財政抜本改革の「中期プログラム」のとりまとめを主導した財政のプロだが、自民党在籍当時から民主党政権を厳しく批判したこともあり、今回の政治行動に対し党内外の批判は大きい。与謝野氏自身の責任ある説明が求められる。

税と社会保障の一体的改革は党派を超えて取り組まねばならない課題だ。首相はこの問題で与野党協議を呼びかけた。しかし、自らの案を示さず、野党が協議に応じないとして責任を転嫁するような姿勢では問題は解決しない。

民主党政権が政権公約の見直し作業に着手するのは当然だ。しかし、平成23年度予算案は子ども手当などのばらまき政策を含んだままになっている。その結果、一般会計規模で過去最大の92・4兆円に達し、新規国債発行額が2年連続で税収を上回る異常事態だ。

高齢化の進展によって社会保障給付費は100兆円を超し、現役世代の負担は限界に達しつつある。にもかかわらず、基礎年金の国庫負担の財源を埋蔵金に依存するような状態だ。財政規律を取り戻し財政再建路線を着実に進めてゆくためにも、与謝野氏は一刻も早く政府・与党案を作り上げ、提示してほしい。

◆TPP参加に踏み切れ

また、日本経済の浮沈はアジア・太平洋地域を中心とする世界の成長力を取り込めるかどうかにかかっており、その突破口としてTPP参加が求められている。具体的な成果を挙げることができなければ、首相が目指す雇用拡大や成長戦略なども望めない。

TPP参加に積極的な海江田万里氏を経財相から経済産業相に横滑りさせた。現在ではTPPのルール作りに参加できず、国益を損なっている。こうした事態を避けるため首相は早急に参加方針のとりまとめに動かねばならない。

TPPへの参加の判断に先立つ農業改革案作りも、従来の保護政策の延長や強化に終わらせてはならない。日本のコメには国際競争力も生まれつつある。鹿野道彦農水相は、こうした農業改革の先頭に立つべきだ。

異例のシフトといえば、参院議長経験者の江田五月氏の法相起用だ。法務・検察行政への信頼回復に手腕が発揮できるのだろうか。国家公安委員長として、不適切な発言が相次いだ岡崎トミ子氏が外れたのは当然だ。

一方、米軍普天間飛行場移設問題にあたる前原誠司外相と北沢俊美防衛相は留任し、仙谷氏の後任の枝野幸男官房長官が新たに沖縄・北方対策担当を兼ねる。

日米同盟強化も問われている。辺野古移設案の実現に向けた取り組みを加速し、集団的自衛権行使に向けた憲法解釈の変更などに踏み込むべきだ。同盟の空洞化を食い止めることが菅首相の重大な責務である。

朝日新聞 2012年01月07日

一体改革 現実の厳しさを語れ

野田政権が「社会保障と税の一体改革」の素案を正式に決めた。14年4月、15年10月の2回に分けて消費税率を10%まで引き上げる。

国民には重い負担増である。

政府・与党は、国会議員の定数や公務員給与の削減、特別会計や独立行政法人の改革など自ら身を削ることが欠かせない。日本経済のパイを大きくし、雇用や税収を増やす戦略の大切さも言うまでもない。

ただ、それだけでは財政が好転しない現実を、政府・与党、とりわけ改革に意欲を示す野田首相は丁寧に説明すべきだ。

厳しい現実は、消費税5%幅の増税分のおおまかな使途にも表れている。

医療や介護、年金、子育てなどの社会保障制度を今より充実させる財源は1%分(約2.7兆円)にとどまる。ほかは、高齢化に伴う社会保障費の自然増▼基礎年金の国庫負担割合を2分の1に引き上げ▼税率引き上げに伴う政府の支出増▼国債発行を減らす分がそれぞれ1%分ずつ、という内訳だ。

つまり、4%分は今の制度を維持するのに使い、財政再建につなげることになる。

「増税は社会保障の充実のためではないのか」「財政再建のための増税は納得できない」と反発する向きもあろう。

しかし、国の来年度の予算案では、税収だけでは90兆円余の歳出総額の半分もまかなえず、借金である国債発行が44兆円に達する。その主な要因は、歳出の3割を占め、毎年1兆円強のペースで増え続ける社会保障費にある。今の世代が使う社会保障費を、国債の形で将来世代につけ回ししているわけだ。

国の債務残高は1千兆円に迫る。財政の先行きへの不安から国債の金利が上昇すれば、社会保障にあてるお金が足りなくなる。もはや「増税は社会保障のためか、財政再建のためか」という議論自体が成り立たない。

今回の素案は、債務危機に揺れる欧州が社会保障給付の削減に追われる窮状に触れた。

同様の悪循環に陥らないためにも、社会保障を支える財政の土台にぽっかり開いた「穴」を消費増税で埋めていく。その第一歩が一体改革である。

政府・与党は近く野党に協議を呼びかける。自民、公明両党は拒否の構えを崩していない。大綱、法案づくりへと作業をどう進めていくか。

最終的なよりどころは国民の支持だろう。であればなおのこと、野田首相は改革の必要性について、説明を尽くさねばならない。

毎日新聞 2012年01月12日

一体改革 与野党で問題点を洗え

民主党が11日、自民、公明両党に対し、消費増税法案などに関する与野党協議に向けた幹事長会談を開くよう要請したのに対し、両党は野田佳彦首相が13日に行う予定の内閣改造を見極めたうえで判断するとの姿勢を崩さなかった。確かに政権与党側の態勢を整えるのが先だろう。しかし、両党はその後も協議を拒み続けるつもりだろうか。「責任野党」とは何か、今一度考える時だ。

特に分かりにくいのは自民党だ。谷垣禎一総裁は前回衆院選(09年)の民主党マニフェストには消費増税が記されておらず、当時の鳩山由紀夫代表が「増税しない」と繰り返した点を指摘し、「民主党に問題を提起する資格はない」という。だが、10年の参院選でいち早く「消費税10%」を公約したのは自民党だ。

さらに自民党は政権交代以来、民主党にマニフェストの見直しを迫ってきた。ところが民主党が見直しに転じると今度は「その資格もない」では、はじめに衆院解散・総選挙ありきの党利優先でしかない。仮に次の衆院選で自民、公明両党が政権を取り戻しても、現状では参院は両党だけで過半数に足りない。ねじれは続き、いずれ与野党協議が必要となる可能性も高いのである。

自民党内でも「解散一点張りでは国民の理解は得られない」という声は強まっている。増税の必要性を否定していないなら、少なくとも協議に応じ、その中で自民党の主張を具体的に展開したらどうか。今、いきなり衆院解散・総選挙となっても、民主党とどこが同じで、どこが違うのか、有権者も戸惑う。

私たちが与野党協議を求める理由はそれだけではない。政府・与党の素案はまだ生煮えだ。例えば、民主党は逆進性対策として、低所得者には生活必需品などに課せられる消費税相当額を後に還付することや、給付付き税額控除を検討しているが、どの所得で線引きするか、所得をきちんと把握するシステムはどこまで構築できるのかなど課題は多い。

欧州では生活必需品などについて標準より低い税率を適用する複数税率が広く導入されている。文化を守り、育てるため、新聞や雑誌、書籍や劇場などに対する「知識課税」を避け、軽減税率を採用している国も多い。これらも与野党協議のテーマになり得るはずだ。

消費税だけでない。従来、社会保障政策は高齢者優先に傾いてきたが、現役世代の負担は今のままで耐えられるのか。将来を見すえて各党が知恵を出し合ってほしい。

そして国会議員の定数削減や国家公務員の人件費削減問題などについても同時進行で議論し、早急に結論を出すのが国会の責任だろう。

毎日新聞 2012年01月07日

一体改革素案決定 反対なら代替案示せ

ようやく政府・与党が「税と社会保障の一体改革」素案を決定した。消費税率を14年に8%、15年に10%へと引き上げる法案を年度内に国会に提出するという。負担増になる課題の多くを見送った社会保障改革はもの足りないが、せっかくできた改革の流れをつぶしてしまっては元も子もない。ここは駒を前へ進めるべきだろう。

改めて指摘しておきたい。昨年までは高齢者(65歳)になる人が年間100万人台だったが、今年は200万人を超える。これから4年連続で200万人以上が高齢者になる。人口の最も多い団塊世代が完全に年金受給者側に回るわけだ。家族や地域のつながりが弱い都市部での増加率が特に高く、医療や介護サービスがなければそのうち「介護難民」があふれ出るだろう。

今でも年間10兆円もの借金をしながらなんとか社会保障をやりくりしているのだ。少子化は改善の兆候が見えず、今後ますます現役から高齢世代へと人口が移る。毎年十数兆円の財源を安定的に確保しなければならないのだ。民主党内には消費増税への反対が根強いが、予算の組み替えや無駄の削減だけでは必要な財源が出てこなかったことを踏まえれば、「消費増税に賛成か反対か」という設問自体がもはや現実的な意味を持たないと考えるべきだ。

消費税を上げないならば、(1)所得税や法人税や相続税などを大幅に上げるか(2)年金・医療・介護保険料や自己負担を大幅に上げるか(3)社会保障の給付を大幅に削減するか(4)今のまま借金を続け、子どもたちに負担を先送りするか--何らかの代替案を示すべきだ。ただし、借金頼みはとうに限界に来ている。

もちろん消費税以外の改革も必要だ。所得税の最高税率は課税所得5000万円超部分を45%に引き上げることが素案に盛り込まれたが、もっと累進性を高めて高所得者に負担を課してもよいのではないか。中間層がやせて貧困率が高くなれば社会全体の経済活動が停滞し、結果的に高所得者にも悪影響が出る。

物価に合わせた年金支給の引き下げが素案に盛り込まれたが、社会保障制度内の負担増と給付減はさらに必要だ。高齢者の負担が重くなる改革案はほかにもある。戦中戦後に苦労してきた人が多いことを思うと心苦しいが、制度を崩壊させないためにいずれは議論が避けられない。

一方、国民全体で薄く広く負担するのが消費税だ。それで医療や介護の財源が得られる利点を改めて感じないわけにはいかない。つまるところ痛みと恩恵の比べ合いである。野田佳彦首相はもっとわかりやすく国民に説明してはどうか。

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