今年、国際政治は重要な転換期を迎える。
3月にロシア、4月にフランス、11月には米国で、それぞれ大統領選挙が行われ、中国は、秋の共産党大会で、新しい指導部を決める。
懸念されるのは、主要国の政治が内向きになり、大衆に迎合するポピュリズム、独善的なナショナリズムが高まることである。
世界は多極化が進み、各地域で新しい秩序作りの模索が進んでいる。「開かれた地域秩序」を目指すことが重要だ。
欧州の深刻な債務・金融問題や、中国の軍事的台頭、北朝鮮の後継体制、イランの核開発問題、不透明な中東情勢――各地で危機の火種がくすぶる時期だからこそ、国際協調が求められる。
米国が国際秩序の形成に果たすべき役割は、依然として大きい。大統領選を通じて、外交、安全保障政策を巡ってどのような論戦が展開するかを注視したい。
◆米のアジア重視生かせ◆
3日、オバマ大統領の再選を阻もうと、共和党の候補者選びがアイオワ州党員集会で始まり、大統領選が本格化する。
争点は経済再生だ。約9%に高止まりする失業率は雇用対策の力不足を示している。オバマ氏に不利な材料だが、共和党も混戦で、まだ有力候補が見えてこない。
議会下院で多数派の共和党は、民主党との対決色を強め、増税反対を掲げ一切の妥協を拒む姿勢だ。大統領が昨秋、打ち出した景気対策は議会の承認を得られず、実現の見通しが立っていない。
内政で手詰まりのオバマ氏は、「米国は太平洋国家」と宣言し、経済協力と外交、安全保障の軸足を、世界の成長センターであるアジア太平洋地域に置く方針を打ち出している。
その柱が、今夏頃の実質合意を目指す環太平洋経済連携協定(TPP)であり、米海兵隊のオーストラリア常駐化だ。中国を意識した布石と言えよう。
共和党も、アジア太平洋を重視する点で一致している。
米国のアジア太平洋地域への傾斜を、地域の安定と繁栄にどう生かすか。日本も、米国の変化に即応して、戦略的な外交に結びつけることが肝要である。
経済、軍事の両面で膨張を続ける中国にどう向き合うかは、引き続き国際政治の最大の問題だ。
中国では、胡錦濤総書記が任期を終え、習近平・政治局常務委員が引き継ぐ予定だ。指導部交代期の中国は経済成長を維持し、「安定」を最優先とする構えだ。
中国はこれまで、南シナ海、東シナ海での海洋権益の強引な拡大や、レアメタル(希少金属)の輸出制限などで、関係各国とのあつれきを生じさせてきた。
◆中国は「北」核に対処を◆
日本、米国、韓国、東南アジア諸国連合(ASEAN)が協力して、地域の海洋秩序、自由貿易体制に中国を取り込む努力が、ますます必要である。
中国が責任ある大国として行動するか否か。それは、対北朝鮮政策でも問われている。
核兵器を持ち、経済的に中国に支えられた北朝鮮が、地域の安定を脅かしている。中国は、核放棄を迫るために、日米韓と協調して北朝鮮に圧力をかけることも避けるべきでない。
ロシア大統領に返り咲きが確実なプーチン首相は、長期執権に国民の不満が高まっていることを念頭に、まずは強権的な政治の手法を見直すべきだろう。
プーチン首相は、旧ソ連諸国を経済的に統合する「ユーラシア同盟」構想を推進し、欧州連合(EU)や中国に対抗する構えだ。
9月にウラジオストクでアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議を主宰し、アジア接近を図っていることも注目される。
膠着状態の北方領土問題を含めどのような対日政策をとるのか、日本は見極めねばならない。
◆岐路に立つ欧州連合◆
フランスのサルコジ大統領は、大統領選で野党・社会党の候補に苦戦しそうだ。サルコジ氏は、EUの金融危機対策に追われ、肝心の国内改革でめぼしい成果を出していない。
EUが金融危機の深刻化をくい止められなければ、分裂への道をたどりかねない。EUは多極化世界の一極の地位を保てるだろうか。まさに岐路に立っている。
昨年、「アラブの春」と呼ばれる激震を経験した中東・北アフリカの国々では、新たな政権作りの産みの苦しみが続く。
チュニジア制憲議会選でのイスラム主義政党の勝利に続き、エジプト下院選でもイスラム主義勢力が第1党になるのが確実だ。
民主化とイスラム主義の台頭がアラブ世界の地図を塗り替えつつある。その帰趨も、多極化が進む世界の安定を左右するだろう。
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