2012・激動の年 世界の協調へ道筋描け

朝日新聞 2012年01月04日

指導者交代の年 国際社会の構想をきそえ

2012年は、おなじみの世界の指導者が、かなり入れ替わる年になるかもしれない。

米国は、オバマ大統領が2期目にいどむ。中国で、共産党総書記に習近平(シー・チンピン)・党政治局常務委員が選ばれる見通しだ。ロシアは、プーチン首相が大統領返り咲きを目指す。サルコジ仏大統領は再選期を迎える。大統領再選が禁じられている韓国は、李明博(イ・ミョンバク)氏の後継を選挙する年だ。

各国とも内情は複雑である。

米国は、保守とリベラルの二極化がますます進む。中国では経済格差が広がった。ロシアは12年間にわたる強権政治への反発が強まっている。フランスでは経済悪化が排外的な動きを誘発している。韓国では既成政党が批判され、市民派が政治の主役に躍り出ようとしている。

どの国も変革の波に洗われている。経済危機の連鎖が社会の絆をたち切り、インターネットが開いた言論空間が、既存の秩序をゆさぶり始めた。現職が再選されるかは不透明であり、指導者の交代が政治をいっそう混迷させる可能性もある。

選挙や政権交代の時期は、国内へのアピールに力を入れるため、内向きになりやすい。混乱の時代に、その傾向がいっそう強まらないか心配だ。

冷戦が終わり、旧ソ連が崩壊してから20年がたつ。経済や情報の流れでみると、世界はひとつになった。

ギリシャ発の経済危機や地球温暖化が示すように、国家単位では解決できない課題が山積している。従来は国内で完結していた不況や失業への対応も、一国では限りがある。できあいの政策パッケージに頼ることは不可能となった。

ひとつの時代が終わろうとしているのに、新しい時代はいっこうに見えてこない。深い歴史的危機のなかに私たちはある。

まずは、目下の問題に簡単な解決策などないことを、理解しよう。こういう時代には、わかりやすい「敵」をつくって、攻撃する政治がはびこる。

米国では、保守の大衆運動である茶会(ティーパーティー)が、連邦政府そのものを敵対視し、支持をのばしている。中国では、領土問題や海洋戦略で政府や軍が強硬姿勢を取ると、熱狂する若者たちがいる。

憎しみをあおる言葉が飛びかう。内から目をそらすためにナショナリズムが使われる。憎しみと恐怖は伝わりやすい。負の連鎖に警戒せねばならない。

世界が必要としているのは、沸騰する国民感情に迎合する甘言ではない。歴史の転機にふさわしい共存の論理のはずだ。

人類は過去の危機をどう乗り越えただろうか。

帝国主義の列強が衝突した第1次世界大戦では、大戦末期にウィルソン米大統領が青写真を描いた。民族自決や、国際平和機構の設立などを掲げた「14カ条」を打ち出した。

第2次大戦では、ルーズベルト米大統領とチャーチル英首相が「大西洋憲章」を発表した。領土不拡大、貿易の機会均等などの柱は、戦後構想の礎石となった。

新しい秩序は、力だけでは生まれない。あるべき世界の姿を描く論理が不可欠なことを歴史は示している。

昨年亡くなったアップルの創業者、スティーブ・ジョブズは「ビジョナリー」と呼ばれた。

未来を予見し、構築する人という意味である。魅力的なアイデアを新しい商品に具現化し、人々の心をつかんだ。

領域は違うが、世界の指導者に求められるのも、同じ資質ではないだろうか。

地球上のどこに住もうとも、人々が求めるものがある。

人間らしい最低限の生活、言論の自由、人種や宗教で差別されないこと、戦争や暴力で命を奪われないこと。

どの国の人々も、自分たちの力だけではそういう目標が達成されないこと、世界の運命が分かちがたく結びついていることを知っている。

人々のこうした願いをたばねて、新しい国際社会の構想を示す必要がある。

すでに個別の対処法は、あれこれ出ている。

たとえば、主要20カ国・地域サミット(G20)にその兆しが見られるような、新しい現実に対応した多国間の調整枠組みを充実させること。核兵器の拡散や領土問題が、国と国との憎しみに火をつけない危機管理の仕組みを整えること。

このような対策が必要なことに多くの国の合意がある。

欠けているのは、こうした目標に向かって進むべきことを、魅力的な言葉とわかりやすい論理で説明し、国民を説得する指導者の力なのである。

それが政治で求められるビジョナリーではないか。

今年、世界の選挙や指導者の交代で、そういう構想を競い合ってほしい。

毎日新聞 2012年01月03日

2012・激動の年 世界の協調へ道筋描け

荒れる内海から外洋へ出てみれば、そこも穏やかな世界ではない。西から東から大きな波が押し寄せ、不気味な岩礁も顔を出す。時には暖かな陽光を浴びて海面がなぎ渡る--。そんな大海原を国際政治に見立てれば、「日本丸」の乗組員に問われるのは、先を読む力と素早い危機対応だろう。2012年の世界は変化の予兆に満ちている。

まずは大国の指導者交代だ。3月にはロシア、4~5月にフランス、11月に米国で大統領選が行われ、秋に予定される中国共産党大会では胡錦濤総書記(国家主席)から習近平国家副主席への権力移譲が確定している。12月には韓国で李明博大統領の後継を選ぶ大統領選がある。

焦点はもちろん米国だ。挑戦者たる共和党の候補者選びは3日のアイオワ州党員集会から本格的に始まる。今のところロムニー前マサチューセッツ州知事、ギングリッチ元下院議長らに勢いがあるが、ブッシュ前大統領とマケイン上院議員が共和党候補の座を争った00年に比べて、迫力不足の感は否めない。

他方、直近の調査ではオバマ大統領の再選を望む者は半数に満たない。高い失業率や長引く不況で「オバマに裏切られた」との声が広がっているのも確かだ。政治・経済・外交ともに米国の衰えがいわれる中、再選への道は平たんではない。

オバマ大統領が敬愛する政治学者ラインホールド・ニーバーは言う。「アメリカの権威というものは、率直に言えば、この国の軍事力に依存しており、さらにこの軍事力はわれわれの経済力に裏付けされている」(「アメリカ史のアイロニー」)と。

60年も前の本が米国の特質をみごとに言い当てている。現代に即して言えば、イラクとアフガニスタンでの戦費が米経済を圧迫し、軍事力を制限された結果、米国の権威が揺らいだということだろう。

だが、ニーバーはこうも言う。米国は「巨大な商業国家」であり、経済ゆえに「世界政治の不可解な流れ」の中に短絡的に飛び込む危うさもあると。金がなければ戦えないが、金がなくても戦いに傾くこともある。今はやや自信を失って内向きになったとはいえ、秋の大統領選に向けて、あるいは大統領選後に、米国がどう変わるのかは予断を許さない。

ロシア大統領選ではプーチン首相が返り咲きを目指す。広がる反プーチン・デモの行方も気になるが、ほぼ20年前(91年12月)のソ連崩壊を20世紀最大の悲劇とみなすプーチン氏は、周辺諸国との「ユーラシア同盟」創設を提唱している。ソ連再興をにらんだ動きとも受け取れる。

また、中国の「顔」になる習氏の政治手腕は未知数とはいえ、中国年来の膨張路線は変わるまい。「アジア太平洋重視」を鮮明にした米国と中露、インドのせめぎ合いが続きそうだが、大国がパワーゲームに終始して世界が不安定化しては元も子もない。米国のリーダーシップによって協調への道筋を描いてほしい。

特に東アジアでの協調は不可欠だ。年明け早々(14日)の台湾総統選の結果は米中関係に大きく影響しかねない。また朝鮮労働党機関紙「労働新聞」によれば、故金正日(キムジョンイル)総書記から金正恩(キムジョンウン)氏への権力継承を図る北朝鮮は4月に、予定通り金日成(キムイルソン)主席生誕100年の記念行事を行い「強盛大国の大門を開く」という。

波乱含みである。北朝鮮の暴走を防ぎ、核・ミサイルの脅威を解消するのは、域内諸国の共通の利益だ。6カ国協議を構成する米中露の緊密な連携を求めたい。

中東では歴史的な地殻変動が進行している。昨年はチュニジア、エジプト、リビアの独裁政権が倒れた。今年はイエメンのサレハ大統領が引退する予定で、シリアのアサド独裁も終わる可能性がある。他方、エジプトでは6月末までに大統領選が行われることになっている。

こうした「アラブの春」は、民主化への動きとはいえ、欧米には痛しかゆしの側面がある。パレスチナ系米国人のエドワード・サイード氏が大著「オリエンタリズム」で指摘したように、欧米が支配者の目で中東を眺めてきたことは否定できまい。「アラブの春」には、そんな国際秩序と歴史への挑戦という意味合いがいや応なく含まれるからだ。

耳の痛い批判もある。羽田正氏の「新しい世界史へ」(岩波新書)によると、オバマ大統領は最近、「イスラム世界」とひとくくりにせず、「イスラム教徒が多数を占める国々」などと慎重に表現するようになった。多様性に配慮し、誤解を生まないためらしい。なのに日本のメディアが相変わらず「イスラム世界」という語を用いているのは思考停止の状態と言わざるをえない、という問題提起は謙虚に受け止めたい。

中東の構造が平和的になったわけではない。ウサマ・ビンラディン容疑者が殺された時、「穏健な民衆運動の時代になった」と言う人もいた。だが、例えばエジプト情勢を見れば、そんな見方は楽観的に思えてくる。「アラブの春」は、ある面ではイスラム運動の解放であり、行き着く先は不透明である。欧米に都合のいい見方をするのは禁物だ。

読売新聞 2012年01月03日

主要国選挙の年 開かれた地域秩序を目指せ

今年、国際政治は重要な転換期を迎える。

3月にロシア、4月にフランス、11月には米国で、それぞれ大統領選挙が行われ、中国は、秋の共産党大会で、新しい指導部を決める。

懸念されるのは、主要国の政治が内向きになり、大衆に迎合するポピュリズム、独善的なナショナリズムが高まることである。

世界は多極化が進み、各地域で新しい秩序作りの模索が進んでいる。「開かれた地域秩序」を目指すことが重要だ。

欧州の深刻な債務・金融問題や、中国の軍事的台頭、北朝鮮の後継体制、イランの核開発問題、不透明な中東情勢――各地で危機の火種がくすぶる時期だからこそ、国際協調が求められる。

米国が国際秩序の形成に果たすべき役割は、依然として大きい。大統領選を通じて、外交、安全保障政策を巡ってどのような論戦が展開するかを注視したい。

◆米のアジア重視生かせ◆

3日、オバマ大統領の再選を阻もうと、共和党の候補者選びがアイオワ州党員集会で始まり、大統領選が本格化する。

争点は経済再生だ。約9%に高止まりする失業率は雇用対策の力不足を示している。オバマ氏に不利な材料だが、共和党も混戦で、まだ有力候補が見えてこない。

議会下院で多数派の共和党は、民主党との対決色を強め、増税反対を掲げ一切の妥協を拒む姿勢だ。大統領が昨秋、打ち出した景気対策は議会の承認を得られず、実現の見通しが立っていない。

内政で手詰まりのオバマ氏は、「米国は太平洋国家」と宣言し、経済協力と外交、安全保障の軸足を、世界の成長センターであるアジア太平洋地域に置く方針を打ち出している。

その柱が、今夏頃の実質合意を目指す環太平洋経済連携協定(TPP)であり、米海兵隊のオーストラリア常駐化だ。中国を意識した布石と言えよう。

共和党も、アジア太平洋を重視する点で一致している。

米国のアジア太平洋地域への傾斜を、地域の安定と繁栄にどう生かすか。日本も、米国の変化に即応して、戦略的な外交に結びつけることが肝要である。

経済、軍事の両面で膨張を続ける中国にどう向き合うかは、引き続き国際政治の最大の問題だ。

中国では、胡錦濤総書記が任期を終え、習近平・政治局常務委員が引き継ぐ予定だ。指導部交代期の中国は経済成長を維持し、「安定」を最優先とする構えだ。

中国はこれまで、南シナ海、東シナ海での海洋権益の強引な拡大や、レアメタル(希少金属)の輸出制限などで、関係各国とのあつれきを生じさせてきた。

◆中国は「北」核に対処を◆

日本、米国、韓国、東南アジア諸国連合(ASEAN)が協力して、地域の海洋秩序、自由貿易体制に中国を取り込む努力が、ますます必要である。

中国が責任ある大国として行動するか否か。それは、対北朝鮮政策でも問われている。

核兵器を持ち、経済的に中国に支えられた北朝鮮が、地域の安定を脅かしている。中国は、核放棄を迫るために、日米韓と協調して北朝鮮に圧力をかけることも避けるべきでない。

ロシア大統領に返り咲きが確実なプーチン首相は、長期執権に国民の不満が高まっていることを念頭に、まずは強権的な政治の手法を見直すべきだろう。

プーチン首相は、旧ソ連諸国を経済的に統合する「ユーラシア同盟」構想を推進し、欧州連合(EU)や中国に対抗する構えだ。

9月にウラジオストクでアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議を主宰し、アジア接近を図っていることも注目される。

膠着(こうちゃく)状態の北方領土問題を含めどのような対日政策をとるのか、日本は見極めねばならない。

◆岐路に立つ欧州連合◆

フランスのサルコジ大統領は、大統領選で野党・社会党の候補に苦戦しそうだ。サルコジ氏は、EUの金融危機対策に追われ、肝心の国内改革でめぼしい成果を出していない。

EUが金融危機の深刻化をくい止められなければ、分裂への道をたどりかねない。EUは多極化世界の一極の地位を保てるだろうか。まさに岐路に立っている。

昨年、「アラブの春」と呼ばれる激震を経験した中東・北アフリカの国々では、新たな政権作りの産みの苦しみが続く。

チュニジア制憲議会選でのイスラム主義政党の勝利に続き、エジプト下院選でもイスラム主義勢力が第1党になるのが確実だ。

民主化とイスラム主義の台頭がアラブ世界の地図を塗り替えつつある。その帰趨(きすう)も、多極化が進む世界の安定を左右するだろう。

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