2011回顧・日本 震災に耐え「絆」確認した1年

毎日新聞 2011年12月31日

回顧2011年 3・11を乗り越えて

東日本大震災に見舞われた2011年に、日本と日本人がとった行動は、後世にどのような評価を受けることになるのだろうか。

マグニチュード9の巨大地震が起こったのは3月11日午後2時46分18秒。揺れの続く中で約3分後に大津波警報が出された。激しい水流に街全体が破壊されていく光景が私たちの目に焼き付いた。

死者は1万5000人余りを数え、行方不明者も加えると2万人に迫る未曽有の大災害だ。膨大な資金を投じ、世界でも類のない津波対策を講じてきたにもかかわらずだ。自然の脅威に、私たちは今なお、脆弱(ぜいじゃく)であることを思い知らされた。

しかし、極限的な状況の中で被災者がとった「利他的」な行動に、世界は驚嘆した。日本の中でも、ボランティアや義援金などの形で被災地に対する支援の輪が広がった。

共同体が崩れ、社会の分断が進んでいると言われている。しかし、日本人が「絆」で結ばれていることを確認できたのは、大災害という不幸な状況下ではあるものの、社会への信頼を再認識する契機になったのではないだろうか。

震災は天災である。それによって生じる被害を最小限にとどめることができれば、そう言い切ることができるだろう。しかし、実際にはそうではなかった。

福島第1原発事故は、原発の安全神話のもとに、事故への対応がいかになおざりにされてきたかを示した。政治の動きも鈍かった。衆参のねじれの中で、先鋭化した与野党の対立が、震災や原発事故への対応にも持ち込まれてしまった。

世界の生産活動が密接に連携し、どこかで支障が生じると、その影響が瞬く間に広がる。日本での震災に加え、タイでの洪水でも示されたサプライチェーンの問題だ。

欧州の債務危機も、ギリシャの段階で適切な措置がとられず、欧州全体に危機が広がっていった。

さまざまなリスクに対する対応力が問われているわけだが、特に原発事故は、日本の対応力の低さを世界に示した格好だ。また、普天間飛行場移設をめぐる環境影響評価問題での政府の醜態も、対応力の劣化という点で特筆すべき事例だろう。

政治や行政に企業も含め、リスクへの対応力の再構築が必要であることが、今年ほど鮮明になった年はない。震災からの復興、原発事故の収束と放射性物質の除染には、長い時間と多くの資源、そして忍耐を費やさなければならない。その過程でも多くのリスクが待ち受けている。

それへの対応力をつけ、3・11を乗り越えていけるのか。来年は、それが問われる年になる。

読売新聞 2011年12月31日

2011回顧・世界 独裁者の死と失脚で揺れた年

北朝鮮の金正日総書記が死去――。年の瀬に飛び込んできた、この大ニュースは、本紙読者が選んだ「海外10大ニュース」に「番外」として、急きょ追加された。

北朝鮮の国営メディアは、三男の正恩氏が金総書記の後継者になると伝えた。北朝鮮は平壌で国葬、追悼大会を行い、後継体制の安定ぶりを誇示したが、権力継承が円滑に進むのかは不透明だ。武力挑発などへの不安も残る。

北朝鮮と対照的に、中東や北アフリカでは、独裁体制が相次ぎ崩壊する歴史的なうねりが起きた。チュニジアやエジプトなどで長期独裁政権が倒れた「アラブの春」は、10大ニュースの3位だ。

その後、エジプトでは国会選挙が行われ、カダフィ体制が崩壊したリビアも制憲議会選に向けて動き出した。選挙を通じた民主化が地域に根付いていくのか、緊迫した情勢が続いている。

2001年の米同時テロを首謀した国際テロ組織「アル・カーイダ」の指導者ウサマ・ビンラーディンの殺害(2位)は、テロの脅威を思い起こさせた。テロとの戦いはなお各地で行われている。

一方、海の向こうで起きた自然災害や債務危機は、東日本大震災からの復興途上にある日本の経済にも重大な影響を及ぼした。1位は「タイで洪水被害、日系企業も大打撃」だった。

9月以降、被害を広げた大洪水は、立ち直りつつあった自動車、電機、レンズなどの企業に打撃を与えた。世界の部品供給網を混乱させた衝撃も大きかった。

ユーロ危機の深刻化(5位)に対しては、独仏などが危機収束に取り組んでいるが、金融不安は解消されていない。歴史的な超円高とともに、日本の景気回復を遅らせる原因となっている。

中国が日本を抜いて世界第2の経済大国になった(9位)ことは、その膨張ぶりを鮮明に示した。高速鉄道の追突事故(6位)をめぐる中国当局の対応には、人命や安全性の軽視が際立ち、経済大国にふさわしからぬ姿をさらした。

巨大な経済力と軍事力を背景に強硬姿勢を強める中国にどう向き合うかは、日本にとって、来年も重要な課題となろう。

日本人28人も犠牲になったニュージーランドの地震(4位)や、トルコの地震(11位)では、多くの尊い命が失われた。

世界人口の70億人突破(8位)は、様々な問題を抱える世界が「持続可能な成長」に最優先で取り組む必要性を物語っている。

読売新聞 2011年12月29日

2011回顧・日本 震災に耐え「絆」確認した1年

かつてない試練に見舞われた年として、日本人の記憶に永く刻まれることになるだろう。

本紙読者が選ぶ「日本10大ニュース」で、「東日本大震災、死者・不明者約2万人」が1位、「東京電力福島第一原発の事故で深刻な被害」が3位となった。

「3・11」から9か月半が過ぎた。政府の政策決定の遅れが災いし、復興の道筋は不透明だ。大量のがれき処理、津波浸水地域の街の再建、被災地での雇用確保など、課題が山積している。

政府のもたつきとは対照的に、震災直後から多くの民間ボランティアが現地に入り、被災者を支え続けた。人と人との「絆」が再認識された年ともなった。

福島第一原発の放射能漏れ事故は、原発の安全神話を打ち砕き、深刻な電力不足を招いた。首相官邸が情報の把握すらできない危機管理のお粗末さに、憤りを感じた人も多かっただろう。

今月、原子炉の「冷温停止状態」が達成されたが、応急措置が終わったにすぎない。政府・東電は長期にわたる原子炉の解体作業、汚染地域の除染、住民の健康管理に全力で取り組む必要がある。

震災対応では民主党政権の混迷ぶりも目立った。菅前首相は退陣表明後も政権に居座り、唐突な「脱原発」宣言で政府内や国民を混乱させたあげく、野田首相にバトンタッチした。5位は「新首相に野田佳彦氏」である。

8位に「大阪ダブル選、橋下氏が大阪市長、松井氏が府知事に初当選」が入った。政権党の体を成していない民主党だけでなく、ねじれ国会で対決姿勢ばかりが目立つ自民党などの既成政党に対する不信の表れと言える。

一方、日本中を元気づけたのが「サッカー『なでしこジャパン』世界一」(2位)だ。ワールドカップ決勝で強豪・米国に競り勝った女子選手の粘りは、被災地に勇気と希望を届けた。

同じスポーツでも、「大相撲で八百長発覚、春場所中止に」(4位)のニュースはファンを失望させた。今年、琴奨菊と稀勢の里の2人の日本人大関が誕生したことは、せめてもの救いである。

6位に入った「スカイツリー『世界一』634メートルに到達」も明るい話題だ。来年5月には、いよいよ開業を迎える。

東京タワーは戦後復興のシンボルとして開業し、日本は驚異的な高度成長を成し遂げた。来年は、震災復興に向けて確かな一歩を踏み出す年にしたい。

この記事へのコメントはありません。

この社説へのコメントをどうぞ。
お名前
URL
コメント

この記事へのトラックバックはありません。

トラックバックはこちら
http://shasetsu.ps.land.to/trackback.cgi/event/930/