民主議員集団離党 浅ましい年の瀬の混乱

朝日新聞 2012年01月05日

首相年頭会見 野党はテーブルにつけ

野田首相がきのう、年頭の記者会見にのぞみ、今年の政権運営の優先順位を明確にした。

昨年に続き、震災からの復旧・復興、原発事故への対応、日本経済の再生に重点的にあたるという。そのうえで「最大のハードル」は、消費増税と社会保障の一体改革だと言い切った。

将来世代になるべく負担を先送りしたくないと、あえて不人気政策に取り組む姿勢は、私たちも率直に評価する。

民主党は昨年末、すったもんだの末、消費税率を2段階に分けて10%まで引き上げる方針をまとめた。首相は週内に素案を正式に決め、来週中に与野党協議を呼びかける考えを示した。

野党、とりわけ2大政党の一角として責任を負う自民党は、話し合いに応じるべきだ。

任期中の消費増税を否定して政権に就いた民主党に増税を提唱する資格はない。谷垣総裁はそう言って突っぱねたが、ここはよくよく考えてもらいたい。

確かに、社会保障費の膨張に歯止めをかける仕組みは不十分で、積み残された課題は多い。

民主党内にはなお、強い反対論があり、増税法案の国会提出や採決の際に、さらなる離党や造反も取りざたされている。

問責決議を受けた2閣僚を続投させている野田政権は相手にできないという理屈もあろう。

それでも消費税10%はそもそも、自民党が一昨年の参院選で掲げた公約だ。政策目標はほとんど一緒なのに、議論のテーブルにさえつかないのでは、責任野党の名が泣く。

政権を解散総選挙に追い込むための党利党略を優先していると言わざるを得ない。

「マニフェスト違反」は重くても、それには次の総選挙で、有権者の審判が下される。

欧州発の経済危機を見ても、財政の健全化がいま、喫緊の課題であることは明らかだ。世界の市場が日本の政治の「決定力」を注視している。

一体改革だけではない。総選挙での一票の格差是正や定数削減、公務員給与の削減、郵政改革……。先の国会で積み残された重要課題はいずれも、与野党の合意なくして実現できない。

今年は9月に民主、自民両党の党首選が控えている。政治的な駆け引きが一層過熱することは間違いない。

しかし与野党は、繰り返される政治の機能不全に、国民がほとほとあきれている現実と真剣に向き合う必要がある。

この重要な1年に、どの政治家がどのように振る舞ったか、私たちも目をこらして、次の審判に備えよう。

毎日新聞 2012年01月05日

首相年頭会見 決意裏付ける戦略を

野田佳彦首相が年頭の記者会見を行った。首相は税と社会保障の一体改革で消費税率を15年10月までに10%に引き上げる法案を年度末に提出する意向を強調、自民党など野党に協議への参加を求めた。

政府・与党素案取りまとめに何とかこぎ着けそうな首相だが、通常国会で野党の協力を得る見通しはついておらず、与党内でも亀裂が深まるなど状況は厳しい。それだけに根拠なき楽観は禁物だ。野党に協議を迫る環境整備を急ぐと同時に、税制改革に国民の理解を深めるための戦略を真剣に構築すべきである。

空中分解せずに民主党内の調整が決着したせいか、表情はやや自信を取り戻したように見えた。消費増税に反対する一部議員は新党を結成したもとをわかった。党の基本方針に同調できない以上、やむを得まい。

首相は素案決定後、来週中に野党に協議を正式に呼びかけ、大綱段階で成案を得て法案の提出を目指す考えを示した。ねじれ国会で法案を成立させるには野党の協力が不可欠だが、自民、公明両党は現段階で協議にすら応じない構えだ。「ネバーギブアップ」とあきらめず改革実現を目指す決意は買うが、このままで局面転換は難しいのが現実だ。

一体改革にどれだけ国民の共感が得られるかが結局、カギを握る。宙づり状態の国家公務員の給与削減、国会議員の定数削減は事実上、増税の前提条件に等しい。給与削減問題は労働基本権問題との同時決着を主張する「連合」との調整も含め、首相が党側に強く指示して打開の道を探るしかあるまい。

衆院定数削減も行方がみえない。首相は「1票の格差」とあわせて決着を目指すというものの、比例定数を80削減する民主党の主張に野党が同調する可能性は限りなく低い。

一川保夫防衛相、山岡賢次消費者担当相への問責決議に伴う野党との対立も引きずったままだ。野党側が決議を理由に国会で審議拒否をすべきではないことは当然だ。だが2月の復興庁発足を見据え、閣僚の交代など政権の布陣を立て直すことも柔軟に検討すべきではないか。

小沢一郎元代表が消費増税に慎重姿勢を示すなど、野党どころか民主党内の亀裂で次期国会が大荒れになる可能性すらある。首相は衆院1票の格差の違憲状態解消を強調しながらも、解散権は制約されないとの見解を示した。「消費税解散」に含みを持たせたとの観測は広がろう。

確かに最終的には民意を問うくらいの覚悟がなければ乗り切れぬ局面かもしれない。だからこそ税制改革に加え社会保障でどんな将来ビジョンを描いているか、より明確で説得力ある説明を首相には求めたい。

朝日新聞 2011年12月31日

首相と増税 豹変して進むしかない

民主党が、消費税率を2段階で上げる案をまとめた。14年4月から8%に、15年10月には10%にする。

「年内」に引き上げ時期と税率を示す約束をしていた野田首相は、なんとか面目を保った。反対派に配慮して、党税制調査会の役員会案から、それぞれ半年ずつ遅らせたが、案を固めたことは率直に評価する。

これで、ひとまず社会保障と税の一体改革のスタート台には立てた。

首相はおととい、議論を決着させる党の会議で「政治家としての集大成」という言葉を使った。その覚悟を本当に形にしてほしい。

なにしろ、ここまでの首相の態度は煮え切らなかった。

さきの臨時国会では、国家公務員給与や議員定数の削減をできず、みずから身を削る姿勢をまったく示せなかった。

それなのに来年度から八ツ場ダムの本体工事や、整備新幹線の三つの新規区間の着工、東京外郭環状道路の建設再開を決めた。大震災の復興費用がかさむなか、あえて大型公共事業の復活に道を開いた。

これでは、税率引き上げに反対する理由を、わざわざばらまいたようなものだ。あまりの戦略性のなさは、政権の命取りにさえ見えた。

一方で、党内の増税反対派の動きも理解しがたかった。

8月の党代表選で、野田氏が勝った時点で、増税方針は決着したのではなかったのか。

むろん、デフレ脱却が先だ、もっと行革をすべきだ、といった意見はあり得る。だが、ならば、そのための政策を論じ、実現するのが与党議員の務めではないか。

残念ながら、反対派の言動からにじんだのは、次の選挙が心配という個別事情だ。

その極めつきが、議論が終わる前に、党を捨てて、離党した議員たちだ。

首相には自民党など野党との協議、国会での法案審議、そして採決と、より高いハードルが待ち受ける。与党内からも、法案に反対する議員が出るのは避けられそうにない。

だが、この一体改革はもはや後戻りはもちろん、立ち止まることさえ許されない。

首相はおととい、「来年は国民のための正念場の年だ。『君子は豹変(ひょうへん)す』という立場で行革にも臨む」と訴えた。

言葉どおり、無駄の削減を実現しなければ、改革への世論の支持は広がらず、政権の命運も尽きる。首相は厳しい現実をみつめ、突き進むしかない。

毎日新聞 2011年12月29日

民主議員集団離党 浅ましい年の瀬の混乱

消費増税問題をめぐり民主党内の亀裂が拡大している。野田佳彦首相が目指す年内の素案取りまとめの調整が難航する中、増税に反発する党所属衆院議員9人は集団での離党に踏み切った。

政府・与党の素案も正式に決定しない段階での離党は次期衆院選での逆風をおそれ、党に見切りをつけた自己保身と断じざるを得ない。党税調は2015年4月までに消費税率を2段階で10%に上げるたたき台を示した。時期や税率も含めた意見集約と法案化への作業を首相はひるまず断行すべきである。

東日本大震災で避難した多くの住民は今なお仮設住宅で寒さの脅威にさらされ、原発事故も実態は首相の言う収束に遠い。そんな年の瀬、相も変わらぬドタバタと政治の醜態が繰り返されてしまった。

「マニフェストを約束して当選したが、ほごにされ立つ瀬がない。うそつきと呼ばれたくない」。議員の一人はこんな理屈で離党は正当と主張しているという。確かに消費増税は衆院選公約でふれておらず、八ッ場ダムの建設再開にみられるように公約は総崩れ状態だ。党の主要政策の方向と離党議員らの主張はかけ離れており、同じ党にいることがもはや不自然にすら思える。

だからといって、今回の行動に大義や政治家としての責任を認めることはできない。

次期衆院選も2年以内に迫り、増税への逆風におびえる空気が党内に広がる。しかも過去の新党騒ぎが年末にあったように、年内に離党した形を取れば、年明けに国会議員5人以上で新党を結成しても来年の政党交付金を受け取ることは可能だ。

集団離党した議員のほとんどは小沢一郎元代表に近く、多くは今年2月に会派離脱を届け出たメンバーと重なる。橋下徹大阪市長が率いる「大阪維新の会」、石原慎太郎東京都知事を中心とした新党構想など既成政党を脅かす動きも議員心理を浮足立たせている。こうした事情が重なり、抗争が本格的に再燃したのが実態ではないか。だとすれば、政策本位とはほど遠い動きである。

首相も覚悟が問われている。党内に根強い増税慎重論に配慮したのか、外国訪問前にあれほど強調していた年内の政府・与党素案作成の先送りに含みを持たせていた。党としての具体的な意見集約すらできないようでは「不退転」などと軽々しく言う資格はない。

消費増税の法案化を進めるにつれ、さらなる離党の動きや対立が加速していくことは避けられまい。首相が党内融和を優先しても、おのずと限界がある。分裂も辞さぬ構えで政策の筋を通す局面である。

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