毎日新聞 2011年12月29日
未明の評価書搬入 愚かなアリバイ作りだ
本来、政府職員が持参して提出すべきものを配送業者に委ね、これが失敗すると、通常の業務時間外の未明(午前4時過ぎ)に県庁守衛室に運び込む……。
米軍普天間飛行場の移設計画に基づく環境影響評価(アセスメント)評価書の沖縄県への提出をめぐるドタバタは、沖縄が反対する同県名護市辺野古への「県内移設」を推進する難しさを象徴している。
反対派住民の抗議行動による混乱を避けたい、というのが政府の言い分である。仲井真弘多知事は評価書提出は行政手続きであるとして認める意向を表明していた。しかし、そのやり方はとても正常とは言い難く、拙劣に過ぎる。普天間問題の解決を目指す政府の誠実さ、真剣さを問う声が上がるのは当然だろう。
搬入されたのは、県条例が定める評価書の必要提出部数(20部)に足りない16部だった。政府は追加提出の方針である。県は対応を検討したが、結局、受理を決めた。
政府がここまで「年内提出」にこだわったのは、それが対米公約になっているからだろう。
評価書の提出を女性への性的暴行にたとえた前沖縄防衛局長の不適切発言、普天間問題のきっかけとなった少女暴行事件を「詳細には知らない」と述べた防衛相の国会答弁。沖縄ではこれらの発言に対する怒りが渦巻いている。沖縄との信頼回復をなおざりにしたままの評価書提出は、野田政権の米政府向けアリバイ作りとしか言いようがない。
7000ページに及ぶ評価書には、沖縄県が危険性や騒音問題を懸念する垂直離着陸輸送機「MV22オスプレイ」について問題なしとする記述もある。これで沖縄側を説得できるとは到底、思えない。
評価書に対しては、仲井真知事が滑走路部分については45日以内、埋め立て部分は90日以内に意見を提出する。これで、政府が埋め立てを知事に申請する条件が整う。しかし、知事は埋め立てを承認しない考えを表明している。展望が見えないまま辺野古への移設の手続きを進めることに、強い疑問を覚える。
政府と沖縄との溝は深くなるばかりだ。もっとも懸念されるのは、移設計画が頓挫し、「世界一危険な基地」普天間が固定化されることである。
米議会は、在沖縄海兵隊のグアム移転経費を12会計年度の国防予算から全額削除したが、13年度も同様の措置が取られれば、普天間の固定化がますます現実味を帯びてくる。
辺野古への移設か、普天間の固定化か--この二者択一で沖縄に圧力をかける手法では展望は開けない。野田佳彦首相は、この現実を踏まえて普天間問題に取り組むべきだ。
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読売新聞 2011年12月28日
「普天間」評価書 基地や振興で包括的な合意を
本来、淡々と実施されるべき行政手続きが、政治問題化して、混乱を招いたのは残念だ。
政府は、米軍普天間飛行場の沖縄県名護市辺野古移設に関する環境影響評価書を沖縄県に発送した。配送業者の車は県庁に着いたが、移設反対派の市民団体に阻まれ、評価書は搬入できなかった。
仲井真弘多知事は、関連法令に従って評価書を受理する方針を表明している。正当な行政手続きが反対派の妨害行為で滞ったのは、法治国家として問題だ。
評価書は、代替施設における新型垂直離着陸輸送機MV22オスプレイを含む全機種の騒音が、国の環境基準を下回るとしている。代替施設の埋め立て工事の環境への影響も限定的とされる。
代替施設工事に伴う環境問題は、科学的根拠に基づき、冷静に議論されるべきだろう。
評価書の提出は、移設手続きの一つの節目にすぎない。
肝心なのは、公有水面埋め立ての許可権限を持つ仲井真知事が、辺野古移設を容認することだ。知事は27日、「承認には、まずならない」と述べ、埋め立てを許可しない可能性に言及した。
政府は沖縄の負担軽減と日本の安全保障を両立させるため、知事の説得に全力を尽くすべきだ。
辺野古移設が頓挫すれば、普天間飛行場の現状が長年、固定化される。海兵隊8000人のグアム移転と、普天間など米軍6施設の返還も白紙に戻ってしまう。
政府と沖縄県はまず、この点で認識を一致させる必要がある。普天間問題の実質的な進展がない限り、米連邦議会がグアム関連予算の凍結を解除しないからだ。
辺野古移設と海兵隊移転を同時並行で進めるか、どちらも断念するか、の二者択一しかない。どちらの選択が良いのか、政府と沖縄県は冷静に話し合ってほしい。
政府は、来年度の沖縄振興予算を大幅に増加させた。普天間問題の前進を期待し、沖縄県に異例の配慮をしたものだが、これは来年度に限った措置にすぎない。
米軍施設返還後の跡地を利用した地域振興など中長期的な沖縄の将来像について協議を深め、沖縄県との接点を探る必要がある。
普天間以外の米軍再編や米軍訓練の県外・国外移転による地元負担の軽減や、日米地位協定の運用見直しなども話し合い、包括的な合意を追求してはどうか。
仲井真知事の決断が重要だ。何が沖縄と日本のためになるのか、慎重に判断してもらいたい。
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