輸出3原則緩和 武器の共同開発を推進せよ

朝日新聞 2011年12月25日

武器輸出 三原則を緩和するな

野田政権が、武器の輸出を原則として禁じる「武器輸出三原則」を緩和しようとしている。週明けに、官房長官談話の形で発表する見通しだ。

しかし、なぜ、こんな年末のどさくさに紛れるように見直しを急ぐのか。不見識であり、容認できない。

三原則は、専守防衛に徹し、他国への脅威とはならないという、戦後日本の抑制的な防衛政策の主要な柱のひとつである。

この平和国家のブランド力の意義、重みを、首相らはどう考えているのか。

もともと、民主党政権は昨年末にも緩和を図っていた。

だが国会運営で協力してほしい社民党への配慮から、先送りした経緯がある。そのときも、私たちは時間をかけた慎重な対応を求めた。

あれから一年、国会でどれだけ議論したのか。国民への説明は、いつやったのか。

いま、緩和論が浮上する理由は承知している。

武器のハイテク化に伴い、1国だけでは開発、生産を担いきれなくなってきている。複数の国が連携する共同化が、国際的な潮流になりつつあり、日本も同盟国の米国に加えて他の友好国とも幅広く協調したい、ということだろう。

米国の期待や、国内の防衛産業の強い要請もある。

だが、日本はこれまでも、三原則を堅持しつつ、必要であれば、一件一件を吟味し、歯止めを講じながら、「例外」を認めてきた。

米国への武器技術の供与も、北朝鮮のミサイルを迎撃するシステムの米国との共同研究・開発も、そうやってきた。

今回の緩和は、武器の共同開発・生産などで、一定の基準を満たすものは、一律に例外扱いする方針のようだ。

要するに、例外を設けやすくする「例外の普遍化」を図ろうというのだ。

だが、手がけた武器が、なし崩し的に第三国に輸出される可能性がある。

一律に例外とする方式では、日本として一貫した方針に基づいて、有効な歯止めをかけられなくなる。

いま、中国やロシア軍の急速な近代化に対抗する形で、アジア・太平洋地域の軍拡が進んでいる。日本の三原則緩和に関係国の疑心を招けば、この流れを助長しかねない。

日本外交が優先的に取り組むべきは、不断の対話と相互依存の深化を通じて、地域の信頼醸成に努めることだ。拙速に三原則を緩める時ではない。

毎日新聞 2011年12月28日

武器三原則緩和 新基準の厳格な運用を

政府は、武器や関連技術の輸出を原則として禁じた武器輸出三原則を緩和する新基準を決めた。

官房長官談話で公表された新基準は、国際紛争を助長することを回避するという三原則の理念を堅持しつつ、(1)日本の安全保障に資する場合に、防衛装備品(武器)・技術について、日本と安保の協力関係がある国との共同開発・生産を認める(2)完成品の海外移転は平和貢献や国際協力に限定する(3)いずれも、相手国による目的外使用を認めず、第三国への移転を防ぐ厳格な管理・制度を前提にした日本の事前承認を必要とする--などが柱。これまでの「個別例外方式」に代わり、条件を満たす場合に三原則を緩和する「包括的な例外化措置」となっている。

三原則は、佐藤内閣が1967年、(1)共産圏諸国(2)国連決議による武器禁輸国(3)紛争当事国やおそれのある国--への武器禁輸を表明したことに由来する。76年に三木内閣がその他の国への輸出も「慎む」として事実上の全面禁輸となった。しかし、83年に中曽根内閣が対米武器技術供与を認め、その後、個別に例外を設ける方法で緩和が進み、ミサイル防衛(MD)の日米共同開発・生産、インドネシアへの巡視艇提供などが例外扱いとなっている。

新基準は、戦闘機などで主流となっている国際的な共同開発・生産に道を開くことに主眼がある。次期主力戦闘機(FX)として調達が決まったF35は米英など9カ国の共同開発だ。高価な装備品の共同開発・生産に参加すれば、調達コストの低減、国内生産基盤の整備、安保・防衛政策の充実に資するのは間違いない。

また、国連平和維持活動(PKO)や人道支援目的の重機やヘルメット、巡視艇などの他国への供与はもともと、禁輸の対象である「武器」とすることに疑問の声もあった。

装備品の調達をめぐる環境の変化や、平和・人道に限定された完成装備品の使用目的を考えれば、新基準はおおむね妥当である。個別例外方式を維持すべきだとの意見もあるが、例外の積み重ねは結局、新基準の内容とほぼ同じになるだろう。

大切なのは、新基準を運用するにあたって三原則の理念を厳格に順守することだ。輸出相手国の武器・技術の使用目的などを見極め、共同開発した武器や日本の技術が紛争当事国など第三国に流出する可能性があるなどの場合には、日本はこれに反対する姿勢を鮮明にしなければならない。

「第三国への移転などで米国から強い要請があれば、新基準はなし崩しになるのではないか」--。政府は、少なくない国民にこう見られていることを自覚し、新基準の厳格な運用にあたるべきだ。

読売新聞 2011年12月28日

輸出3原則緩和 武器の共同開発を推進せよ

武器の輸出管理政策を時代の変化に応じて、国益を守る観点から見直すのは、当然である。

政府が、すべての武器や関連技術の輸出を禁じている武器輸出3原則の緩和を決定した。

厳格な輸出管理を条件に、防衛装備品の国際共同開発・生産と、平和構築・人道目的の海外移転を認める新基準も定めた。歴史的意義を持つと、高く評価したい。

3原則は、1967年に佐藤内閣が制定し、76年に三木内閣が禁輸対象をすべての国に拡大した後は、個別案件ごとに例外規定を設ける手法で緩和されてきた。

3原則の抜本的見直しは、自公政権以来の政治課題だ。2009年の政権交代後も、見直し論議が続き、昨年末の防衛大綱改定時にも、今回と同様の見直しが検討されたが、菅首相が、野党・社民党との連携を名目に先送りした。

今回の見直しで、日本の防衛産業政策がようやく打ち出されたと言える。公明党の反対で自公政権ができなかったことを、民主党が実現したのは大きな成果だ。

巨額の費用と最新技術を要する戦闘機や艦船の開発は、複数の国が英知を集めて行うのが最近の潮流だ。日本が次期主力戦闘機(FX)に選定したF35も、米英など9か国が共同開発している。

日本が国際共同開発に参加せず、“技術鎖国”を続けることの弊害は、国産装備品が割高になるだけでは済まされない。

10年連続で防衛予算が減少し、防衛関連企業の撤退が続く中、中長期的に国内の防衛技術・生産基盤を揺るがすなど、日本の安全保障にも悪影響を与えよう。

中国の軍事的膨張など国際情勢の変化への対応も必要だ。

今後は、米国や欧州諸国との共同開発を前向きに推進したい。無論、装備品が紛争当事国などに移転されないように、輸出管理を厳格化することが大切だ。

平和構築目的の武器供与は、インドネシアに海賊対策の巡視船を提供した例外があるだけだ。

自衛隊が国連平和維持活動(PKO)で使用した重機なども、現地に残せれば、相手国に感謝されたのに、高い輸送費を使って国内に持ち帰らねばならなかった。

途上国の平和構築を支援することは、世界の平和と安全や通商国家・日本の利益にもつながる。

新基準の制定を機に、外務、防衛両省などが連携し、政府開発援助(ODA)を活用して、巡視船や防弾チョッキなどの供与に積極的に取り組むべきだ。

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