日中首脳会談 対「北朝鮮」でも戦略的な連携を

毎日新聞 2011年12月27日

日中首脳会談 言葉だけでない互恵を

異例ともいえる年の瀬の外遊ラッシュだ。2日間の中国訪問から帰国したばかりの野田佳彦首相は今日、インド訪問に出発する。玄葉光一郎外相は、日本の外相として9年ぶりにミャンマーを訪れた。

年末の政治日程が窮屈な中で首相が国を空けることには、一部から懸念する声も出ていた。だが、北朝鮮の金正日(キムジョンイル)総書記死去後の朝鮮半島問題など、アジアや国際社会の先行きは極めて流動的になっている。首相が近隣主要国の首脳と直接会って率直に意見交換することは、こうした不透明な時こそプラスになるという前向きの発想が大事だ。

今回の首相訪中は、もともと今月中旬の予定が中国側の事情で年末に延期された。その結果、金総書記死去後に6カ国協議の関係国首脳が初めて会う場となり、国際的にも注目された。外交にはしばしばこうした偶然が作用する。それを生かせるかどうかで国益も左右される。日本は今、しっかりした国家目標と臨機応変な外交戦術が欠かせない緊張した国際環境下に立たされていることを再認識する必要がある。

最大の焦点となった朝鮮半島問題で、日中双方は半島の平和と安定が「両国の共通利益」であることを確認した。核やミサイル、拉致問題を解決するためにもまずは権力移行期の北朝鮮を安定させ、対話のテーブルにつかせることが重要だ。日中はこれまで以上に緊密に連携し、2国間の摩擦に労力をさかれる外交から地域安定を最優先に協力し合う外交へと、関係を深化させなければならない。「戦略的な互恵関係」を言葉だけにしないためにも。

日中両国は年1回の首脳往来を続けている。今年は日本の首相が訪問する番だったが、震災や政権交代で日程調整が遅れた。首脳往来の実績を絶やさず、来年の国交正常化40周年に向け関係改善を図ることは、日中双方の利益である。その意味で、海洋危機管理メカニズムの具体化で合意したことは一歩前進と評価したい。形だけでなく実際に機能する態勢を早く整えてほしい。

それにしても、である。日本の首相の公式訪中は09年の麻生太郎首相以来であり、民主党政権発足以降は初めてだ。民主党政権の首相の公式訪米もまだ実現していないことを考えると、日本外交の本格的な立て直しはまだまだ先という感が深い。

日中関係の重要性は言うまでもないが、インドとの関係強化やミャンマーの民主化支援といった、中国の周辺諸国との絆を深めることも重要だ。国際情勢を見極め、多角的で複眼的な外交を進めるためにも、今回の一連の外遊を年明け以降の外交戦略づくりにつなげたい。

読売新聞 2011年12月27日

日中首脳会談 対「北朝鮮」でも戦略的な連携を

金正日総書記死去で先行き不透明感が増す北朝鮮に対し、日中が緊密に連携できるかどうか。それも「戦略的互恵関係」の試金石となろう。

野田首相が初めて訪中し、北京で胡錦濤国家主席、温家宝首相とそれぞれ会談した。

北朝鮮問題に関し、野田首相と中国首脳は「朝鮮半島の平和と安定は両国の共通の利益だ」との考えで一致した。両国が緊密に意思疎通を図り、「冷静で適切な対応」を取ることも確認した。

中国は経済支援を通じて北朝鮮の内実を知り、大きな影響力も持っている。6か国協議を再開し、北朝鮮に核廃棄を促すには、中国の役割が欠かせない。

日中が北朝鮮への基本方針で足並みをそろえた意義は小さくない。日本は今後も米韓両国と協力し、中国に自らの役割を果たさせる外交を展開する必要がある。

日本人拉致問題について、野田首相は「日朝関係進展には拉致問題での前進が不可欠だ、と北朝鮮の新指導部に伝えてほしい」と述べた。北朝鮮内の不測の事態に備え、拉致被害者らの安全確保のための支援も求めた。

胡主席は「日朝双方の対話と協議を通じた問題解決を希望する」と述べるにとどまったが、日本は中国の協力を粘り強く要請しなければならない。

北朝鮮を巡って連携する上で、日中関係の安定は欠かせない。会談では紛争の火種を抱える東シナ海を「平和、協力、友好の海」にする方針を改めて確認した。

具体化するため、紛争防止に向けた「海洋協議」の枠組みを新設することを決めた。

海難事故の際、両国間の連絡体制などを定める「海上捜索・救助協定」でも原則合意した。

中国は、漁業監視船などによる日本領海侵犯といった挑発行為をやめ、違法操業を重ねる中国漁船を規制してもらいたい。

一方、昨秋の尖閣諸島沖の漁船衝突事件後中断している、東シナ海のガス田協議の日程は決まらなかった。胡主席は「交渉再開に向けて意思疎通を図りたい」と語った。交渉再開さえ避け続けるならば「協力の海」の名が泣こう。

今回の会談で、日本は中国国債の購入を表明した。両国の経済関係が一層広がったことになる。日中間の貿易による相互依存の深まりを考えれば妥当だろう。

来年9月、日中国交正常化40周年を迎える。それまでには、双方が「互恵」を実感できる具体的な成果を上げたい。

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