原発事故報告 首相官邸が混乱の一因だった

朝日新聞 2011年12月27日

原発事故報告 危機を想定せぬ愚かさ

原発PRの安全神話によって原子力の当事者自身も安全ぼけに陥ってはいなかったか。

福島第一原発をめぐる政府の事故調査・検証委員会中間報告を読むと、そう思わせる。

1号機では当初、停電時に炉を冷やす非常用復水器の機能が不全だったのを、発電所も東京電力本社も気づかなかった。

装置のしくみを十分理解していなかったことを、中間報告は「原子力事業者として極めて不適切」と批判する。技術陣にとって、非常のための装置がどれほど遠い存在だったかわかる。

中間報告は敷地外にも目を向ける。一例は原発から約5キロのオフサイトセンターだ。拠点の役割を担えなかった。原発事故時の施設なのに「放射線量の上昇を考慮したものになっていなかった」のである。

放射性物質の拡散を予測する緊急時システム、SPEEDI(スピーディ)のデータが住民避難に生かされなかったことも当然、問題にした。中間報告によれば、政府は「SPEEDI情報を広報するという発想を持ち合わせていなかった」。住民に知らせる発想なしに、なんのためにこれに予算をつけたのか。

報告は首相官邸も批判した。省庁幹部が集まる地下の危機管理センターと、首相らが陣取る5階との連絡が互いに十分でなかったと指摘している。

見えてくるのは、大事故のときに、何をどう動かせばいいのかの知識に欠け、あたふたする東電と政府関係者の姿である。それを浮かび上がらせたことは評価したい。だが、まだ足りないところもある。

たとえば、1号機で状況把握が的確なら、早めの注水などで炉心損傷を遅らせられた可能性を述べているが、不手際や判断ミスが被害をどれほど広げたかは、はっきりと見えてこない。

そこで、来年夏の最終報告に向けて注文したいことがある。

まず、外部の知識を積極的にとり入れてほしい。委員に原子炉の専門家がいないのは、「原子力村」の論理を避けるためによいことだが、炉で何が起こったかを知るには困難もある。

もう一つは、政治家からの聴取をどんどん進めてほしいことだ。これは、SPEEDI問題の解明にも欠かせまい。

検証委員会の委員長を務める工学者畑村洋太郎さんは、失敗学の提唱者だ。その核心は、小さな失敗を調べて大きな失敗を防ぐことにある。今回の原子力災害でも、その過程にあったとみられる数々の失敗を調べ、そこから教訓を得たい。あと半年の追い込みに期待する。

読売新聞 2011年12月27日

原発事故報告 首相官邸が混乱の一因だった

東京電力福島第一原子力発電所事故に関する政府の「事故調査・検証委員会」が中間報告を公表し、政府、東電が犯した判断ミスを指摘した。

教訓を、今後の原発の安全確保に生かしてもらいたい。

とりわけ深刻だったのは、首相官邸の混乱だ。官邸が「助言」として東電に発したものは、ほとんどが役に立たず、現場に悪影響を与えたものもあったという。

原子炉1号機冷却のための海水注入を巡る混乱は代表例だ。炉心は空()きの状態で、過熱を止めるには注水が必須だったが、菅前首相が「再臨界」を懸念した。

東電本店は、首相了解なしと解釈して、すでに始まっていた海水注入の中断を現場に指示した。だが、福島第一原発の所長は、止めれば危険と判断し、続行した。

所長は「続行」を部下に指示する一方、本店とのテレビ会議では「海水中断」を宣言する芝居を演じざるを得なかったという。

原因として中間報告は、政府内の連携不足や、政府と東電の意思疎通の欠如を挙げている。

関係省庁幹部らが詰めていた官邸地下の「危機管理センター」は携帯電話が通じず、菅前首相ら首脳は「官邸5階」に陣取って独自に情報を収集し、指示を出していた。政府中枢が分断していた。

「福島第一原発を東電が放棄し、全面撤退」との誤情報に基づいて、菅前首相が東電に乗り込んだのは混乱の極みと言えよう。

中間報告は、住民避難の混乱や放射性物質拡散予測システム「SPEEDI」の情報公開の遅れも原因は同じ、と批判している。

原発事故に限らず、緊急時に政府が一丸で対応できる危機管理体制を構築しておくべきだ。

現場の対応が適切であれば、破局的な事態を防げた可能性があることも指摘されている。

1号機では、津波襲来で電源が失われ、緊急冷却装置が自動停止した。だが、現場も東電本店も作動中と誤解していた。この装置の停止を踏まえ、消火配管などから冷却水注入を急げば、炉心溶融を遅らせることができた。

原発を襲う「想定外」への備えが甘かった、と中間報告は結論付けている。政府、原子力関係者は重く受け止めねばなるまい。

中間報告は、津波到来まで重要機器が正常に作動していたことから、地震による重大な損傷はなかったとの判断も示している。

停止している各地の原発について、政府が再稼働を判断する際に考慮すべき事実だろう。

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