放射能「新」基準 食の不安の拡大防止策が先だ

毎日新聞 2011年12月24日

食品の放射能規制 子どもの安心確保を

放射性物質に汚染された食品を摂取すると体内で被ばくし、遺伝子を傷つけてがんを発症することが知られている。ただし、どの程度の被ばくなら大丈夫なのかがよくわからない。できるだけ被ばくを抑えることが望ましいが、基準を厳しくすればするほど食べられる食品が制限され、生産者への影響も大きくなる。

福島第1原発事故から9カ月。食品に含まれる放射性セシウムの新基準値が設けられることになった。厚生労働省が示した案は、1年間に食べるすべての食品の被ばく上限を現在の5ミリシーベルトから1ミリシーベルトに引き下げるという厳しい基準だ。暫定規制値はすでにあり、事故直後はそれを上回る食品が相次いだ。最近はほとんどないといっても放射性物質に影響を受けやすい乳幼児を抱える親たちの不安は解消されていない。遅ればせながらではあるが、こうした取り組みは当然だ。

現在の暫定規制値は食品を5分類し、食品1キロ当たりの許容値を野菜類(500ベクレル)、穀類(同)、肉・卵・魚など(同)、飲料水(200ベクレル)、牛乳・乳製品(同)と設定している。ベクレルは放射能の強さや量を示す単位だ。新基準は暫定規制値が同じ野菜類、穀類、肉、魚などをまとめて「一般食品」としたほか、乳児用食品、牛乳・乳製品、飲料水の四つに分類。一般食品では年代や性別ごとに平均的な食品の摂取量や放射性物質による影響度を考えて許容値をそれぞれ算出した上で、最も厳しい100ベクレルを採用した。

粉ミルクやベビーフードなど1歳未満の子が摂取する食品を対象にした乳児用食品と牛乳・乳製品はさらに厳しい50ベクレルへ。飲料水はすべての人が毎日摂取し代替品もないという理由で10ベクレルに設定した。暫定規制値の20分の1という厳しさで、世界保健機関の規制値を参考にしたという。上限である100ベクレルの一般食品などを1年間食べ続けても被ばく線量は年間の許容量を下回るという。

規制値を厳しくしてもそれが守られなければ意味がない。自主的な取り組みが難しい中小業者に配慮しながら検査漏れがないよう徹底し、国民にわかりやすい説明と情報提供に努めてほしい。

低レベルの内部被ばくの長期的な影響についてはわからないことが多い。環境省は福島県の子供の健康に及ぼす影響を胎児期から13歳まで追跡調査する。調査結果を見ながら今回の新基準値の妥当性や必要性について検討していくことも必要だ。各省庁が連携して有効な対策にすることが求められている。

未知の危険に対して国民の安心をどう担保できるかが問われているのだ。政府の姿勢や情報提供のあり方の重要性を忘れないでほしい。

読売新聞 2011年12月24日

放射能「新」基準 食の不安の拡大防止策が先だ

安心のための基準がかえって不安をあおることにならないか。政府は、慎重に対応すべきだ。

厚生労働省が、食品中に含まれる放射性セシウムの新たな規制値案をまとめた。政府内で調整後に、来年4月の導入を目指している。

今は、東京電力福島第一原子力発電所の事故直後に定められた「暫定規制値」を食品の安全確認の目安としている。新たな規制値案は、これより大幅に厳しい。

例えば、粉ミルクなどの「乳児用食品」や「牛乳」は、暫定規制値の4分の1である1キロ・グラム当たり50ベクレルだ。その他の一般食品は5分の1の同100ベクレル、飲料水は20分の1の同10ベクレルとなる。

厚労省は、規制値を厳格化するのは「安心確保」のためと説明している。具体的には、食品を通じた「内部被曝(ひばく)」のリスクが今の5分の1以下になるという。

導入後は、これに基づき出荷停止などが判断される。

しかし、規制値を厳しくすることで社会不安が高まるリスクも注意深く見極める必要があろう。

暫定規制値で十分「安全」の範囲なのに、新規制値で「超過」と判定される例が想定される。出荷停止が続発しはしないか。

現行の暫定規制値も、欧米の規制値の2分の1から4分の1程度と厳格だ。だから政府や専門家の多くは、規制値を多少超えた食品を口にしても、「危険」の域に入るのではなく心配は無用、と「解説」してきた経緯がある。

厚労省は、新規制値導入に際して関係自治体、業界にも理解と協力を求める方針だ。食品によっては、新規制値の適用時期を遅らせる「経過措置」も検討する。

新規制値に対応するには、微量のセシウムも測れる精密測定装置が要るが、直ちに準備できない業界もあるだろう。規制切り替えは時間をかけて進めるべきだ。

新規制値を検討するに当たり、厚労省は様々な食品にセシウムがどの程度含まれているか、抜き取り調査をしている。

調査によれば、全国で、暫定規制値を超えた食品は全体の1%未満に過ぎない。暫定規制値を超過した食品は原則、流通しない。

それ以下の食品でも検出例は減る傾向にある。放射性物質の特質として、セシウム量が1年後に大幅に減ることも考慮したい。

こうした状況を国民に丁寧に説明し、食の安全への正しい理解を広めることが、まず重要だ。流通過程での安全確認も、確実に継続しなければならない。

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